軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

124、出会った女の子

会議室を出たマルティナは、護衛のロランとサシャと共に、中庭を散歩していた。悩んでいる時は少し歩く方がアイデアが出たりするのだ。

「それにしても、まさか向こうがあんな態度だとはな」

「びっくりしたっすよね〜」

「私も予想外でした。どうすればいいのでしょうか……」

マルティナは先ほどの顔合わせを思い出した。

(根本的な問題は、ハーディ王国側の遺跡探検家の人たちが私たちの能力を全く信じてないことと、その上で成果を取られるのに嫌悪感を示してることって感じかな)

ハーディ王国の遺跡探検家たちは、今回の調査が共同探索となった理由として、ラクサリア王国の官吏であるマルティナの力を借りたいからだと説明を受けている。

そしてマルティナの能力についても、ハーディ国王や第一王子からしっかりと話を聞いているのだが、完全記憶能力など話に聞いただけで信じられるわけもなく、碌に信じていないのが現状だ。

「多分さっきの探検家たちは、俺たちが無理やり遺跡探索に入り込んできたと思ってるんだろうな。大陸会議もラクサリア王国で開かれたし、ハーディ王国がラクサリア王国に従ってるとでも思ってるんじゃないか?」

ロランの予想に、マルティナは納得しながら頷いた。

「その可能性はありそうです。無理やり共同探索にされて、送られてきたのが私みたいな若い官吏となると、あんな態度になるかもしれませんね……」

「いや、それにしてもあの態度は酷いっすよ」

「まあ、普通は表面上だけでも取り繕うもんだよな。それにマルティナは全く普通の官吏じゃない」

「そうっす! マルティナさんは本当に凄い人っすよ」

ロランとサシャが怒ってくれているのをありがたく思いつつ、マルティナはこの事態の解決に一番有効なのは、自分の能力を理解してもらうことだという結論に達した。

では、どうすれば理解してもらえるのか。何かの本を覚えて見せたらいいのか、それとも遺跡にまつわる知識について議論したらいいのか、記憶した風景を絵に描き起こしたらいいのか。

どれを選ぶべきかと悩んでいたら……マルティナの耳に、誰かの泣き声が聞こえてきた。ハッと顔を上げると、ロランとサシャも聞こえたらしい。

「子供か?」

「そう聞こえますね。向こうです」

警戒しつつ、さらに子供であれば怖がらせないようにとゆっくり近づくと――生垣に隠れるような形で小さな女の子がしゃがみ込んで泣いていた。まだ八歳ぐらいに見える子だ。

「どうしたの? 大丈夫?」

マルティナが声をかけると、女の子が涙を流しながら三人を見上げた。

「ひっく……っ、」

「お名前は言える? 迷子かな」

王宮の中庭にいるということは、王族だろうか。ただそれにしては服装がとても簡素だ。使用人の子供か、出入りの商人の子供が誤って入り込んでしまったか。

そんなことを考えながら、まずは立ち上がってもらおうとマルティナが手を差し出すと――マルティナの目に、赤い発疹が映った。

服の隙間から見える女の子の胸元には、たくさん赤い点が見える。

「その症状……」

マルティナがそう呟いた瞬間、泣いていた女の子の体がぐらっと倒れそうになった。咄嗟にマルティナが手を伸ばして、女の子を受け止める。

「大丈夫!? 凄い熱……」

女の子の体はかなり熱く、症状が酷いことが一目で分かった。マルティナは焦りながら、女の子の素性を聞く。

「あなたはどこの子なの? お母さんやお父さんは王宮にいる?」

「お父さん、が、来てくれるよ……ここで頑張れば、病気が治るからって。でも私、寂しいの。お家に帰りたいよ……」

苦しそうに浅く呼吸をしながら、眉間に皺を寄せて声を絞り出した。そんな女の子に、マルティナの表情が苦しそうに歪む。

(こんなに小さな女の子が苦しんでるなんて。なんですぐに治してあげないんだろう。この病気を知らない? それとも薬がないのかな)

「おい、そのお父さんはなんの仕事をしてるんだ? 従者か? それとも料理人か?」

ロランが焦れたように問いかけると、女の子は僅かに笑みを浮かべて職業を教えてくれた。

「お父さんはね、探検家なの。たくさん冒険のお話、聞かせてくれるんだよ……?」

自慢のお父さんなのか、少し得意げな女の子が元気ならば可愛らしいのだろうが、今はなんだか胸が痛くなる光景だった。

探検家という職業から、マルティナは調査団の中にこの子の親がいるかもしれないと推測する。

「お父さんのお名前は分かる?」

「うん。ギード、だよ」

ギードとは、ハーディ王国の調査団でリーダーを務めていた男だ。つい先ほどまで、マルティナたちと険悪ムードになっていた。

「あいつか……」

ロランが僅かに顔を顰める中、マルティナは女の子に笑みを向ける。

「そっか。教えてくれてありがとう。お姉ちゃんたち、ギードさんの仕事仲間なの。これからあなたをお父さんのところに連れて行くね」

「う、ん……あり、がと」

そう言って安心したように微笑んだ女の子は、こてんと気を失ってしまった。それに三人は慌てふためく。

「え、大丈夫!?」

「これ、ヤバくないっすか!?」

「と、とにかく早く女の子を移動させよう。なんでこんな状態で中庭にいるのか知らないが、ベッドに寝かせるべきだ」

「そうですね。まずは誰でもいいのでハーディ王国の人を捕まえて……」

そうして今後の動きを急いで決めた三人は、一番力のあるサシャが女の子を抱き上げ、皆で足早に建物の中へ戻ることになった。