軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

203、竜との会話

「え、え、人に、なれるんですか!?」

巨大な竜が突然人になったことにあまりにも驚き、マルティナはつい叫んでしまった。すると竜は眉間に皺を寄せる。

『その言葉は分からん』

『あ、すみません。人型になれることに驚いてしまって……』

『なれるに決まっているだろう? 我は竜だぞ?』

竜という種族についてほとんど何も知らないマルティナはそう言われても困るのだが、相手の機嫌を損ねないようにと頷いた。

頷きながら人型になった竜の姿を上から下まで見つめるが、竜としての圧倒的なオーラはそのままに人の姿になっている。

マルティナたちよりは色の濃い肌に、長い髪は竜の鱗のようにボリュームと動きがあった。さらにあまり見たことがないような服を着ていて、たくさんのアクセサリーも付けている。

竜という種族は人型になれるのが当たり前だという事実が、マルティナの中で真実なのだろうと飲み込めた。

(この人もハルカと同じなんだよね。この世界で酷いことをしたのは事実だけど、元はと言えば無理やり召喚したのが原因で……)

マルティナはやるせない思いを感じながら、小さく深呼吸をして口を開いた。

『あなたの、お名前を聞いてもいいでしょうか』

その問いかけに竜は目を見開く。そして少しだけ口元を緩めてから告げた。

『我はカードゥディアコスという。お前たちには呼びづらい名なのだろう? ディアスと呼ぶといい』

『では、ディアス様と。――あの、以前にもこの世界の人々にお名前を名乗ったことがあるのですか?』

今までの歴史を知っていたマルティナとしては、竜と過去の人類に交流があったとは思えなかったのだ。案の定マルティナの問いかけに、竜は怒りを滲ませる。

『我を突然呼び寄せたと思ったら、危険だと殺そうとしてくる。そんなやつらに名を教えることなどあるわけがないだろう? この姿すら見せておらん。――――しかし、一人だけ例外がいたのだ』

瞳に少し悲しげな色を乗せたディアスに、マルティナは緊張しながら聞き返した。

『その例外とは……?』

『一人だけ愛した女がいたというだけだ。あいつにこの言葉も習った。ただ子ができたと聞いてからすぐに我は酷い怪我を負わされ、眠りに入ってしまったのだが――あの傷が治っているということは百年は経っているか? もうあいつは生きていないだろうか』

衝撃すぎる事実にマルティナは心臓を掴まれるような思いをしながらも、必死に会話を続けた。

『おそらくですが、もう二千年は経っています……』

その言葉には、さすがのディアスも衝撃を受けたらしい。しばらく黙ってから、やっと口を開いた。

『そうか、そんなに……お前たちはどのぐらい生きるのだったか?』

『私たちの寿命は七十年から八十年ほどです。なのでもう何十世代の子孫という形になるかと……』

『まさか、そんなにすぐ死ぬ種族だったのか。そういえばあいつがそんなことを言っていたような……では、もうあいつにも、我の子にも会うこともできぬのだな』

そう言ったディアスの声音はとても悲しげで、マルティナは感情移入してしまう。目の前のディアスが悪い存在だとは、もう思えなくなってしまった。

口を噤んでからしばらく考え込んだディアスは、何かを思いついたようにハッと顔を上げる。そしてマルティナに一歩近づくと、初めて見せた明確な明るい表情と共に告げた。

『もしや、お前は我の子孫なのではないか? それならば微かな匂いの説明もつく! 名はなんと言うのだ?』

『え、し、子孫ですか……?』

『そうだ。名は?』

『マルティナ、ですが』

マルティナは訳も分からないまま名前を伝える。すると嬉しそうな笑みを見せたディアスは、マルティナの名前を何度か呟いた。

『マルティナ、うむ、良い名だ』

それから何を思ったのか、ディアスはマルティナを抱き上げる。その瞬間にロランとサシャが動こうとするが、ディアスのひと睨みで二人は固まった。

『そこの男たちはマルティナの護衛か?』

『は、はい』

『では、我がマルティナを害することはないと伝えろ』

マルティナがその通りにすると、会話の内容が分からないロランたちは困惑している。しかしマルティナも全てを説明する余裕はなく、子供のように両脇に手を入れてマルティナを持ち上げているディアスに視線を戻した。

『あの、子孫というのは本当ですか……?』

『うむ、匂いがするからな』

『では私のお母さんかお父さんも、子孫ということでしょうか』

『うむ、そうだろう。しかし何十世代も後となると、こうして感じられるのは不思議だ。マルティナは特別竜の血が濃く出たのかもしれないな』

ディアスは自信満々だが、マルティナは半信半疑である。しかしそれによってディアスが好意的になってくれたのなら、それで良いと割り切ることにした。

『下ろしていただいても、いいでしょうか』

『うむ、構わない』

マルティナは地面に降り立ったところでホッと一息つき、そこでディアスに向かって深く頭を下げた。よく分からない流れでフランクな会話をしてしまっていたが、まずやらなければいけないことがあるのだ。

『ディアス様。二千年も遅くなってしまって大変恐縮なのですが……この世界に強制的に召喚してしまい、故郷と引き離してしまい、大変申し訳ございませんでした。私は直接ディアス様を召喚した人間ではありませんが、人類を代表して謝罪させてください。――そ、そして、とても不躾なお願いだと分かっていますが、私たちと敵対するのをやめていただけるとありがたいです。どうかよろしくお願いいたします』

最後の頼みを伝える時には、少しだけ声が震えてしまったが、マルティナは最後までしっかりと伝えた。するとその言葉を聞いていたディアスは、マルティナの前にしゃがみ込むとその顔を覗き込む。

『別に構わんぞ』

『――え! いいのですか!?』

ここまですんなりと納得してもらえると思っておらず、マルティナはつい叫んでしまった。

『ああ、もう怒りに任せて暴れるのも飽きていたところだし、マルティナと会い、ここまで時間が経ち、さすがに怒りは収まった。それに今生きるお前たちは二千年前のやつらとは違うだろう? もうこの世界に閉じ込められたことへの怒りは持たないことにする』

『ありがとうございます……!』

マルティナは強い安堵感にへたり込みそうになり、なんとか両足に力を入れた。

(ディアス様と仲直りすることに反対する人はいるかな……)

そんな不安は過ったが、それは後で考えれば良いと頭の片隅に留めておく程度にする。ディアスが世界中を蹂躙して回ったのは二千年前のことであるし、その怒りを現代で持ってる人はほぼいないのだ。

そもそも武力で勝てるはずもないのだから、仲直りするか人類滅亡の道に突き進むかの二択である。

とにかくディアスのことを大陸会議に報告しなくては。マルティナはそんなことを考えながら、視界に入った浄化石のことを思い出して問いかけた。

『ディアス様、あちらにたくさん集められた巨石はどうされるのですか? もし必要ないなら、私たちがいただいたりしても……』

『あの石か? 別に構わんぞ。好きにしてくれ』

『本当ですか!』

マルティナは嬉しさのあまり叫んでしまう。顔は喜色に染まっていた。しかしディアスにとって浄化石は本当にどうでもいいようで、すぐに話が変わる。

『うむ、それよりもマルティナは我に対して態度が固いな。子孫なのだからもっとフランクに話すといい』

ディアスは故郷と引き離されたことで家族とも会えなくなり、血の繋がりに飢えていたのかもしれない。そんなことを考えてしまったら、マルティナは頷くしかなかった。

『じゃあ、ちょっとだけ気軽に話すってことで……』

『うむ、そうしてくれ』

そこでマルティナとディアスの会話が途切れ、そこでディアスは視線をマルティナ以外に向ける。ディアスが見たのは――ハルカだ。