作品タイトル不明
壁破壊二キ、周囲の視線が気になる
――無事に到着した? ゆっくり休んでてね。
――うん。大丈夫です。
朝日からの短いメッセージにそう返信した後、影山は出かけた。
(朝日ちゃん、心配してくれているな……)
タワーマンションの隣に、体育館にあるような半円形の屋根をした建物がある。
そこはここの契約者ならば無料で使っていい、トレーニングルームならしい。
しかも個室型で、1人で黙々と鍛錬が出来る。
エゴサした後、影山は昼間から個室に入った。
白い床と壁の、1人でやるには十分な広さの室内。
さすがに頑丈な人形や的はないので射撃訓練はできないが、配信できない分、今日はひたすら鍛錬しようと考えた。
それに体を動かしていた方が、気分が落ち着く。
「ふっ、はっ!」
ぶん、ぶんっ! と個室内に、空気を斬る鋭い音が響く。
ガンブレードは銃と剣の性質を同時に兼ね備えているため、使いづらい。
だからこそ基本の素振りをおろそかにせず、動きを体へしみこませる必要があった。
射撃もドライファイア(※空撃ちして、フォームなどを練習すること)で何度もイメージトレーニングをしていく。
マガジンを素早く、正確に切り替える練習もストイックにこなした。
「はあ、はあ……疲れた」
タオルで汗を拭きながら、壁に背を預けて吸わる。
ネオファン制作の服は、影山の体をひんやりと冷やした。
どういう仕組みなのか、暑い時は冷えて体をクールダウンさせてくれるのだ。
逆に寒い時は、服が熱を帯びて体を温めてくれる。
ダンジョン産素材ならではの仕組みならしい。
普通に購入したらウン百万はする代物だ。
「何時だろ」
お腹が空いていた。
携帯で時刻を確認すると、18時を過ぎている。
「ご飯食べにいこう」
併設されているシャワールームで体を軽く洗った後、影山は外へ出た。
☆
「お兄さん! すみません、ちょっといいですか!」
「……え?」
突然、道端で声をかけられた。
振り向くと、20代後半ほどのスーツ姿の青年が名刺を差し出してくる。
そこには、誰もが知る芸能事務所の名前が書いてあった。
(え、俺が? なにかの間違いじゃ……)
「もしよければ、そこの喫茶店で――」
「さよなら」
「は、はやっ!?」
影山は反射的に、無駄のない動きで逃げた。
追われていないことを確認し、近くのファミレスへ入る。
路上スカウトなんて、疲れがたまった気分だ。
「いらっしゃいませ~。何名様ですか?」
「1人……」(ボソボソ)
案内したバイトの女の子は、頬を赤らめていた。
カウンターの奥からも、ひそひそ声が聞こえる。
「ねえ、あの人イケメンすぎない?」
「芸能人? スタイル、やば……」
「声もめっちゃ良くない? 無理……好き……」
影山は席で小さくなる。
(最近、より顔が変わって、さらに目立つようになったな……)
レベルアップによる容姿変化には個人差がある。
しかし影山はその辺りの反応が良いようで、レベル9へ上がった時、さらなるイケメン化が進んだ。
もはや男性アイドル級の顔立ちになっている。
スタイルも、ダンジョン攻略と鍛錬の積み重ねで整っている。
斜め前の女子大生二人組が、こちらをチラチラ見ては小声で盛り上がっていた。
本来なら嬉しいはずだ。
だが、影山にとっては落ち着かない。
(そろそろ顔、隠した方がいいかも)
ダンジョン配信者として知名度も上がってきている。
それに住居侵入がもう起きているのだ。
自意識過剰ということはないだろう。
このままでは、日常生活に支障が出る。
メガネ、サングラス、マスク、帽子。
そのあたりの購入を検討し始めた。