軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

201、提案とカルデラ湖へ

野営準備をして夕食を食べている最中、ランバートがマルティナやハルカがいる場所にやってきた。そして真剣な面持ちで口を開く。

「一つ提案があるのだが、聞いてくれるか?」

ランバートの雰囲気にマルティナは居住まいを正すと、食事を置いてから答えた。

「はい。なんでしょうか」

「今回の探索は今日の野営を終えたら、明日からは下山する予定でいた。しかし――予想していた以上に探索の進みが早く、マルティナとハルカがいてくれることのメリットが大きい。そこで、このままカルデラ湖を目指すのはどうだろうか。そこまで行って何かがあるのか、それとも何も発見できないのかは分からないが、とにかくカルデラ湖とその周辺の様子を見てから帰りたいと考えている」

ランバートの提案は慎重に吟味すべきもので、マルティナは真剣に考え込んだ。

確かにスピードが想定以上なのは誰もが納得するところである。本来であれば今日の野営はもっと山の麓に近い場所で行う予定だったが、どんどん先に進めたことで山の中腹あたりまでは来ているのだ。

カルデラ湖があるだろう山の頂上までは、遅くともあと二日ほどで着く計算になる。

「食料などは足りるのでしょうか」

「ああ、余分に持ってきてるから足りる」

「騎士さんたちの疲れはどうですか?」

「それは問題ない。そもそも今回の予定はマルティナとハルカがいるからと短く設定したんだ。普段なら一週間以上は霊峰に入りっぱなしになる」

このまま進むのに問題はないと分かると、マルティナの心は揺れた。無理をするのはあまり良くないと分かっているが、無理をしたくなるほど今の状況が魅力的なのだ。

(やっぱりハルカが参加してくれてるのが大きいよね……)

ハルカは浄化の旅に戻らなければいけないため、一度霊峰を出たらもう探索に参加することはできない。霊峰探索において、ハルカの存在はとても大きいのだ。

「……私はこのままカルデラ湖まで行きたいです。ハルカはどう?」

考えに考え抜いて、マルティナはそう結論づけた。するとハルカもすぐに賛成してくれる。

「わたしもそれがいいと思う。まだまだ体力はあるし、ちょっとカルデラ湖の様子を見てみたいと思ってたんだよね」

イタズラな笑みを浮かべてそう言ったハルカに、マルティナの頬も緩んだ。

「じゃあ、このまま行こうか」

「うん。でもマルティナの体力は大丈夫なの?」

「意外と大丈夫みたい。背負子を背負ってくれる騎士さんたちのおかげで……」

マルティナはいつも背負ってくれるガタイのいい騎士たちに視線を向けると、心からの感謝を込めて頭を下げた。

「本当にありがとうございます」

騎士たちには聞こえていないが、とても真剣なマルティナである。マルティナにとっては拝みたくなるほどありがたい存在なのだ。

「よしっ、じゃあこのままカルデラ湖を目指そう。全員にそのことを周知してくる」

ランバートがそう言って立ち上がったところで、マルティナは近くにいたロランとサシャに視線を向けた。

「……ということになったのですが、大丈夫でしょうか」

「俺たちは問題ないぜ。心配なのはマルティナだが、確かにそこまで疲れてなさそうだし……このまま行くのでいいんじゃないか?」

「マルティナさんが大丈夫なら大丈夫っす!」

二人からも肯定的な言葉が返ってきて、マルティナは安心した。

「良かったです。ではカルデラ湖まで頑張りましょう」

「そうだな。ただ途中で辛くなったら言えよ」

「俺たちもマルティナさんを背負えるっすからね!」

三人がそんな話をしている横ではハルカがフローランたち護衛と話をしていて、その日の夜は慌ただしく過ぎていった。

山の中腹より上は魔物の数が減る代わりに強い魔物が多く、さらに希少な植物なども増え、大変な探索となった。険しい道も多くなり、魔物などが生息していなくとも大変な山登りだ。

しかしそんな中でも魔法を駆使して、マルティナも知識を総動員させ、カルデラ湖を目指すことを決めた野営の日から二日目の昼過ぎ――。

マルティナたちは、ついにカルデラ湖が見下ろせる山の頂上に辿り着いていた。急な山道を土魔法などを駆使して足場を固めて安全性を高め、まずは騎士たちから頂上に立つ。

「やっと着いた……っ」

「なっ」

頂上に立ってカルデラ湖を見下ろした騎士たちは、誰もが固まって言葉もないようだった。浄化石があったのであればもっと喜んでも良いはずであるし、何もなかったならば固まる理由がない。

マルティナは不安に胸がザワザワするのを感じながらも騎士たちに続いて頂上に立ち――カルデラ湖を見下ろした瞬間、ヒュッと思わず息を呑んだ。

「っ」

緊張のあまりにダラダラと冷や汗が流れてきて、全く動けない。瞬きさえも躊躇うほどの緊張感が場を支配した。

なぜなら――そこには竜がいたのだ。

朽ちていない竜である。死体ではなく生命力を感じ、よく見ると竜は息をするように僅かに動いていた。

(竜は、生きてたの……? 今この瞬間に起きたり、そんなわけ、ないよね?)

マルティナは混乱してしまい、思考がまとまらない。そんな中でも必死に目の前の光景を目に焼き付けた。

巨大なカルデラ湖から少し離れた場所に、とても美しい鱗を持つ巨大な竜が丸まるように寝ている。鱗の色は黒に見えるが、一色ではなく濃い紫や青のように見えるところもある。とても綺麗で美しい色合いだ。

そしてそんな竜の周りには――浄化石があった。数え切れないほどの数だ。苔が生え、蔦が巻き付いているが、浄化石であることはすぐに分かる。

(カルデラ湖が竜の棲家だってことは、正解だったんだ。でもまさか生きてる竜がいるなんて、どうすれば……)

これでは最終目標である浄化石の回収をすることも叶わないだろう。近づこうとは思えないほどの威圧感を、ただ寝ている竜から感じるのだ。

しかし竜が生きていると分かった以上、そのまま放置しておくこともできない。いつ目が覚めるかも分からず、万が一目覚めてまた世界を蹂躙されてしまったら、今度こそ人類は滅亡へと足を踏み入れることになるかもしれないのだ。

マルティナは絶望感を覚えながら、必死に冷静さを保とうと唇を噛み締めた。すると固まっていた騎士たちが、小さな声で会話を始める。

「生きてる、のか?」

「数千年前とかの話じゃ……」

「動いてる、よな?」

騎士たちは冷静さを取り戻したから話しているのではなく、あまりの恐怖に誰かと話さなければ耐えられなかったという雰囲気だ。

厳しい鍛錬を積んでいる騎士たちだが、その声音は僅かに震えている。

(とにかく、今はここから離れよう。少し山を下りたところで、皆で話し合いを……)

マルティナがそう考えながら深呼吸をして、意を決してランバートたちの方を振り向こうと顔を上げた、まさにその瞬間。

「グォォォォォォォォッッッ!!」

世界中に響くのではないかという竜の咆哮が、マルティナたちに直撃した。

竜が――目を覚ましたのだ。