軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

161、巨石の正体は

「何かあったか?」

マルティナの呼びかけにすぐこちらに来てくれたランバートは、そう問いかけた。

「アレットさんも巨石の移動に手を貸してくれるそうですので、騎士さんたちと一緒によろしくお願いします。それから事前の打ち合わせ通り、私が最前で巨石の設置を見守る形で問題ないでしょうか」

前回のように魔法陣が浮かび上がったり、何か別の変化があった場合、それを見逃さないためにもマルティナは最前で今回の検証を見守る予定なのだ。

事前の打ち合わせでは危険だという反対意見も出たのだが、何か反応があるのは最初だけかもしれない。一度設置したら取り外せないかもしれない。などと様々な事情を考え、最終的にはマルティナがしっかりと記憶する方向で決まった。

「ああ、それで問題ない。マルティナの護衛はサシャとロランがいるが、それ以外に五人ほど追加で付ける予定だ。そこは許容してほしい」

「もちろんです。ありがとうございます」

マルティナがすぐに受け入れると、ランバートは納得するように大きく頷いて、アレットに視線を向ける。そして二人で浄化石の移動に戻ってしまった。

そんなランバートたちを見送ってから、マルティナは次に官吏たちへと目を向けた。

今回の検証は国王からの指示でマルティナが中心として動くことになってしまったので、参加者それぞれに目を配るのも仕事のうちなのだ。

「ナディア、準備の進みはどう?」

ちょうど手が空いてそうだったナディアに声をかけると、ナディアはマルティナに振り返って笑みを浮かべる。

「そろそろ準備ができるわ」

「そっか、良かった」

マルティナが完全に記憶できるため、記録係はいらないのではないかという議論もあったのだが、マルティナ一人に頼りすぎるのは良くないため通常の記録も行う。

この方針には、マルティナも大いに賛成していた。

それからも皆と打ち合わせをしつつ準備を進め――ついに、浄化石が本物かどうかを確かめる時がやってきた。

マルティナは最後にもう一度還元石と、その近くにある拳大の球状である白い宝石を見つめる。台座の役割を果たす白い宝石は地面に露出しているが、全てを掘り出してしまった場合の弊害が怖いため、表面が露出する程度で留めてある形だ。

「では、お願いします」

マルティナの声掛けに従い、白い台座の近くに横たえる形で置かれていた浄化石だろう巨石を、アレットと数人の騎士たちが持ち上げた。

絶対に巨石を割らないように、慎重に移動させていく。

張り詰めたような緊張感が辺りを満たした。替えの利かない巨石を扱っていることへの緊張感と共に、設置と同時に何かが起こるのではないかという未知への恐怖もあるのだ。

「もう少し先に進め。アレット、台座を踏むなよ」

「了解」

ランバートの声掛けによって、皆が動く。

一つも見逃さないようにと瞬きすらしていないマルティナと、緊張の面持ちで巨石に対して最大限の警戒を向けるロランとサシャ。

官吏たちも巨石の移動には携わっていない騎士たちも。誰もが息を止めているのかというほどの状態だ。

そんな中で巨石を、台座の真上にしっかりと立てた状態で移動することに成功した。あとはアレットと騎士たちが下ろすだけだ。

「ゆっくりだ。少しずつ下ろしてくれ」

ランバートの声掛けに皆が頷いた。もし巨石の設置によって何かが起きたら、一番危険なのはアレットと巨石の移動係に選ばれた騎士たちである。

この場にいる者たちの中で近接戦闘が特に得意で身軽な者たちが選ばれているが、即死級の何かが突如として発生したら終わりだ。

誰もがその可能性を頭の片隅に置きながら、巨石は下ろされ――。

キィィーーーーーーーーンッ!

以前に還元石を戻した時にも聞いた、金属を擦り合わせたような甲高い音が響いた。それと同時に還元石と浄化石が同時に光り始める。

「退避だ!!」

ランバートの叫びに、アレットと騎士たちは一斉にその場を離れた。その間にも光は強くなっていくが、今のところ害はない。

マルティナは恐怖心を忘れ去ることに決めて、必死に還元石と浄化石の変化を凝視した。ぼんやりとした光が少しずつ収縮していき、二つの石のちょうど真ん中あたりに集まる。

そしてその光が――パアァァァッと勢いよく広がった。光が形作ったのは、浄化石と還元石を繋げるような形の巨大な魔法陣だ。

魔法陣は特殊な形をしていて、ちょうど二つの石を真ん中で半分に切るような、そんな形で存在している。普通の魔法陣と違って一つの円形である魔法陣だけではなく、魔法陣に小さな魔法陣が付属していたり、魔法陣の外側と内側が逆方向に回転し続けていたり、とにかく異質な魔法陣だ。

マルティナが必死に見つめて、全てを記憶すると――しばらくして魔法陣は消えてしまった。

しかし、還元石と浄化石の中心を通るように回る光だけは、そのまま残されている。

「これは、成功ですね」

マルティナの呟きに、歓声が上がった。

「やったな!」

「これ、本当に浄化石だったのか」

「凄いことだ!」

マルティナは皆の興奮を聞きながら、安堵のため息を吐く。何か危険なことが起きなくて良かったし、正しく浄化石であって良かったし、浄化石が壊れたりしていなくて良かった。

いくつもの良かったで、体の力が抜けそうになる。

そんなマルティナの肩を、そっとロランが支えた。

「大丈夫か? 倒れそうだぞ」

「すみません……大丈夫です。なんだか安心してしまって」

「これで大きな一歩っすもんね!」

サシャの言う通りである。地下の研究室から持ち帰った巨石が浄化石であるならば、他の浄化石が竜の棲家だったという霊峰にある可能性が一気に高まるのだ。

つまり、霊峰を探索して浄化石を取り戻せば、瘴気溜まりの問題は解決するかもしれない。

「マルティナ! さっきの魔法陣はどんな意味だったんだい!?」

瞳をこれ以上ないほどに煌めかせたアレットの突撃に、マルティナは笑みを浮かべる。

「さっきの魔法陣は全て記憶しましたが、結構難しくて時間をかけて読み解く必要がありそうです。ただこの辺り一帯の生命を守るものであることは確実ですね。さらに先ほど設置した巨石が浄化石であることも」

マルティナはそこまで説明してから、以前に還元石を台座から外してしまった時の魔法陣を思い出した。あの時は魔法陣が宙に霧散してしまうような形だったが、今回は二つの石に吸い込まれるような、そのまま保持されるような形だった。

つまり前回の魔法陣は警告のような意味があるもので、今回の魔法陣は二つの石が設置されたことによる効果などを表しているのかもしれない。

(その方向で読み解いたらすぐに内容が分かるかも)

マルティナは早く王宮に戻って魔法陣を読みたいとうずうずし始めた。

「あの一瞬で全部記憶するなんて、本当に天才だね!」

そう言って大袈裟にマルティナを褒めるアレットの下に、シルヴァンとナディアもやってくる。

「早く帰って報告しなければいけないな」

「そうね。戻ったらすぐ大陸会議になるでしょう。その準備でも忙しくなるわ」

「うん。皆さん、ここからまた頑張りましょうね」

マルティナのその言葉に全員が笑顔で頷き、マルティナたちは帰還の準備を進めた。そして、なんの問題もなく王宮に戻った。