軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第74話 特許と芋とスキルスクロール

ドラゴンの顔が刻まれた黒い石の扉があった。

誰も到達したことのない、閉ざされた扉の向こうには、天井が高く、薄暗い部屋が広がっていた。

部屋の奥に、人族とは比べ物にならないほどに大きなモンスターが 鎮座(ちんざ) している。

穏やかに眠っているモンスターは、真っ黒な鱗と、角や牙、爪を持つ爬虫類のような身体と 蝙蝠(こうもり) のような翼を持つ黒龍だ。

その眠りを妨げる者が現れることを、今は知らない黒龍は、まだ、夢の中。

国月(マルクト) (十月に相当)二十一日、ルクスはすっかり忘れていた特許権のライセンス契約について話を詰めるべく、商人ギルドにやってきていた。

特許部の部長ディーターと応接室で顔を合わせたルクスは、謝った。

「遅くなってすみません」

「いえいえ、ライセンス契約を結ぶ相手ですからね、慎重に決めた方が良いですから」

「(この前、話を聞いた後に決めたとは言えない)……ありがとうございます」

「それで、二つの商会はどうでしたか?」

「堅実で、良いと感じました。良ければ、二つとも契約したいのですが……」

「ありがとうございます。では、ライセンス契約の契約書に目を通していただけますか?」

「はい」

まだ特許権の使用を許諾する側と許諾される側のサインがない契約書にルクスは目を通した。

「大丈夫です」

「ありがとうございます。では、後日、二つの商会の代表者と、ルクス様にお集まりいただいて契約を締結する場を設けますので、日取りが決まりましたら、お知らせしますね」

「分かりました」

「以上となりますが、ご質問はありますか?」

「いえ、ないです」

「かしこまりました。では、入口までお見送りしますね」

「はい、ありがとうございます」

ルクスはディーターに見送られ、商人ギルドを後にした。

冬の気配が近づいてきた晩秋である 礎月(イェソド) (十一月に相当)五日の昼下がり。

ルクスたちは枯れ葉を集めていた。

「枯れ葉を集めろって、ルクス、何をやるんだ?」

先日奴隷から解放されたアランは堂々とルクスを呼び捨てにしている。

「だね、何をするの?ルクス」

バートもまた堂々と呼び捨てにしていた。

「焼き芋だよ」

「やきいも?」

「うん、枯れ葉で火を熾して、芋を焼くんだよ」

「まあ、素敵です、ルクスさ、君」

ラエティティアは解放されてから、ルクスに呼び捨てで呼んで欲しいとお願いされ、折衷案で『君』付けで呼ぶこととなった。未だに呼び慣れていない様子だ。

「芋を焼く……素晴らしい思い付きだね、ルクス」

クラーラは呼び捨てに全然抵抗がない。

「よし、これくらい枯れ葉があれば良いよね、【灯火】」

ルクスは生活魔法で枯れ葉に街で購入した二十個の炭を入れて、火を点けた。

同じく生活魔法の送風で火を燃え上がらせた。

「芋は入れないのか?」

アランが尋ねた。

「うん、熾火……残り火で焼くんだ」

あっという間に枯れ葉は灰となり、残り火が炭のところに残る。

ルクスは水で濡らした和紙を巻いたサツマイモを取り出して、火の近くに置き、灰を被せ、じっくりと焼く。

「今のが芋?」

バートはルクスに尋ねる。

「うん、濡れた和紙を巻いてるんだ」

「なんか、大きさがジャガイモと違うような……」

「うん、隣国から来た行商人が売ってたんだよ。ジャガイモと違って甘くてお菓子みたいな芋だよ」

「へぇ、それは楽しみだね」

「あ、そうだ、折角だから大人たちも呼ぼうか」

ルクスが屋敷に戻ろうとすると、ラエティティアが止めた。

「待ってください、ルクス君。屋敷には私たちしかいませんわ。ですから、大人の皆さんには後でお渡しした方が良いかと……」

「え、誰もいないの?」

「はい、ヴォルフさんとアデリナさんは買い出しに、お父様はお母様のお買い物に付き合ってます。風任せと自由気ままと人それぞれの三パーティーは、ダンジョンにおりますし……」

「まあ、俺たちだけで食べてもいいかもね」

「えっと、芋は二十五本あったように見えましたので、私たちだけでは食べきれませんわ」

「あー、美味しいから、お腹に入っちゃうかもしれないよ?」

「まあ!ルクス君ったら、冗談が上手です」

「ははは」

確かに二十五本のサツマイモを子供五人で食すのは難しいな、とルクスは思っていた。

その後、あまりの美味しさに、子供組五人でサツマイモ十本を平らげてしまい、大人組の間で争奪戦が勃発するとは、思ってもいないルクスだった。

礎月(イェソド) 十五日、すっかり寒くなってきた頃。

ルクスはいつものように黄金の導の仲間たちと共に冒険者ギルドにやってきた。

「ルクス君、こんにちは、指名依頼が来てるよ」

ルクスに声を掛けたのは、フリッツだった。

「指名依頼、ですか?」

「うん、そう、フィルツ薬屋のエルナさんからだね」

「エルナさんですか」

「どなたですか?」

ラエティティアが小声でルクスに聞いた。

「前にゴブリンに襲われてたのを助けたんだ。そのご縁」

「そうなんですか」

小声でこしょこしょ話す二人を、フリッツは生暖かく見守る。

「あ、指名依頼の内容をお聞きしても?」

「うん、小妖精の涙が欲しいんだって。たぶん、アスター君とルクス君たちが一緒にいるのを見たんじゃないかな?」

「なるほど……、アスター」

アスターがバートのフードからひょいと飛び出した。因みに、アスターの幼馴染であるシアーシャはラエティティアのローブのフードの中でお休みしている。

「なに? ルクス」

「小妖精の涙が欲しいって薬師の人がいるんだけど、アスターのお父さんからもらった涙を渡してもいいかな?」

「んー。悪用される危険性は?」

「ない、とは言い切れないけど、エルナさんは信用できる人だと思う」

「ふーん……いいよ~」

「いいのか?」

「涙はルクスへの贈り物なんだし、ルクスが良いと思ったら、渡しても大丈夫」

そう言ってアスターはバートのフードの中に戻った。

「そういうわけなので、指名依頼受けます。依頼の品は直接届けに行っても大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ、その場合は、この依頼書にサインをもらってね」

フリッツがルクスに小さな羊皮紙の依頼書を渡した。

「分かりました。……俺一人で行った方がいいんでしょうか?」

「ううん、指名依頼だけど、大丈夫だと思う。エルナさんって、あんまり気にしないタイプだし」

「分かりました。じゃあ、皆、行こう」

「「はーい」」

黄金の導は、商人街にあるフィルツ薬屋に向かった。

「な、なんかお化けが出そうな雰囲気だな」

フィルツ薬屋に着くや否や、アランが言った。

「うん、俺も最初そう思った」

「僕、帰りたくなってきた」

「まあまあ、そう言わずに」

ルクスはバートの腕を掴んで笑顔のまま、フィルツ薬屋に入った。

「ごめんくださーい」

「あら、ルクス君、久しぶり!後ろの子たちはお仲間さん?」

「お久しぶりです、エルナさん。はい、彼らは仲間ですよ」

「こんにちはー。俺はアランです」

「バートです」

「クラーラ」

「ラエティティアと申します」

「はーい、ご挨拶ありがとう。私はエルナです。よろしくね」

「あの、エルナさん、指名依頼しましたよね?」

「うん、そう。ごめんね、ルクス君、ルクス君が小妖精の子と一緒にいるのを偶々見かけてね。どうしても必要だから、依頼しちゃったの」

「いえ、何に使うか聞いても良いですか?」

「そうね。石化治癒ポーションを作るためなの。お婆ちゃんの顧客にお偉いさんがいて、どうしても石化治癒ポーションが欲しいってことで依頼されたらしいの。でも、小妖精の涙は滅多に出回らないから、悩んでて……そのとき、私がルクス君と小妖精の子が一緒にいるのを見かけて、指名依頼したってわけ」

「なるほど。分かりました。これが小妖精の涙です」

瓶いっぱいに入った小妖精の涙をルクスはエルナに渡そうとした。

「ちょ、ちょっと待って。そんな量の小妖精の涙を渡されても、支払いできないよ。ちょっと待ってね」

エルナは奥の部屋に引っ込んで、空き瓶と小さな木のスプーンを持って、戻ってきた。

「この空き瓶に 一匙(ひとさじ) だけ入れるわ」

「あ、はい」

エルナは小妖精の涙を一匙掬い上げ、空き瓶に入れた。

「よし、ありがとう、ルクス君」

「いえいえ、じゃあ、この依頼書にサインをお願いします」

エルナは依頼書にサインと評価段階とコメントを記載した。評価段階はSSS。コメントは『とても満足しています』と記載されている。

「おや、エルナ。お客様かい?」

「おばあちゃん、ルクス君とお友達が来てるの、この前話してた小妖精の涙、持ってきてくれたのよ」

「おやまあ!本当かい?ありがとうね、ルー坊」

「いえ、どういたしまして」

「そうだ、ルー坊や、スキルスクロールって知ってるかい?」

「えっと、存在は知ってます」

「そうかい、ちょっと待っていなさい」

エルナの祖母アメリアは店の奥に向かい、暫くして、丸まったスクロールを持って、戻ってきた。

「冒険者ギルドの依頼料は金銭しか受け付けてくれなくてね、依頼が達成されたら、後で届けようと思っていたのさ」

アメリアはルクスにスクロールを渡した。

「どうして、俺に、これを?」

「エルナからルー坊の話が出た時に返礼はこれが良いって何故か思ったのさ、もしかしたら、神々の思し召しかもしれないね」

「そうなんですね……」

ルクスはいつもの癖で鑑定した。

【『テイム』のスキルスクロール】

モンスターを従魔にすることができるスキルを覚えられるスキルスクロール。

滅多に手に入れることができない。

ルクスはアメリアを見上げた。

「ありがたく頂戴します」

「役立てておくれ」

「はい」

ルクスはテイムのスキルスクロールをアイテムポーチにしまった。

「じゃあ、俺たちはこれで」

「あら、何か買って行かないの?」

「ポーションは……必要になったら買いに来ます」

ルクスは自身のスキルである調薬を磨くため、よく調薬をしていて、中級治癒ポーションが山のようにアイテムボックス内で眠っている。最後の手段のエリクサーもあり、ポーションに関しては、そこまで心配していないのだ。

「うん、了解。じゃあ、ルクス君、みんな、頑張ってね」

「無理せず頑張るんだよ、坊やたち」

「「はーい」」

全員元気に返事をして、手を振ってフィルツ薬屋を出た。