作品タイトル不明
幕章「元上司、壁破壊二キの住所を晒す」
『888888』
『やったああああ!』
『二キ様、無事でよかった~><』
『ヒヤヒヤしたぜ……』
『二キの推し、見てくれてるかな』
『二キの想いが届くように、みんなで拡散しようぜ!』
『もっとバズれ~~~!』
(二キさん……ありがとう……)
ドローンで影山を引き上げながら、朝日はモニターの前で涙をにじませた。
自分の夢は叶わなかった。
未練もずっとあった。
どこか自分の気持ちに、整理がつかなった。
だけど今は、新しい夢がある。
はっきりと、次の目標へ心を向けられた。
(こんなに眩しい人を、推さずにはいられないよ。サポートしたいよ)
散った夢の欠片を拾い集めるように、代わりに影山が輝いている。
コメント欄は祝福と興奮であふれ、画面の向こうの彼は誰かの希望になっていた。
朝日にとっても、希望だ。
(大好きだよ)
引き上げられた影山が、地上へ戻った。
しかしダメージの蓄積した体は、倒れてしまう。
「うぅ……」
『壁破壊二キ!?』
『やばい』
『救難信号を送らないと』
「じ、実はさっき、もう救難信号は出してます! 二キさんには申し訳ないですけど!」
『いや、それはナイス』
『早く誰か来て~~~><』
『大丈夫。ユーマが向かっている』
『え、ユーマ?』
丘の上。
そこに、ソロで駆けつけた1人の若い青年がやってきた。
彼は倒れた影山よりも――つい、インパクトがすごすぎて、大きく穴の開いた地面へ目を向けた。
「うおおおおおっ!!! デケー音したと思ったが、なんじゃこりゃああああああああああ!?」
『まあ、そうなるよね……』
『ビックリな光景である』
『てか、マジでユーマやん』
『ネオファン同士の共演、胸熱すぎる』
『元ネオファンキング』
『昔はバズっていた男』
『男性ダンジョン配信者元トップ』
『なお、今は……』
『あ……(察し)』
「って、おおおおおい! 音声機能で聞こえてんぞ、こら! 誰が元ネオファンキングだ! 今もだっつーの!」
そして倒れた影山を見つけ、青年は駆け出す。
「って、んなことしてる場合じゃねーか。オレが救助するから、二キのファンは安心しな!」
影山と同い年の、活発とした雰囲気の男であった。
赤色のツンツン髪で、黒のジャケットと黒いズボンをはいている。
倒れた影山へ近づいた後、ポーションをかけて治療をする。
意識がわずかにある影山は、うめきながらも礼を言った。
「ありがとうございます……」
「このくらい当然だって。あと、俺ら同い年だから、タメでお願いしてーな」
「???」
あまり他の配信者を把握していない影山が、なぜ自分を知っているのかと不思議そうにする。
そんな彼へ向けて、青年は人懐っこい笑みを浮かべた。
「同じネオファン所属のユーマだ。よろしく!」
☆
「探索者への暴言行為。協会から正式にクレームが来ている。あなたのせいで会社のイメージは地に落ちた。降格処分だ、反省しなさい」
影山の元上司は、上層部から徹底的に怒られ、肩を落として退勤した。
しかし駐車場に戻るや否や、怒りを爆発させる。
「クソッ……クソッ! あのチー牛が!!!」
協会からのクレーム。
さらには、態度が悪かったことにより、他企業からの苦情もきている。
録音データを提出した企業もあるらしく、次は降格処分では済まない可能性すらある。
「調子に乗りやがって。なにがネオファンだ!」
元上司はなにもかもが気に入らなかった。
チー牛とバカにしていた男が、ネオファン所属でチヤホヤされているのが、面白くない。
切り抜き動画やライブ放送で、女性ファンと思われるコメントが騒いでいるのも、イライラする。
元上司は現在、婚活中だ。
しかし年収と年齢で、フられまくっている。
婚活市場は厳しかった。
「いや、待て……そうだ……」
にやり、と元上司は笑う。
車を走らせ、向かっていく。
影山の住所――彼が住んでいる、アパートへと。
「へへへ。有名配信者の住所特定、拡散っと」
元上司はご丁寧にも、影山が部屋へ入るところまでをカメラで撮影。
そしてそれらの画像を、SNSへ投稿した。
――【速報】壁破壊二キの住所、完全特定!【ダンジョン配信者】
「はっ! ざまぁみろ。お前の人生は終わりだ!」