軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

196、霊峰探索軍の状況

森から出てすぐに騎士たちと合流できたマルティナたちは、かなり焦っていた騎士たちに怒られたり謝られたりと忙しく過ごしつつ、すぐに王宮へと戻った。

ルイシュ王子が上手く騎士たちには瑕疵がないと丸く収めたことで、数時間の行方不明騒動はすぐに収束する。

そして王宮に戻って数日後。マルティナは霊峰のカルデラ湖が怪しいという情報をサディール国王に報告した。さらに霊峰探索軍にもその情報はすぐに届けられ、軍はカルデラ湖があるだろう山の上を目指して探索の方向性を一本に絞ったようだ。

今までは全く奥に行けないという報告しか上がってこなかった霊峰探索軍から、急にスムーズに奥を探索できるようになったという報告もきているため、エルフたちが協力してくれているのだろう。

これで霊峰探索軍は上手くその役目を果たせるかもしれない。浄化石を発見できるかもしれない。朗報を期待しつつ、マルティナは変わらずに霊峰に関する書物を読み進めていたのだが――。

「苦戦してるんだ」

本日のマルティナはルイシュ王子とではなく、ナディアとシルヴァン、それからロラン、サシャと共に昼食をとっていた。その席でナディアが、霊峰探索軍の現状を教えてくれたのだ。

「ええ、そのようね。ある一定の深度までは上手く探索が進んだようなのだけれど、そこから先は強くて未知の魔物が多く、植物なども危険なものが判別できない状況で進みがとても遅くなっているそうよ。いちいち何冊もの図鑑や、図鑑にもまとまっていない日記のようなものを捲りながら調べて進んでいると聞いたわ。それでも情報が得られないことも多いとか」

霊峰の植生や魔物の分布はかなり特殊なので、様々な地域の騎士たちが集まっている霊峰探索軍でも、未知のものに多く遭遇するのだろう。

マルティナは霊峰に関する書物をたくさん読んでいたので、その状況が容易に思い浮かんだ。

(私もサディール王国で読んだ書物で、初めて知った植物や魔物が結構あったもんね……特に奥に行けば行くほど未知のものが増えるのかな)

そして現状書物から読み取れる情報を総動員させたとしても、未知のままである植物や魔物がいることも容易に想像できた。

なぜなら霊峰は、ずっと手付かずの土地だったから。何百年もほとんど人が入っていないのだ。植生などの研究が進むはずもない。

マルティナは霊峰植物図鑑を読んだが、あれも個人が趣味で作ったようなものだった。他に霊峰の植物や魔物に関する記述があった書物も、それをメインに研究しているというよりも、たまたまその情報を得られたから記録しておいた程度のものだ。

「霊峰を研究してる人たちは?」

サディール王国に霊峰の研究者がいることを思い出してマルティナが問いかけると、ナディアは首を横に振りながら答える。

「何人か探索に同行してくれているようだけれど、結局は図鑑を捲ることになっているらしいわ。皆さんの研究は霊峰の伝承や歴史などがメインだとか」

伝承や歴史を研究していた者では、霊峰の植物や魔物について的確な助言をするのは難しいだろう。

(せめてあの『霊峰植物図鑑』を書いた人が協力してくれたらいいけど、どこの誰なのかも、そもそも今生きている人なのかも分からないからね……)

霊峰には足を踏み入れないのが当たり前だったとしても、サディール王国がその植生や魔物分布などの研究だけでもしていたら良かったのだろうが、今更言っても仕方がないことである。

マルティナは意味のない考えは振り切って、これからどうするべきなのか考えた。しかし良い解決策が思い浮かばないでいると、眉間に皺を寄せたシルヴァンが口を開く。

「そのうち、マルティナが呼ばれるかもしれないな」

シルヴァンの表情は受け入れたくないが受け入れなければいけないと葛藤しているような、そんな険しい表情だ。

「確かに、あり得そうだわ」

ナディアも同じような険しい表情で同意を示した。

マルティナがいたとしても全ての未知が既知に変わるわけではないが、少なくともいちいち図鑑や書物を持ち運んで捲るという手間は省けるのだ。それだけでかなり時間短縮になるだろう。

マルティナはそろそろ王宮にある霊峰関係の書物を全て読み終わるところであるし、そうでなくとも現在残っている書物は霊峰探索にはあまり役立たなそうな書物ばかりであるので、今すぐにでも霊峰探索に参加が可能だ。

もちろん戦闘に関しては素人のマルティナが参加することでデメリットもあるだろうが、メリットと天秤にかけた時にメリットに大きく傾く可能性は高かった。

「あり得るのかな。私は霊峰の奥まで歩いていける気がしないんだけど……役に立つよりも迷惑をかけちゃわない?」

自分の知識が役立つのであれば協力したいが、体力面がどうしても不安なマルティナである。

「危険かどうかよりもそっちの心配なのか?」

少し呆れた表情で告げたロランに、マルティナは少し首を傾げながら本心で言った。

「はい。霊峰に入る怖さはあまりないです。ロランさんとサシャさんがいますし……」

その言葉にサシャはニカッと笑顔になり、ロランは少し照れている。

「もちろんマルティナさんのことは守るっす!」

「まあ、そうだな」

二人の言葉にマルティナは満面の笑みを浮かべた。

「ありがとうございます。もし霊峰探索に参加することになったら、よろしくお願いします。……ただ安全は確保されたとしても、私の体力面の心配はなくなりませんよね」

そんなマルティナの呟きに、少し呆れたようなシルヴァンが答えた。

「心配する点が少しズレている気もするが、確かにマルティナの体力は底辺を這っているからな……もっと健康のためにも体を鍛えたほうが良いという話はさておき、今回はいくつか方法があるだろう。途中までは馬に乗っていける可能性もある」

霊峰の中を馬で進めるという話に、マルティナは目を見開いた。

「道のようなものができているのですか?」

それに答えたのはナディアだ。

「もちろん本格的なものではないけれど、マルティナを運ぶ小柄で身軽な馬ならば中に入れるぐらいの道は確保しているのではないかしら。報告書を読んだ限りは馬という選択肢も取れそうだったわ」

「あとは背負子とかもあるだろう」

シルヴァンが提案した背負子に、マルティナは微妙な表情になる。さすがに背負子で背負われるのは申し訳ないというか、子供みたいというか、少し抵抗があったのだ。

しかしマルティナは小柄で軽いので、体が大きい騎士が交代で背負子というのは、現実的な策と言えた。それをマルティナも分かっているので、微妙な表情で頷く。

「どんな形でも、私の体力のなさをカバーしてもらえるのはありがたいです。もし霊峰に行くことになったら頑張ってきますね」

気負いなくそう告げたマルティナに、シルヴァンが少し躊躇ってから口を開いた。

「――十分に気をつけて、無理はしないように」

マルティナを心配しているシルヴァンのその言葉に、全員の表情が生温かいものになる。誰もシルヴァンを揶揄ってはいないのだが、そんな表情に気づいたらしいシルヴァンが一気に耳を赤くしながら叫んだ。

「その顔をやめろ……!」

そして照れ隠しなのかいつもより少し乱暴な仕草で食事を口に運ぶ。もぐもぐと咀嚼して飲み込んでから、また口を開いた。

「早く食べなければ冷めるぞっ」

口にものが入った状態で叫ばないのは、さすが貴族子息である。

「そうっすね!」

「美味しいうちに食べちゃいましょうか」

「そうだな」

「そうね」

そうして食事の時間は、いつも通り穏やかにすぎていった。マルティナは美味しくて楽しい時間を過ごしながら、霊峰探索に参加する前に読んでおきたい書物について考えていた。