作品タイトル不明
第104話 卒業
リヴァイアサンが現れるというトラブルがあったが、修学旅行は、概ね問題なく終えることができた。
王都に戻ってきた四年S組は和やかにお喋りしつつ、男子寮や女子寮に入っていった。
男子寮の十一号室に戻ってきたルクスたちを迎えたトマスはほっとしたような顔をしつつ、口を開いた。
「おかえり、みんな。伝言を預かってるんだけど……」
「内容は?」
「あー、ルクス君とシルウェステル君とエクトル君、それから十五号室のバート君、女子寮のラエティティアさん、レヴァナさん、全員で集まってから学園長室に来て欲しいそうだよ」
「「分かった」」
「了解」
三人は荷物を置いてから、バートを連れて、女子寮のラエティティアとレヴァナを呼んで、合流し、学園長室にやってきた。
「やあ、よく来たね。さ、座ってくれ」
学園長シルウァヌスが彼らを歓迎した。
席に座った彼らの前に、学園長の秘書らしき男が淹れたての紅茶を置いて行った。
「ベルムマレでの活躍、教師たちから聞いたよ。皆、よく頑張ったね」
シルウァヌスの暖かい微笑みを見て、シルウァヌスの労りの心がルクスたちにも伝わってきた。
「……やるべきことをしたまでです」
実はリヴァイアサンをテイムしたとも言えないルクスはどう応えるべきか分からず、当たり障りない返事をした。
「うん、でも、誰にでもできることではない。リヴァイアサンはドラゴンのような伝説の海の怪物だ。それを倒してしまえたルクス君は英雄と呼べる。リヴァイアサンが起こした大きな津波を消した君たちもそうだ。ラエティティアさんは神級魔法、バート君とシルウェステル君、レヴァナさん、エクトル君は超級魔法を使ったと報告を受けている。このことも誇るべき偉業だ。……君たちは学生という枠に納められる生徒ではない。ということで……」
じゃーん、と言って学園長シルウァヌスは六枚の羊皮紙を机の上に広げた。
「卒業証書を授与するよ」
「「!?」」
ルクスたちは目を丸くし、驚いた。
机に置かれた羊皮紙には、確かに卒業証書と記載されている。
「いいんですか?学園長」
「いいんだよ。英雄をこの狭い学園に閉じ込めておけないさ」
「……ありがとうございます」
「どういたしまして。それと、君たちの卒業パーティーをしたいんだけど、いつがいいかな?」
ルクスたちは小声で相談し合う。すぐに希望の日程を決めると、ルクスが回答した。
「来週の 理月(ビナー) の二十一日でお願いします」
「分かった。放課後に行うから、その日の夕方には学園に来て欲しい」
「「はい」」
「一応、礼装が好ましいけど、制服で参加しても大丈夫だからね」
「「分かりました」」
「はい、固い話はここまで。雑談でもしようか」
またか、とルクスたちは内心思いつつ、学園長とベルムマレの話をすることとなった。
理月(ビナー) (七月に相当)二十一日。
夕方になって、ルクスたちは学園にやってきた。ルクス・ラエティティア・バートはヘレナが用意した礼装を纏い、エクトル・シルウェステル・レヴァナは自前の礼装を纏っている。
校舎の大広間はルクスたちの卒業パーティーのために飾り付けられ、楽団らしき一団が大広間の一角で楽器を奏でている。
集まっている生徒たちの前に学園長シルウァヌスが出てきて、口を開いた。
「今日、この良き日を迎えられたこと、心より嬉しく思う」
シルウァヌスは微笑みを浮かべて、語る。
「皆もよく知っているだろう、ベルムマレを救った英雄たちのことを。彼らは学園の生徒でありながら、民間人とベルムマレを守り、リヴァイアサンを打ち倒した英雄だ。そして、今日、彼らはこの学園を卒業する。一度、前に出て来てもらおうかな?」
シルウァヌスはルクスたちにウインクして名を呼んだ。
「ルクス・フォン・シュトラウス君。シルウェステル・アルヒ君、エクトル・フォン・ネーフェ=シュトゥーベン君、レヴァナ・フォン・リーデルシュタイン=ローデンヴァルト君、ラエティティア・ヴィンター=アルノルト君、バート君。どうぞこちらへ」
皆、仕方なく前に出た。
「皆、この学園を卒業する六人の英雄に拍手を!!」
わー!という歓声と共に割れんばかりの拍手が大広間に響いた。
「では、最後に英雄である君たちと、未来ある少年少女に伝えたい」
シルウァヌスは一呼吸置いて、大広間に響く声を上げた。
「少年少女よ、大志を抱け。大きな夢や希望、何でも良い。人として守るべき道──道徳から逸れぬ夢ならば、何でもだ。大きければ大きいほど、夢や希望を叶えることは難しくなる。でも、いつか、その夢を叶えられたならば、君たちは、人生に真なる意味を見出せるだろう」
以上だ、と言って、お辞儀をしたシルウァヌスに、大きな拍手が送られた。
「さあ、皆、パーティーを楽しんでくれ!」
シルウァヌスの一言で皆、動き出した。
ある者たちは英雄たちのもとに向かったり、ある者は意中の相手にダンスを申し込んだり、またある者は食事を楽しんだり、談話を楽しんだりしていた。
楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていった。
「ルクスー」
「アラン!クラーラさん」
二年B組に所属しているアランとクラーラがやってきた。
「先に卒業するとは……、流石はルクスだな!」
アランは笑っている。
「アランも早く卒業してよね?」
「あー実はな、この前の課外授業でクラーラと一緒に脅威度が高いモンスターを倒したんで、四年生に飛び級するのは決まってるんだ」
「そうなの?」
ルクスはクラーラに聞いた。
「うん、間違いない」
「おい、なんで、俺が言ったことをクラーラに聞いてるんだ?俺ってそんなに信用ないの?」
「うん」
「おい」
「あはは、ごめん、 揶揄(からか) っただけだよ」
「はあ」
アランは盛大な溜息を吐いた。
「また飛び級して、すぐに卒業してやるからな」
アランは握り拳を作って宣言した。
「楽しみにしてるよ、アラン」
ルクスは微笑んだ。
卒業パーティーは和やかなムードの中、寮の門限である二十二時前には終わりを迎えた。
生徒たちはぞろぞろと寮に戻っていく。
卒業生であるルクスたちは王都にある自宅およびタウンハウスに戻るべく、学園前に停まっている馬車に向かった。
「じゃあ、ルクス君、エクトル君、バート君、ラエティティアさん、いつか、また」
シルウェステルは名残惜しそうに、馬車に乗らずにいた。
「うん、またね。シルウェステル。さ、早く帰りなよ。夜は危ないんだから」
ルクスはそう言って、シルウェステルの背を押して馬車に乗せた。
レヴァナはさっと、馬車に入ってシルウェステルの隣に座った。
「ありがとう、ルクス、みんな」
シルウェステルは万感の思いを込めて、感謝を口にした。
「私からも、シルウェステル様を、私のことを受け入れてくれて、友達でいてくれて、ありがとう」
レヴァナは、今までの感謝を込めていつもより饒舌だった。
「うん、俺も友達になってくれてありがとう、シルウェステル、レヴァナさん」
ルクスはそう言って微笑んだ。
「「ありがとう」」
バートはえぐえぐ泣いている。エクトルとラエティティアもつられて涙ぐんでいた。
「じゃあ、帰るよ!みんな」
そう言ってルクスは馬車に乗り込んだ。バートとラエティティアも後に続く。エクトルは別の馬車に乗った。
シルウェステルとレヴァナは王族の馬車、エクトルは公爵家の馬車、ルクスとラエティティア、バートは伯爵家の馬車に乗って、それぞれ別方向に帰っていった。