作品タイトル不明
158、報告と今後
ハーディ王国の王宮に戻ったマルティナたちが、迷いの古代遺跡の全容と研究室に保管されていた情報について全てを報告すると、ハーディ国王はそのあまりの貴重さに大きく目を見開いた。
「なんと、そのようなものが我が国にあるとは……」
「父上、これは我が国だけで独占していてはいけません」
隣で同じく報告を聞いていた第一王子のサーフェルンがそう進言する。
「もちろん分かっている。元々他国からの援助を受け入れる代わりに、得た情報を共有する約束だ。しかし……我が国でそれらの資料を保管しておきたいのも事実だな。また安易に動かせば、紛失のリスクも高まる」
そこで言葉を止めて考え込んだ国王は、真剣な表情で顔を上げた。その場にいる皆――ハーディ王国の上層部とラクサリア王国から来ている調査団の面々をぐるりと見回し、はっきりと宣言する。
「我が国は迷いの古代遺跡から発見された資料全てを写本し、写しを大陸会議に提供することを決定する。そして発見された浄化石と見られる宝石に関しては、今後浄化石が新たに発見された場合、我が国が最優先でその所有権を得られる権利と引き換えに、無償で大陸会議に提供する」
その二つの決定はハーディ王国の目先の利益だけを考えていたら、到底すぐには口にできないものだ。
情報を共有すると約束していたとしても、今までの大陸会議で行われてきたように、必要な部分のみを口頭で共有するという方法もある。
世界全体のことを考え、さらにこれから先のことを長く考慮した上での決定には、一部の貴族たちが不満そうな表情を浮かべた。
しかしハーディ国王はそれを視線だけで黙らせ、隣にいるサーフェルンに声を掛けた。
「サーフェルン、お前は迷いの古代遺跡から発見された情報と共に、ラクサリア王国へと戻るように。浄化石の所有権についてなど、契約は全て任せる。我が国の代表として頼んだぞ。そして聖女ハルカ様のことに関しては、私に任せておけ」
「はっ、お任せください。国のため、平和のために尽力してみせます」
サーフェルンの言葉に頷いた国王は、次に……マルティナへと視線を向ける。
「マルティナ嬢」
「は、はいっ」
突然の指名に、マルティナの声は少しだけ裏返った。
「皆が写本を進める中、君は研究所にあった資料を読むと良い。君がたくさんの知識を得ることは、世界の平和へと直結するだろう。改めて今回の遺跡探索への尽力、感謝している」
ハーディ国王からの突然の褒美に、マルティナは思わず固まってしまう。そしてあの研究室の資料を読み放題という現実が認識できたところで、「国王陛下大好きです!!」と叫びそうになり、慌てて口を押さえた。
「うぐっ……か、感謝申し上げます。全力で平和のために頑張ります」
なんとかヤバい言葉を叫ぶのは我慢して、マルティナは真面目な表情で陛下へと応えることに成功した。
しかし、どうしても緩んでしまう口元は隠せていない。
そうしてマルティナが大失態をギリギリで回避したハーディ国王への報告は終わり、さっそくマルティナたちは迷いの古代遺跡に戻るための準備を進めることになった。
今回はサーフェルンとハーディ王国側の官吏たちも一緒だ。
「マルティナ、あまりにもだらしない顔よ。私のメイク術でも隠しきれていないわ」
今日のマルティナのメイクを担当したナディアの言葉に、マルティナは歌い出しそうな勢いでスキップしながら上機嫌に答えた。
「えへへっ、だって資料を全部好きなだけ読んでいいんだよ? なんて素晴らしい日々が待っているんだろう!」
うっとりと研究室内を思い出しているマルティナの背中を、シルヴァンが少し強めに押す。
「早く歩け。研究室内にはたくさんの本があったと聞いているが、それらを全て書き写さなければいけないのだ。十中八九、研究室内の本は私たちが理解できない言語で書かれているだろう? それらを書き写すには、普通の写本よりも時間がかかるぞ。早く仕上げなくては、いつまでもラクサリア王国に帰れない」
「はい! すみませんっ」
素直に謝って歩き出したマルティナに、シルヴァンは怪訝な表情だ。
「機嫌が良すぎて気持ちが悪いな……」
そうして皆で慌ただしく準備をしたおかげで、マルティナたちはすぐに迷いの古代遺跡にほど近い街へと戻ってきた。
今回はできる限り写本をする人数を確保しようということで、ラクサリア王国の外交官たちも全員が一緒だ。サーフェルンとその側近、さらに官吏も多数いることから、そこまで時間はかからずに写本は終わるだろう。
「皆、資料を傷つけぬよう最大限に配慮して、しかし素早く仕事を終えるぞ」
「はっ」
そうしてマルティナにとっては幸せすぎる日々が、他の者たちにとっては緊張から疲労の溜まる日々が始まり――。
これ以上ないほどの成果をあげたマルティナたちラクサリア王国の面々は、サーフェルンらハーディ王国の代表団と共に、ラクサリア王国の王都王宮へと戻った。