作品タイトル不明
第76話 伝書鳥と報告書
冒険者ギルドで依頼達成の報告したルクスとラエティティアは、屋敷に戻ってきた。
談話室にやってきた二人を迎えたのは、ベネディクトゥスだった。
「おかえりなさい、ルクス様、ラエティティア」
「ただいま、ベネディクトゥス」
「ただいま戻りました、お父様」
「ルクス様にお届け物ですよ」
ベネディクトゥスは黒いベルベットの布に包まれた分厚い荷物と手紙をルクスに渡した。
「これは?」
「商人ギルドからのお手紙と、三ヶ月ほど前にご依頼いただいた件の報告書ですね」
「……ああ、分かった。ありがとう、ベネディクトゥス」
「どういたしまして」
「じゃあ、ラエティティア、また後で」
「はい、また後でお会いしましょう、ルクス君」
「では、ラエティティア、今日の依頼はどうだったか、父に教えてくれるかい?」
ベネディクトゥスはそう言って、優しい笑みを浮かべた。
「はい、お父様」
ラエティティアは嬉しそうに父ベネディクトゥスに話し始めた。
その楽しそうな会話を背に、ルクスは自室に戻っていった。
「さてと、まずは手紙に目を通すか」
ルクスは自室で手紙を確認した。
手紙の差出人は商人ギルドの特許部部長ディーター・バルテルだった。
契約を締結する日時を一週間後の二十九日十時とさせて欲しい、という旨が記載されていた。
ルクスは了承の返信の手紙を書いて、窓を開けた。そして、指笛を鳴らした。
庭から飛んできたのは、ルクスの使い魔である陽光鳥のソルだった。
ルクスは丸めた手紙を専用の筒に入れて、ソルの首元に括りつけた。
「商人ギルドのディーター・バルテルさんに届けて欲しい」
ぴよよ!と鳴いてソルは頷き、窓から飛んでいった。
前回、ディーター・バルテルに会ったときにソルはルクスの肩に乗っていたので、ディーターのことをソルはきちんと認識できているようだ。
(伝書鳩ならぬ、伝書鳥だな……)
しばらくして陽光鳥のソルが揚々と飛んで戻ってきた。
窓枠に着地したソルに括りつけた筒を取ったルクスは中に羊皮紙が丸められたものが入っていたので、取り出した。
それはディーターの返信の手紙だった。
内容は手紙を受け取ったことと、一週間後の二十九日十時開始に決定した旨が書かれていた。
ルクスはソルを労うべく、アイテムボックスからブドウを三粒取り出し、ソルに与えた。
ぴよよー、と鳴きながらソルはブドウを平らげた。満足げにソルは翼でお腹を撫でた。
ルクスはその様子にほっこりしつつ、もう一つの荷物──黒いベルベットの布に包まれたブツを確認することにした。
中身はグラジュスの影の報告書だった。
隣国の様子と戦争について詳細が書かれている。
長年、和平を保ってきた隣国が何故戦争を起こすに至ったか、その理由も。
(ふむ……、代替わりで好戦的な若者が王となり、戦争が起こった……ベネディクトゥスの読み通りだったな)
報告書には、アルヒ王国が優勢で、そろそろ隣国はギブアップするだろうという内容が書かれていた。
隣国は敗戦国となり、アルヒ王国に多額の賠償金を支払うか属国になるだろう。
属国になる場合、隣国の王族は全員斬首の刑に処されるだろう。
不穏分子はなるべく消しておくのが定石だからだ。
グラジュスの影が探った情報を統合すると、隣国は属国にはならず、多額の賠償金を支払うだけで済むだろう。
血の気の多い好戦的な若い王は不慮の事故もしくは急な病でこの世を去る予定らしい。
くわばらくわばら、と思いつつ、ルクスは背凭れに身体を預けた。
ぴよ、ぴよよ!
大人しくしていたソルが唐突に鳴き始めた。しきりに扉の方に顔を向けて、鳴いている。
「どうした?ソル」
ぴよよ、と何かをルクスに訴えるようにソルは鳴く。
コンコン
とノックの音が響いた。
「どうぞ」
「失礼します、ルクス君」
入ってきたのはラエティティアだった。近づいて来るラエティティアの肩に白い鳥が乗っている。
「ラエティティア、もしかして……」
「はい、孵化しました。月光鳥です。ルクス君」
ラエティティアはそう言って、月光鳥を優しく手で包み、陽光鳥であるソルの元に置いた。
「良かった。無事に産まれて良かったね」
「本当に」
「ところで従魔契約はできた?」
「あ、そうでした」
「じゃあ、手伝うよ」
「ありがとうございます、ルクス君」
ラエティティアと月光鳥は難なく従魔契約を交わした。
「わ」
「どうしたの?」
「呪術を取得したと『神様のお知らせ』に書いてあります」
この世界の住民はホログラムウインドウのことを『神様のお知らせ』、はたまた啓示と捉える者もいた。大体はお知らせだと思っている住民が多い。
「うん、契約は呪術の一つだからね」
「まあ、そうなんですね。私でも呪術が使えるなんて、変な感じです……」
「まあ、悪用しなければ大丈夫だから」
「はい、悪用なんてしませんわ」
「うん、大丈夫だよ。……さあ、月光鳥に名前を付けないと」
「そうですね……では、ルーナが良いと思います。古代ウェトゥム語で『月』という意味です」
「いいね、君も嬉しいかい?」
ぴよよ!と月光鳥のルーナは嬉しそうに鳴いた。
「気に入ってくれたみたいで良かったです」
ラエティティアはほっと溜息を吐いた。
「うん、ラエティティアが大事に魔力を込めて育てて孵化させたんだ。ラエティティアが付ける名前なら何でも喜ぶよ」
「まあ、ルクス君ったら」
自分をダシにしてイチャつくルクスとラエティティアを見て、ルーナが呆れたような目をしていたというのは、陽光鳥のソルしか知らない。