軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

夜色の鎖

夜色の鎖

ムツキの正門に群れ集う輝士や兵士達は皆、早々に去ってしまった主賓のいた方を見つめ、ただ呆然と立ち尽くす。

一年という時の枠においても、滅多にその姿を見せることのないサーサリアは、残された唯一の王族という特異な称号を有する。その王女と間近に接することの出来るこの機会に、溜め込まれた期待は行き場を失い、辺りに騒然とした空気が漂い始めていた。

密やかな話し声は複数に折り重なり、一定の大きさを超えた瞬間、洪水のように溢れ出した。

「なんだったのだ、いまのは」

「殿下が倒れられた……と?」

「いや……寸前まで軽やかに歩いておられたが……」

城内へ姿を消したサーサリアは戻ってくる気配はなく、集団の視線は自然、この場でもう一人、不自然にその身を隠した若い従士長のいた席へと関心が移る。

「はっきりと見たぞ……殿下はお倒れになられてなどいない。たしかにあの男に――」

言葉は鎖――繋ぎ、結び、重さを持って底へと垂れる。

紡いだ鎖は輪を成し、他の輪へと連なる。

意思を帯び、鉄鎖は揺れる。その度に鎖はがしゃりと不快な音を奏でる。

「ありえない、サーサリア様こそは東地で唯一絶対のお方……それがあんな……」

「いやしかし、聞いたことがある。あの従士長、アデュレリア領内で殿下を身を挺して守った従士であるとか」

「あの若さで従士長だ、その話が事実なら大いに納得のいく特進といえる。しかしだとすると先ほどのあれは――」

敷き詰められた絨毯の道の上、アスオン・リーゴールはただ呆然と立ち尽くし、去って行った王女の後をじっと見つめていた。そうしていると、避けようもなく人々の話声が絶え間なく耳に届く。

「いったい何者だ」

「明らかに北方の趣があるが、面立ちはどこか東地の民のようでも……」

「あのジェダ・サーペンティアとよく行動を共にしております。その、公子の態度がなんというか、まるで件の従士長に従属しているかのようで――」

「ばかな、見間違いにちがいない――」

四方八方、会話はとりとめもなく繰り広げられる。初め、その趣旨は王女についての話が占めていたが、いつのまにか、話題の中心は王女からの抱擁を受けた男の方へとすり替わっていた。

「彩石を持つ屈強な南方人の傭兵を連れているだろう。あの従士長が雇い主だそうだが」

「さきの戦いでも、狂鬼の横やりでうやむやとなっているが、あの男の隊の戦果は著しいと聞く。単身、森からアガサス重輝士らを救出したことも、運に恵まれただけと思っていたが、間違っていたかもしれない」

「まだ多くの噂があるぞ、私が聞いたのは南方でかの有名な武将を――」

交わされる言葉の応酬、その過程でアスオンは彼らの帯びる気が、明らかに変化していくのを察した。

シュオウ――その名を持つ若き隻眼の従士長。彼にまつわる噂話は密かに、しかし多く語られていた。が、その内容はあまりにも物語じみたものばかりであり、ついた尾ひれの上にさらに幾重にも創作が盛り込まれたような、ありがちに暴走した武勇伝にすぎないと多くの者達は思っていた。しかし――たった一つ、サーサリア・ムラクモというこの国で最も高貴な血を持つ人間が起こした行動により、これまでの話に、改めて信憑性を論じる隙間が生じたのだ。

「まさか、残された唯一の王族が、あのような輩に――」

「やめておけ、軽はずみなことを言えば身を危うくするぞ」

「推察の通りであれば由々しきこと。だが、うまく利用できれば、殿下にお近づきとなれる好機を得られるやも」

「いまさら……そのために一介の平民に媚びを売れと? あまりに見え透いている」

「一部の者達が、身内を森から救出されたことへの礼のためと、あの従士長へ贈り物を渡したと聞いていたが、今から連中に便乗するという手も」

連なり重なる声のなか、切れ間にふと暗い色を含む声が、

「……しかし、惨めなのはあのリーゴール親子だ」

自らのことを指す言葉が耳に届き、アスオンは密かに肩を震わせた。

「華々しくサーサリア様を出迎えたものの、まるで意に介された様子もない。めかしこんで整えた服も髪も、こうなってはただただ無様なだけだ」

「あの家は汚い。直前まで殿下の来訪を隠し、自分達だけが万全に支度を調えていた。戦場に身を置く我らは片手で持てる程度の献上品の用意すらできなかったのだぞ」

「戦場でもそうだ、子息の重輝士は他を見捨て自分だけがまっさきに逃げた。は――司令官代理など、よくもくだらん役を仕立ててくれたものだ」

口汚い悪口も、この喧噪に紛れて届くことはないと踏んでいるのか。

アスオンは周囲を見渡した。見た先、全員と視線が重なり、そしてすぐに彼らは目をそらす。口元は下がって歪み、その表情は軽蔑や嘲笑を秘めているように感じられた。

拳を握り、顔を落とす。寒々と肩に凍えるような感覚が走る。

目の前で起こった事が、未だ理解できない。

ムラクモを統べる未来の王、サーサリアを出迎えるはずだった。

――僕は。

この設けられた場の主役が誰であったのか、言わずとも皆が知っている。アスオンは自身に主役と肩を並べる程度の役割が当てられていることを自覚していた。がしかし、現状は思い描いていた結果とはまるでかけ離れている。

なにをやっても、ひとより上手くこなしてきた。他者を率いる立場にあり、未来を嘱望され、その事を自身で疑うことなく生きてきた。

アスオン・リーゴールはまさに、主役として相応しい生を送ってきた。なのに、まるで今は台詞もなく舞台に佇むだけの端役をあてがわれたような――

「――スオン」

激しさを増し続ける喧噪のなか、自らの名を呼ぶ声に、必死に耳を傾けた。次に聞こえた言葉が耳元すぐ側から聞こえ、ようやくそれが母であるニルナの声であることを知る。

「アスオンッ、こんなところでなにをしている」

脂汗が滲む額をこすり、アスオンは顔を上げぬまま、ニルナに向けて言葉を発した。

「申し訳、ありません。ですが、あ、足が、動かないのです……」

微かに震えを帯びた膝を見て、ニルナははっと息をのむ。

高らかに解散を指示する司令官の命令が告げられ、アスオンは両脇を抱えられつつ、その場を後にした。

肌に痛みとして感じられるほど、周囲からの視線は終ぞ途切れることはなく、耳に届く声のなかには、その醜態をあざ笑うような音も混じりはじめていた。

一方的な解散が告げられ、王女のために集った出迎えの集団は帯びた熱をそのままに、思い思いに散っていく。

ぞろぞろと去って行く人々のなかで、アイセ、シトリ、クモカリの三人はその場から動くことなく立ち尽くしていた。

「見ちゃった……」

小さく言ったクモカリへ、アイセは瞬きもせず頷き、

「私も……見た、なにか見てはいけないものを……」

ギチギチとぎこちなく首を回すシトリは、至極真剣な顔をして、

「ね……これから王女様を、あの女って呼ぶことになるの?」

「ばかッ」

アイセはシトリの頬を摘まみ上げる。ふにゃふにゃと柔らかい頬の肉は、たいした痛手も受けた様子もなく、白い餅のようによく伸びる。

サーサリア・ムラクモは易々と恋敵として認定していいような相手ではない。がしかし、

――睨まれた?

サーサリア王女がシュオウの懐へ飛び込む寸前、寒気がするほどの負の念が込められた視線をたしかに感じたのだ。そしてその顔は、まるで恋に我を忘れた――ときおりシトリが見せるような切実で狂気を含む――女の顔をしていたようにも思えてしまう。

ぶるる、と巨体のクモカリが肩を震わせ、

「やだ、なんかさっきのを思い出したらゾクゾクしてきちゃった。先のことを考えると怖くなってくるから、もう考えるのはやめ。仕事に戻りましょ」

クモカリにつられるように、アイセも密かに肩を震わせた。

「あんなでっかい狂鬼を一人でやっつけちゃうような人なんだものね」

クモカリのその言葉は、会話というよりも自身で答えを用意して一人で納得するための呟きであったが、アイセも無言で同意する。

シュオウはすでに英雄的な行いを幾度もこなしてきている。いまさら、一国の姫から想われるくらいの事があったとしても、まるでおかしい話でもない。が、さすがに相手が悪い、と思わずにはいられない。

大国の王位が約束されたサーサリア・ムラクモは、ある意味、上層界で生きていくうえで、狂鬼や戦よりもよほど大きな影響力を有する存在なのだ。

去って行くクモカリを見送り、アイセはシトリの腕を引っ張った。

「部屋へ戻るぞ」

シトリは踏ん張って抵抗し、

「いやッ――すぐにシュオウのところに――」

アイセは力まかせにシトリを引きずり、

「今日はやめておけ、下手に近寄らないほうがいいッ」

「なん、でッ」

「なん、でもッ」

腕力で勝るアイセは有無を言わせずシトリを引っ張り続けた。やがて抵抗を諦めたシトリが、自主的に歩き出す。

二人の足取りは、酷く重かった。

シュオウの腕を取って引きずるように歩くジェダの顔色は、普段の白さに青みを加え、彼には珍しく狼狽した心の内を隠すことなく晒していた。

シュオウはほとんど駆けるようなジェダの歩速に黙って合わせて移動していた。

ジェダの拘束に抗うのは簡単だったが、ちらと覗く必死な横顔には、有無を言わせないと感じさせるほどの迫力がある。形相は必死である。

蹴破るように扉を開き、ジェダは私室へ駆け込んだ。

「おかえり、な……さ……」

笑んで迎える言葉を、ジュナは言いかけて引っ込めた。

ジェダはようやくシュオウから手を離し、壁に背を預け、荒れた呼吸を繰り返した。

ジュナは柔らかな表情を消し去り、

「なにかあったのでしょうか。もしかして、王女様のお出迎えでなにか……?」

と、シュオウへ問いかける。

シュオウは、ばつが悪そうに後ろ頭をかき、首を傾げて曖昧に返事を濁す。

「まあ……」

息を整えたジェダが額の汗を拭い、

「あったさ、とんでもない事が――」

その真剣な眼差しに、ジュナは喉を鳴らし、続く言葉に耳を傾ける。ジェダの話をすべて聞き終えて、しかしジュナは口元を手で押さえ、愉快そうに笑った。

「笑い事じゃないよ」

眉をひそめるジェダへ、ジュナはなおも堪えきれぬ笑声を零す。

「だって凄い顔をして入ってくるから、もっと大変なことが起こったんじゃないかと思って」

あくまでジェダは真剣な顔を崩さず、

「王家は絶対の存在だ。この国に神はいないが、それに等しい石はある。個人差はあるが、貴族のなかにも王家に命を賭けて忠誠を誓う者達がいる。さっきの事でそういう連中に睨まれれば、戦場で背中を警戒しながら戦わなければならなくなるんだぞ。まったく、面倒なことに――」

ジェダはジュナへ語り始め、最後にはシュオウを強く凝視していた。なぜか叱られた子供のような心地となり、シュオウは口を引き結んで視線を逸らす。

「お前が席を確保したから一番前に立てと言ったんだろ」

シュオウが言うと、ジェダは目を尖らせ、

「予期出来ていれば対策も打てたさ。情報が不十分だったんだ、もっと詳細に話を聞かせてくれていたら――」

パン――と、始まりかけた口論をジュナの手を叩く音が横やりを入れた。

ジュナはおもむろに顎を上げて鼻を鳴らし、

「ちょっといいでしょうか」

とシュオウへ手招きをした。

シュオウがジェダと一瞬目を合わせると、ジェダは怪訝な顔で肩を竦める。

呼ばれるまま身を寄せたシュオウ。ジュナはその服を掴み、ぐいと強引に引き寄せる。顔をシュオウの胸のほうへ寄せ、鼻を鳴らした。

シュオウにとって、嗅がれるという行為には特殊な経験と記憶が付きまとう。思わず身を固くし、肩に力を込めた。

ジュナはあどけない笑みを浮かべてシュオウを見上げ、

「いい香り――古木の樹皮からつくられる特殊な香水です。前に嗅いだものよりも、もっとずっと上等な物のようだけれど」

ジェダが無言でシュオウに顔を寄せ、静かに匂いを嗅ぐ。何も言わず、黙したまま部屋の隅へ移動する。伏せた顔からは、表情を知る事はできない。

ジュナは掴んでできたシュオウの服の皺を伸ばしつつ、

「この香水、外に出回るような物ではないと思います。特別なもの、替えのないもの――」

顔を上げ、

「――本当に、サーサリア様の強い想いを感じます。短い一瞬の間に、しっかりと香りがすり込まれていますし」

そう言って、ジュナは戯けた表情をしてみせた。

「はあ――」

ジェダがこれ見よがしに溜息を吐いたその時、

「人が、来ます――」

どこからともなく、リリカの声だけが部屋の中に響いた。

ジェダは、はっとして虚空を見つめ、

「誰だ」

「親衛隊、アマイ様」

爆ぜるように部屋の外へ出て行くジェダ。がっしりと閉められた扉から、言葉はなくとも一人で対応する、という彼の意思が伝わってくる。

「あの――」

ジュナに声をかけられ顔を向けると、彼女の手の平が顔を目がけて伸びてくるのが見えた。一瞬戸惑いつつも、吸い寄せられるように膝を曲げ、細く白い手の平へ顔を近づける。

ジュナの手の平が額にそっと当てられた。ひんやりと冷たい感触に心地の良さを感じ、シュオウは目を閉じて深く息を吐き出した。

ジェダが部屋の外へ飛び出るとすぐ先の方から親衛隊を統べる長、アマイの姿が目に入った。

アマイはジェダに気づくと、細い目を一瞬綻ばせ、足を止めて一礼した。

「閣下とお呼びすべきでしょうか、アマイ隊長殿」

ジェダの言葉にアマイは吹き出して笑い、

「そこまで敬われるのは悪い気はしませんね。ですが、あまり大仰な呼び方は避けていただけると助かります」

無意味に近い社交辞令を交わし、ジェダはアマイへ問いかける。

「王女殿下の到着早々、指揮を執られるあなたが、いったいどんな用向きでこちらへ」

「失礼ながら、用があるのは君ではなく、とある青年についてでしてね」

「シュオウ……ですか」

ジェダの言葉に、アマイは口元だけで微笑して頷いた。

「姿を探しても見当たらず、情報を集めるに、どうやらあなたに連れられてこちらの方へ向かった、という情報を得まして」

ジェダは眼光鋭くアマイを睨めつけ、

「それよりもまず、式典での事を正式に抗議します」

アマイは驚いた様子で眉を上げ、

「ああ……いや、そのことについては、管理すべき私の考えが甘かったために起こったことで、大変申し訳ないとしか。ですが――そのことをあなたから言われるとは、少々意外に思います」

白々しい、とジェダは内心で吐き捨てる。

アマイは官吏として、北方と通じる外交任務をこなしていた時期がある。ターフェスタで起こった一連の事件については当然、しっかりと把握しているであろうし、そのうえ自身が仕える王女の思い人の現状について、必須の事として調査を重ねているはず。

この男は現状をよく理解したうえで、シュオウに起こった事に抗議するジェダに対し、まるで寝耳に水であるかのようなふりをする。

「彼は僕が指揮する部隊の所属です。用件があるのであれば後で正式に出頭させましょう」

「いえその必要は。こうして足を運んだ後ですし――この先にいるのであれば、入室の許可をいただいてもかまいませんか」

「申し訳ありませんが、来客を予想していなかったので、中は見苦しい状況です。親衛隊の隊長殿を招き入れるには忍びないので、どうしてもということであれば、彼をここへ呼び出します」

扉を薄く開き、頭だけを部屋に入れる。きっちりとジュナの姿は見えなくなっていた。

ジェダはシュオウを呼び、その隣に当然のように佇んだ。

「どうも」

気安い調子でシュオウがアマイへ声をかける。

「お元気そうで、安心しましたよ」

アマイもまた、軽く挨拶を告げた。

慣れた調子を漂わす両者の対面からすぐ、アマイが静々と頭を下げた。

「さきほどは失礼を、公式にとはいきませんが、責任者としてお詫びを申し上げます」

シュオウは戸惑った様子で首を振り、

「いえ――」

と不器用に遠慮した態度をとる。

顔を上げたアマイは、ちらとジェダを見て一瞬微笑みを浮かべた。

「それで、これも申し訳ないと思ったのですが、さっそくあなたとの面会を望んでいるお方がいましてね。色々と忙しいとは思うのですが、ご足労を願えないものか、と」

曖昧な言葉も、シュオウはすべて理解した様子で溜息を吐き、

「断れないんでしょう」

アマイは癖のある笑みを浮かべ、上辺だけの恐縮した表情をつくってみせる。

ジェダは一歩前へ足を出し、

「その場に僕も参加します」

シュオウとアマイ、両者がジェダを見る。しかしアマイははっきりと拒絶の意を示し、

「実際、罪に問われてはいませんが、あなたにはアデュレリアで件のお方を惑わせたという前科に等しい過去がある。残念ながらそういった人間をお側に置くことは、身を守る者としては認めることはできないのですよ」

ジェダは言い淀み、重く喉を鳴らした。この場で繰り出すことのできる反論も皮肉も腐るほど思いつくが、しかしアマイの持つ地位も権力も、抗うことが無駄であるほど高位に属する。

駄目だと言われ、それを押しのけるほどの力は、ジェダにはない。

無言でいることを承服したと理解したアマイは、弱り顔で深く息を吐いた。

「図々しいと承知していますが、一つ相談をしたいことがありましてね」

ジェダはアマイの細い目を凝視して、

「なんでしょうか」

「ひと一人を完璧に覆い隠すことのできるような物がなにかないか、と。承知のことと思いますが、このことはあまり公にすべきことではないので」

話を聞き、ジェダはシュオウを見た。

文句の言い足りない不愉快な男の願いなど、一刀両断で断ってやりたいという気持ちも湧くが、しかしこの男の願いを完璧に叶える物が、自然と頭によぎってしまったのだ。

顔を引きつらせるシュオウは、ジェダの目を見てその意を察したようだった。

「まさか――」

そう、彼の想像した通り、ジェダの頭の中には、ジュナをムツキへ運び入れるのに活躍した、あの大きな樽の姿が浮かんでいた。

私室にぽっかりと空いた空間を見つめ、ジェダは黙したまま鋭く目元を尖らせた。

そこにあったはずの巨大な樽は、今はもう床に残された大きな円形の痕跡にしか面影を見る事はできない。

「意外なところであれが役に立ったみたいで、よかった?」

語尾をあげながらジュナが言った。揺らぎを含む声の抑揚から、彼女が現状を楽しんでいることが、姉弟であるジェダにはよくわかる。

ジェダは声を低くし、

「よくないさ。こそこそと入れ物に隠れて人に会いにいかされるなんて」

ジュナは首を傾げ、

「でもこのことを提案したのはあなたでしょ」

「無視をしてこれ以上におかしなことをさせられるのは彼だからね。そもそも、相手は実質王女の代理人、請われれば叶えなければならない、だから質が悪いんだ――嫌な気分がする、まるで強引に捧げ物を献上させられたようでッ」

語気は強さを増していく。苛立ちを隠せないジェダに対し、ジュナは柔く微笑して、

「大丈夫、あなたは自分のすべきことをきちんとしている。でも、すべての事を思い通りに動かすことはできない」

ジェダは鷹揚に頷き、寝台に腰を落とし呼吸を整え、握った自身の拳を見つめた。

「すまない、苛立ちと焦燥感が収まらないんだ。現状の無力さがもどかしい、もっとすべきことがたくさんあるのに。本当なら今すぐにでも、あれを見た人間の口をすべて塞いでしまいたい。部屋に籠もってただ状況を見守ることしかできないなんて――」

ジュナの手がジェダの握った拳に添えられる。

「焦らないで。私達にはまだ足りない物がたくさんある。辛いこと、面倒なことを飛ばして、欲しいものだけを求めても無理、だから」

ジェダは視線を合わせぬまま、

「ああ……わかってるよ」

そう言って頷き、力強く立ち上がった。

「落ち込むのは終わり?」

からかいの混ざる調子に、ジェダはらしさを混ぜた皮肉な微笑をジュナへ返す。

「現状で僕に出来る最善を模索する。意味はないかもしれないけど、蛇のように地面を這ってでも、とにかく動き続けるさ」

甘い香りがした。

大きな樽の中は、静かな湖面に浮かぶ船のように、ゆらゆらとほどよく揺れている。

身体をすっぽりと中へ入れても余るほど、腹の膨らんだ大樽にはゆとりがある。アデュレリアからジュナを入れて運んできたときのままなのか、底は厚みのある高級な毛布が敷き詰められ、空気穴以外密閉された空間には、仄かにこの小さな部屋の主の匂いがついていた。

柔らかな毛布に心地よい揺れ、それに微かに酒気を想像させる甘やかな香り。ほとんど真っ暗なそこで、シュオウは抗いがたい微睡みを感じていた。

顔が熱い。それなのに肩が震えるほど寒さを感じる。関節や怪我をした箇所、身体の芯のずっと奥のほうからも強い痛みを感じた。ここのところ続く頭痛も、断続的に発生し続けている。

――程度は。

痛さを計る事は習慣となっていた。感じる痛みがどれほどのものか、それを把握することで現状をなによりよく知ることができる。

知ることこそ始まり、知って、考え、答えを得る。

生きることは戦いであり、戦いとは、強固に絡んだ糸をほぐす行為と似ている。違いは、死ぬまでそれが続くということ。

唐突に、幼少期に得た教訓や教えが蘇り、頭のなかに木霊したそれらの言葉が終わりなく繰り返される。

一瞬、時の繋がりが途絶え、がくと首が揺れ落ちた。

――今は。

ふとすると、自身の状況を忘れ、シュオウは現在の状況に首を傾げた。

揺れる入れ物の中、周囲の音に注意を寄せる。苦しそうに息を荒げる男達の声。

――そうだ。

今を思い出す。外から見れば、国を表するほどの優れた四人の輝士達が大樽を持って歩いているのだ。そう思えばこの移動法はなにより贅沢で希少な機会ともいえるのだろう。

まるで王女に与えられる捧げ物の一部となったような気もするが、自身にそれほどの価値があると一瞬でも思ってしまった事をおかしく思った。

「――――」

誰かがつまずいたのか、片側が大きく傾いた。その瞬間、暗闇の入れ物の中で上下の感覚が崩壊し、現と幻はその境界を失った。

用意された大きな部屋は、中央から切り分けるように吊された白い布地によって仕切りが設けられていた。

サーサリアは薄い白生地の内側に立っていた。ぼやけて見える景色のなかに、運動着に着替えたシャラがびしっと指を向けて寄越す。

「あの台詞、忘れずに言えよ」

サーサリアは力強く頷いて、

「……行ってしまうの?」

前に見えるシャラの顔は鈍くぼやけているが、その口元がにやりと笑みをつくったのがわかった。

「逢瀬を楽しみたいのだろう。これまでの努力に免じて邪魔はしないでおいてやる――」

背を向けて手を振りあげ、颯爽と部屋の外へ向かうシャラ。周囲の親衛隊輝士達が、慌てて彼女の行く手を阻んだ。

「シャラ様、動き回られては困りますッ――」

シャラは常のように軽やかな所作でその手を躱し、

「黙れ、こんなところでうだうだと過ごしていられるものか。食事時までなかを見て回る。そうだちょうどいい、身体を動かすついでに対戦者を探すぞ。ここの兵士達の腕を試す!」

「やめてください、だめにきまっています、そんなことッ、ちょっと――」

こうしたやりとりもすっかり慣れたものである。いつのまにか、親衛隊のなかにシャラの奔放な行動の監視兼付き人としての役割を担う者達までできていた。

サーサリアはしかし、彼らの賑やかなやり取りがほとんど耳に届かないほど緊張していた。

――さっきの。

思い出す。寒空の下で交わした抱擁を。

――熱かった。

肌を寄せた瞬間、シュオウから、たしかな熱を身体に感じた。その熱を根拠に、寄せる想いが一方的なものではないという希望を抱き、胸が強く高鳴った。

扉の外から耳打ちを受けた輝士が跪き、

「殿下、まもなくです」

跳ね上がるように強く心臓が脈打った。

両開きの扉がぎぎぎと開く。四人の輝士達が汗を滲ませて運び込んできたのは大きな樽だった。その異様な代物にサーサリアは一瞬首を傾げたが、すぐにその理由に思い至る。

後から入ってきたアマイは、室内に残る輝士達を全員外へ出し、扉を閉めさせた。

一礼したアマイは樽の横に立ち、

「殿下、連れて参りました。彼はこの中に」

こらえきれず、サーサリアは破顔した。

しかし、

「…………?」

置かれた樽の中から、人がいる気配がまるで伝わってこない。戸惑うサーサリアにアマイも同調し、頭を上げて樽の蓋を開けて中を覗き込んだ。

「おや……」

そう一声漏らして固まってしまったアマイ。サーサリアは耐えかねて薄布から飛び出し、背伸びをして樽の中を覗き込んだ。

一瞬想像した最悪の事態が起こらなかったことだけは安堵する。そこにはアマイの言葉通り、シュオウがいた。しかし、彼はぐったりと樽の底で身体を崩し、ぐにゃりと首を曲げて寝息を立てていた。

医術について、経験や知識に乏しいサーサリアにも一目でわかった。酷い顔色に、苦しげな息に震える身体。

「……シュオウ」

名を呼んでも反応はない。

シュオウの身体は酷く、病に冒されていた。

「治りきっていない無数の生傷に打撲、全身各所の骨や関節にも異常もが見られます。褪せた顔色に発熱発汗。疲労の相も濃い。重病人です、いままで立って歩いていただけ、どうかしているとしか思えません」

王室付の老いた医官は枯れた声でそう説明し、サーサリアへ頭を垂れた。

サーサリアはシュオウを自身の寝台に寝かせ、その傍らに腰を置き、意識を落としたままのシュオウの手を取り、さすった。

呼吸も浅く、時折重く呻き声を漏らす姿に、サーサリアは沈痛な面持ちで唇を噛みしめる。

「どうして……何かできることは」

小声で問うたサーサリアへ、医官は頭を上げ、

「おそらく、北風が運ぶ季節の病に冒されております。私の見立てでは、怪我や疲労によって弱った身体が痛めつけられ、さらに苦しみが増しているのではと。まずは痛みを和らげる薬湯を、そして体力をつけるための滋養のある食事を与え、疲労と怪我に適切な処置をいたします」

サーサリアは話を聞き、シュオウから目を離さないまま、

「なら、すぐにやって」

老いた医官はしかし、承知を告げる返事を露骨に濁した。

「殿下……差し出がましい事と存じますが、ここは王家のために用意された寝所であります。この者は男子であり、この病が伝染するものである可能性もありますゆえ、まずは外へ連れだし――」

最後まで聞くことなく、サーサリアは突然立ち上がり、医官を見下ろした。

「願ってはいない」

その声は静かに、しかし、たしかな怒りと苛立ちを秘めている。

老いた医官はたどたどしい所作で膝をつき、平伏をした。

「た、ただちに支度をしてまいります……」

口の中に硬く細長い管が入り、シュオウは鈍い意識のまま、それを受け入れる。管の先からすぐ、温い水が注ぎ込まれた。

緩やかな覚醒の最中、周囲を満たす奇異な匂いに違和感が増す。経験からその匂いの正体を探ると、

――薬湯。

やたらに重い瞼を上げると、強く発光する青白い夜光石の明かりが目をついた。

「う……」

意図してあてられていた光が消えると、そこに一人の人物が浮かび上がる。

膝をつき、縋るように寝台に寄りかかってシュオウの手を握るのはサーサリアだった。

薄く涙を浮かべて破顔する彼女の顔を見て、不調で鈍った頭はようやく、自身の置かれた状況を思い出す。

からみついて離れないサーサリアの手を軽く握り返し、

「顔が、締まったな――」

サーサリアは邪気のない笑み浮かべ、

「うん――」

そんな二人のやりとりに、がらがらとした大きな咳払いが一つ、邪魔を入れた。

わざとらしい咳を落としたのは、サーサリアの後方に伏して控えていた一人の老人である。曲がりくねった独特な紋様を刻む長衣からして、高位の医官であることがわかる。

見やった先で、一瞬医官と目が合った。視線は険しく、明らかに敵意を内包している。

医官はサーサリアへ向けて頭を垂れ、

「殿下、この者に必要となるものはすべて整いました。あとは私が――」

膝をすって医官が僅か前へ出た途端、サーサリアが勢いよく振り返った。彼女の顔を見上げる医官の怯えた目を見れば、後ろ頭しか見えないサーサリアの表情がありありと想像できる。

サーサリアは権力者然とした冷たく硬い声で、

「ごくろうだった、あとのことは一人でやる」

「で、ですが――」

必死に食い下がろうとする医官。彼の目は、シュオウを鋭く睨んでいる。

「下がれと言った」

冷たくあしらわれ、無言で僅かな間を置いたのち、医官は静々と部屋の出口へ向かった。

扉が閉まる音を確認して、サーサリアが盆の上に並べられた薬品の山を手にして寝台に腰掛ける。

サーサリアは浅く小さな皿を手にとり、匙ですくってシュオウの顔へ突き出した。

「はい」

匙の上に山盛りで乗るそれは、灰色に濁った粘度の高い代物であり、あきらかに飲み薬ではなく、練られた塗り薬である。

シュオウに対して世話をすることを心底嬉しそうにしている彼女は、いくつも並べられた薬の説明をなにも聞かず、医官を部屋から追い出していたことを思い出す。

サーサリアの手から匙を取り、

「自分でやる」

露骨にがっかりと、悲しそうに肩を落とすサーサリアを無視して、シュオウは彼女が抱える盆を奪い取った。

しっかりと用意がされた薬品を見て、これを用意したあの医官の顔を思い出す。鋭く敵意の籠もった目に、怒りに皺を寄せた鼻。

――大丈夫、か?

思わず自身へ問いかけてみるが、手持ちの薬類を初戦の後に使い果たしてしまった事を考えると、調子を取り戻すために役に立つのなら、どんなものでも役立てたいという欲も湧いた。

覚悟を決め、シュオウは湯気の昇る薬湯を一気に飲み干した。

常には感じられないほど、サーサリアのために用意された部屋は静けさに包まれている。おそらく、王女の訪問に合わせ、この部屋の周囲に誰も近寄れないためであろう。

幕が引かれ、外の明るさからも切り離された暗い部屋のなか、時間の感覚はすでに正常を失っていた。

この部屋はまるで異世界のように非日常的な空間となっていた。それをとくに理由付けしているのは、日頃上の立場として振る舞うムツキの輝士達が、まるで神を崇めるように信奉する王女サーサリアが、同じ寝台に横たわり、胸の上にぺったりと寄り添って頭を乗せているせいである。

咳を二つ落とし、シュオウはサーサリアの肩を微かに押し上げる。

「側にいると感染るぞ」

サーサリアはシュオウの手に抗って体重をかけ、

「いい――」

人界に上がり、それなりに時がたち、様々な人間と出会い、社会の仕組みのなかに身を置いてきた。現在のシュオウにはジェダの言っていた懸念がよく理解できる。

この大国に残された唯一の王族。その若き王女と二人きりで寝台で身を寄せ合う現状がどれほど危険な事なのか。

シュオウが常の状態を維持していたなら、強引にでもこの状況から脱していた、もしくはそうしようと努めていたはず。しかし、病のためやたらに身体が重く、正常な思考や行動力はすっかりなりを潜めてしまっていた。

やたらにふかふかとした寝台の上にいると、身体が底へ沈んで溶けてしまいそうな感覚になる。それに、ぴったりと身を寄せるサーサリアは、以前に感じたときよりも身体が温い。寒気を感じる今、身を寄せることで得られる熱が心地よかった。

「あのね――」

シュオウの胸の上に顔を乗せたまま、サーサリアはぽつぽつと話を始めた。多く、話に登場する内容は旅で見た景色や、身体を鍛えたこと、シャラが起こした騒動など、ここへ至るまでにあった出来事や気持ちが語られる。

ほとんど相づちを返す気力もなく、シュオウはサーサリアの話に耳を傾け、夢と現を交互に行き来していた。

ふと、胸に乗っていた重みが消える。熱が消え、すっと寒気を感じた次の瞬間、

「ッ――」

シュオウの顔の横に手をつき、覆い被さるようにサーサリアが顔を覗き込んでいた。

彼女は美人だ。目の当たりにすれば、それは圧倒的なほどに。色の白い肌に儚げに整った相貌がすぐ目の前にあることに、まったく悪い気は起こらない。

「ね――」

熱ぽい顔をして、サーサリアは薄く唇を開き、

「――あなたのして欲しいことがあったら、なんでも……する……させて」

そう言って紅潮した顔から、唇を噛みしめて視線を逸らした。

「…………」

ぼやけた意識のまま聞いていたシュオウは、その言葉の意味を噛みしめる。

――サーサリアに。

して、欲しいこと。

彼女はムラクモ王家の人間である。つまり、一国の王女が、望みはあるかと問うていることになる。

衰えた思考はより短絡的に、そして単純にこの言葉の意味を求めた。

照れた様子で視線を戻すサーサリアが不安げな顔をして、

「ない……の?」

シュオウは閉じかけた瞼を強引にこじ開け、

「一つ、ある――」

内容を聞いたサーサリアは、きょとんとして不思議そうに瞬きを繰り返した。その反応からして、シュオウの言った言葉が彼女の期待に添わなかったことは明らかだった。

ニルナ・リーゴールは激しい当惑の渦中にいた。

正式な拝謁の機会もなく、王女の滞在を取り仕切るはずだったアスオンは部屋に閉じこもって出てこない。

当代リーゴール家の当主として、華々しい瞬間として回想録の目玉ともなるべき今日。しかし始まりから早々、思い描いていた事は何一つ叶うことなく、また予定していた事がことごとく意味を失ってしまったのだ。

「正式に殿下に一目ご挨拶を。献上のため取り寄せた品々を是非ごらんに――」

王家への献上の品々を持つ使用人達を従え、ニルナは親衛隊によって封鎖された通路に立ち、立ちはだかる親衛隊輝士達へ訴えた。

輝士達は仮面のように鋭い表情を崩さず、

「許可のない者は誰一人、ここを通れない」

ニルナは苛立ちを感じ、一瞬目元をつり上げた。

「許可とは……そもそも私はこのムツキを取り仕切る者、正式に就任した司令官で――」

輝士が一歩歩みでて、高圧的に胸を張った。

「だから、なんなのです」

不躾な言葉と態度にニルナが歯をむき出した時、背後からくすりと笑い声が聞こえた。

ニルナは溜め込んだ苛立ちを吐き出すように、怒った形相で振り返り、

「誰だ、なにがおかしい――」

言いかけ、視界の先にいた人物を見てニルナはぎょっとして口をつぐんだ。

そこにいたのは、壁にもたれかかり、腕を組んで冷めた微笑を浮かべる男、ジェダ・サーペンティアである。

ジェダはまるで意に介した様子もなく、人を食ったような態度でただその場に身を置いている。

他の者達同様、この機会を利用して王女に自身を売り込みたいという算段に違いない、とニルナは思った。すぐにでも追い払ってやりたい気分だったが、現在の地位に立つに至る重要な後援者の子息であれば、それもできるわけがない。

一連の流れのなか、通路の奥から突如ざわついた気配が漂ってきた。

通路を封鎖していた輝士達へ情報が伝達され、彼らが慌てて通路の人払いを始める。

ニルナも含め、献上品を持たせていた従者達も全員、壁際へ張り付けられるように押しのけられた。

物々しい様子にニルナも気づく。

先頭を切って現れた親衛隊隊長アマイへ、ニルナは必死に呼びかける。

「アマイ殿ッ――是非、殿下にお目通りを。見ていただきたいものが多数ございます、それに食事の支度も調えておりますれば」

アマイはニルナを一瞥して、

「サーサリア様はこれより、先の戦いによる負傷者の慰問を行われる」

その一言に、ニルナは全身が凍り付くような感覚に見舞われた。

「お、お待ちいただきたい、そのような予定はなかったはず」

アマイは眼鏡をくいと指で上げ、

「殿下のご予定はご自身の意思により決定される。臣下が口をはさむべきことではありません」

言い終えて背後を振り返り、道を空けて一礼した。

奥から輝士達を従え、サーサリアが姿を見せる。

「サ――」

威圧をするように前に立つ輝士に気圧され、ニルナは出しかけた声を飲み込んだ。

サーサリアはニルナの前で立ち止まり、

「負傷者のための部屋は」

と、ただ前を見つめたままそう呟いた。

控えるアマイが主へ頷き、その後ニルナへ視線を投げ、

「殿下の質問にお答えをいただきたいのですが、リーゴール将軍」

ニルナは震える喉をどうにか押さえ込み、固唾を飲み下した。

質問への回答は簡単に用意することができる。戦で発生した傷病者は専用の区画を設け、集めて置いてある。しかし、ニルナにとってそれは、息子であるアスオンが初戦で華々しい戦果を上げたという喧伝に泥を塗る汚点なのである。

王女が滞在する短い時間、存在を隠しておこうと企てた事も含め、まさか丁重に閉じた蓋をこじ開けようとする人物が、一番それを見られたくない相手だったせいで、さらに混乱は深まった。

ニルナは言葉を慎重に選びつつ、

「さ、サーサリア様におかれましては、ご来訪時より体調がお悪い、ご、様子。であれば、病人の療養所に入られることは、ふ、不適切、かと」

離れて立つサーサリアの顔色が露骨に変化した。つり上がった眼に曲がった口。王女が機嫌を損ねたことは一目瞭然だった。

深く鼻息を落としたアマイが、

「けっこう――殿下、リーゴール将軍はムツキに就任して間もないのです。目的の場所については道すがら、見かけた者に尋ねることといたしましょう」

サーサリアは前を向いたまま微かに頷き、先へと歩き出す。

「サーサリア様、どうか、お待ちを――」

縋るように手を出したニルナへ、守護する輝士達が敵意を込めた視線で凝視した。

声を張り上げても、ついに一瞥すらされることなく、サーサリアの姿は見えなくなってしまう。

将として一軍の全権を掌握するニルナ・リーゴールは、王族を前にしたこの場で、なんの権力も持たないただの一人の人間に成り下がっていた。

「バレン・アガサスの子、レオン・アガサスだ」

氏名を提示し、身分を証明できるものを見せ、名簿と照らし合わせてようやく傷病者収容区画への入場が許可される。

ムツキの長の命令により始まったこれらの決まり事は、レオンにとって屈辱的と感じられるほど不快なものだった。

本来、戦場で動けなくなるほどの負傷を受けた者達は、敬意をはらわれてしかるべきである。王侯のように扱えとまでは言えずとも、輝士たちに対し、最低限の礼儀は守られるべきなのだ。

しかし、軍の統率者の座についたニルナ・リーゴールは、王女の視察という名誉ある瞬間のため、まるで負傷者達をないものとするかのように、自身の雇う家の者達を用いて隠蔽を企てた。

義務とされる期間を過ぎても軍に残り、とりたてて武功を上げることもないまま、したたかに権力者にとりいり内務での微功の積み上げで出世をしてきたニルナにとって、初めての戦で出た負傷者達は、彼女の経歴にシミをつけた不浄の汚点であると見なされたのである。

戦で命を賭けて戦い負傷した、他の多くの者達の関係者らもレオンと同様に、密かに不満を募らせている現状、ニルナへの信望は静かに、しかし確実に失われつつあった。

通行の許可を得て進み出ると、通路を塞ぐように、雑多な荷が積み上げられていた。用意された隙間を抜け、レオンはようやくバレンや姉を収容する部屋にたどり着く。

「父上――」

部屋に入りバレンを見て頷いた。

隣の寝台に置かれた姉のテッサは、未だに意識を取り戻してはいないが、穏やかな寝息をたてている様子に安堵する。

「サーサリア様は……無事にご到着されたのか?」

身を乗り出しバレンが聞いた。本来、司令官らと並び王族を出迎えていたはずの身であり、たとえそうでなくとも、王女の来訪などという一大事が気にならないわけがない。

レオンは興奮気味に鼻を膨らませて、

「それが、大変なことになりましたよ」

バレンは血相を変え、

「なにがあった――」

レオンは声音を落として顔を寄せ、

「実は、皆の前で殿下が――」

言いかけで、レオンが部屋の入り口へ突如顔を向けた。彼の感じた異変にバレンも気づく。部屋の外、通路の側から騒々しい気配が伝わってくるのだ。

「なんだ……見てきます」

部屋から頭を出して様子を窺ったレオンは、すぐさま血相を変えて戻ってくる。レオンの顔は、あの深界の森で化け物と対峙していた時よりもずっと混乱の気を帯びていた。

バレンは腰を浮かせ息子へ問いかける。

「凶事か」

レオンは瞬きを繰り返し、

「あ、ある意味――いえ、そうではなく、その、あの――」

答えがくるよりも早く、それは訪れた。

親衛隊の装具に身を包む輝士達が部屋へ入り、奥から現れる人物を出迎える。バレンにはその姿が見えるより前に、誰が来るのかわかった。現在のムラクモにおいて、大勢の親衛隊が付き従って行動をする人物は一人しかいないのだ。

バレンは寝台から転げるように身を降ろし、膝をついた。倣うようにレオンも膝をつき、頭を垂れる。

同室に身を置く者達からもざわつく声があがった。

「一同へ告げる――」

親衛隊の一人が声を上げ、

「――サーサリア王女殿下の御意志により、王家よりの慰問が行われる。傷を負うもの、病み上がりのものは速やかに寝台に戻り、その身を休めるように」

バレンが顔を上げると、部屋の入り口に、たしかに王女の姿がある。常のように、感情の見えにくい冷めた顔で佇むサーサリアへ、側につく親衛隊隊長アマイがそっと言葉をかけた。直後、サーサリアの視線がバレンと重なった。

歩み寄ってくるサーサリアに、隣にいるレオンが緊張した様子で肩に力を込めた。

サーサリアはバレンらの前に立ち、

「アガサス重輝士か」

バレンは喉を鳴らし、

「は――バレン・アガサスにございます、殿下」

深々と頭を下げる。

サーサリアの深い青を湛える輝石を乗せた左手が、バレンの腕をとり、引き上げた。

顔を上げ、身体を起こすと、これまで雲上の遙か彼方の存在であったサーサリアが、すぐ目の前にある。

サーサリアはバレンの手を取り、

「ムラクモのため、力を尽くしてくれたこと、そして日々の忠誠に感謝を」

バレンは再び頭を落とし、

「……身に余るお言葉にございます」

「殿下――」

サーサリアの耳元で囁く者がいた。親衛隊を統べる男アマイである。

アマイは先ほど、サーサリアがバレンへ意識を向ける前にも言葉をかけていた。おそらく、この場で最も高位にあるバレンへ優先して声をかけるようにと進言したのであろう。

アマイがなにごとかを伝えると、サーサリアはレオンのほうへ視線をやり、

「その者は」

バレンは緊張して鉄棒のように身を固くして屹立するレオンを一瞥し、

「我が子、レオン・アガサスです――それと、そこに横たわる者はテッサ・アガサス。負傷によりご挨拶に応じることのできぬ無礼をお詫びいたします」

サーサリアの視線がレオンからテッサへと流れる。すると、ほとんど感情の起伏が窺えなかったサーサリアの顔に、ふと灯がともった。

「これ――」

サーサリアがテッサの前まで進み出る。白く美しい手で、テッサにかけられた黒い毛皮の外套に触れた。

外套についた臭い、そしてその原因を知るレオンがぎょっとして口を開いた。

「殿下、それは戦地にあったもの、汚れを含んでおります。あまりお手に触れないほうが――」

しかし、サーサリアはかまわず手の平全体で毛皮を撫でた。

側によれば未だに残る強い臭気に嫌悪を感じる者が多いそれに、サーサリアは何も気にした様子もなく、やたらに黒い外套に執着する態度を見せている。

サーサリアはバレンを見つめ、

「どこでこれを」

「それはある者より借り受けたもの。その者の尽力により、我が子の身をここに置くことができております」

なぜか、説明を聞いたサーサリアの表情が僅かに険しさを帯びた。

サーサリアは再び外套を撫で、

「これを……引き取りたい」

不意の申し出に、バレンは戸惑いつつ、

「それは、私が無理を言って借り受けていたもの。殿下の申し出とはいえ、我が一存でお引き渡しをするわけにはまいりません」

レオンが引きつった顔を向けて寄越したのと同時に、様子を見ていた室内の者達からも動揺する気配が漏れた。

サーサリアは一瞬眉間に込めた力を緩め、バレンの顔側で小声で囁いた。

言葉を聞いたバレンは間を置き、

「承知、いたしました」

自身の手で外套をとり、サーサリアへ差し出した。

差し出された外套を見て、微かに微笑みを浮かべたサーサリアにバレンは心底驚いた。行事や式典の際くらいにしか姿を見ることのないサーサリアは、いつも、まるで死者であるかのように精気に欠ける顔付きをしていたからだ。

「代わりのものを置いていく」

サーサリアはそう言ってアマイを見やり、頷いた。

言葉少なくとも主の意を理解したアマイは、側仕えの者が腕にかけていた、王家の紋章を刺繍したサーサリアの外套を、バレンへ手渡した。

黒い毛皮の外套を大切そうに抱いたまま、サーサリアは次の者達へと移り、感謝の言葉を伝えていく。そうして全員に声をかけ終えると、部屋を後にしてまた別の傷病者達が置かれた部屋へと移動していった。

サーサリアの去った後、室内はここの所の暗く鬱屈とした雰囲気も忘れ、喜びと驚きに満ちた喧噪に包まれていた。

サーサリアの外套を手にしたまま立ち尽くすバレンへ、レオンが興奮した様子で、

「すごい物をいただきましたね、父上!」

「ん、ああ……」

「あれを差し出すのを父上が断ったときは、空気が凍りついていましたよ……しかし、サーサリア様からいったいなにを言われてお気持ちを変えられたのですか」

バレンは白昼夢のようなあの一瞬を思い出し、

「……知っている、と。持ち主を知っているから、自分の手で渡したいと、そうおっしゃられた」

「それは……」

バレンはレオンへすべてを伝えてはいなかった。サーサリアがあの瞬間、声を殺して告げた言葉のなかには、王女として威厳ある言葉遣いを捨て、まるでどこにでもいる若い娘のような言葉で告げられたある一言があったのだ。

『おねがい』

借り物を自らの手で返さない不義理を思い、王女の願いであっても一度は断ったが、そのあまりに飾り気のない願う言葉を聞いたバレンは、思わず申し出を断る気力を失ってしまった。

「父上、さきほど伝えきれなかった話なのですが、今朝の歓迎式の際――」

レオンから聞かされた事の顛末を知り、バレンは目の当たりにしたサーサリアの奇妙な願いと態度の理由を、ようやく理解することができた。

戦場を前にした深界の拠点で、緊張した面持ちで過ごしている猛者達の姿を期待していたシャラは、実際に目の当たりにする光景を前に落胆していた。

王女の移動時を期待して一目その姿を間近に見ようと待機している輝士達は、皆若く小綺麗な容姿をした者達ばかり。負傷を押して訓練に励む者も、復讐を誓って刃を研ぐ者も、戦地で感じた恐怖に震える者もいない。

戦場というには、あまりにも綺麗に清掃の行き届いた清潔な様も、不一致な違和感を強めている。

「なんという緊張感のなさ。本当に一戦終えたばかりの戦地なのか、ここは」

周囲を兵舎に囲まれた中庭の中心に立ち、シャラは両手を腰に当て、胸を張る。

できたての飴のように照りのある褐色の肌に、美しい薄桃色の髪が寒空の下、そよぐ微風に揺られている。

サーサリアを目当てにうろついていた者達の関心が、親衛隊を引き連れ、堂々立ち尽くすシャラへと移るのに、それほど時はかからなかった。

「あれは、サーサリア様と共にいた……」

集いつつある視線を送る者達のなかから、そんな一言が発せられる。ざわつく声が広がり、各方面の通路に張り付いていた輝士達が、揃って中庭へ足を向けだした。

「ふん――」

シャラは満足げに鼻を鳴らし、

「――お前達、肩を貸せッ」

親衛隊の輝士達に言って、軽やかに跳躍した後、並んで立つ二人の肩を踏みつけ、高みから周囲を見下ろした。

シャラは高らかに名乗りを上げた。

「前サンゴ国領、渦見城塞元司令官ア・ザンの子、ア・シャラである!」

シャラの宣言に、輝士達はしんと静まりかえった。

「なにをなさいます、いますぐ降りてくださいッ」

側仕えの親衛隊輝士の声も、シャラの耳には届かない。

「戦場に身を置き、戦いに明け暮れるムラクモの猛者達を見られると思い、お前達の主と共にここまで来た。が、少々期待はずれに思っている。苛烈なる戦闘が繰り広げられる戦地において、このムツキは顔に古傷を刻んだ猛者達の巣窟であろうと思っていたが、見える顔は坊ちゃん嬢ちゃんばかりではないか」

聴衆達の表情が露骨に険しくなった。それはシャラの思惑通りである。

「もしそうでないと言いたい者がいるなら名乗り出ろ! この身は南方が誇る武を修めている。力を試せ、勝利の暁には、さきの言葉を撤回し、金目の褒美もくれてやるッ」

威勢よくあがる怒声と共に、対戦者が殺到する様をシャラは想像していた。が、

「…………」

輝士達からは一瞬ざわつく声が漏れたのみ。勝負を望む者は誰一人現れない。

「ふむ」

ぴしりと完璧に整った輝士の制服を纏う彼らは、その印象そのままに、本当に品の良い若い貴族の男女でしかない。安い挑発に乗る者などいないと、全体としての彼らの態度が如実にそれを示している。

怒らせることはできず、なおかつ金目の物で釣ることもできない。

シャラは即座に思考を切り替えた。彼らを怒らせるのは手間だ。仮に怒りを買えたところで望む勝負を得られるかは不透明。金銭や物品で釣ろうにも、ムラクモの輝士達はみなそれなりに富を有する者達。この場で考えるべきは、彼らがぞろぞろと周囲に侍っていた理由である。

「サーサリア――か」

それはただ一言の小さな呟きだったが、静寂に包まれていた周囲にはよく声が通った。

静寂が一点、どよめきへと変わる。

シャラはにたりと頬を上げた。

「私との勝負に勝った者には、褒美としてサーサリア王女との直接の面会を保証する!」

その内容に親衛隊の輝士がぎょっとして、

「シャラ様、なにを――」

咎める言葉もすでに遅く、中庭は一点、騒然とした喧噪に包まれる。シャラに注意を告げる親衛隊輝士の言葉は、大勢の声に掻き消された。

若いムツキの輝士達が、手を上げながらシャラに駆け寄る。さきほどの冷めた空気から一転、勝負を望んで必死の形相で詰め寄る者達のほとんどは男の輝士だった。

シャラはカッカと快活に笑い、

「武器、晶気の使用を認める。東方の武技と南方の武術、どちらが勝るか格付けをしてやろう――」

勝負の説明を告げるシャラの声を、しかし突如上がった大声が邪魔をする。

「俺が一番だッ!」

その声が響くと辺りは再び静寂となる。聴衆が自然と割れ、その先から一人の大男が現れた。

一目でわかる南方人である。シャラは彼の事を知っていた。

「お前」

大男は群がる輝士達を払いのけ、

「てめえの親父には恨みがある」

眼光は猛獣のように重さを持ち、鋭い。

シャラは頷き、

「存じている。ガ族のシガ……そうか、お前もここにいるのだったな。いいだろう、勝負を受ける」

聴衆は自ずから後退し、中庭にほどよい勝負用の空間が生まれた。

両者、間合いを開け、構えをとる。

シガは尖った犬歯を剥きだして、

「いいんだな」

シャラは顎を沈めて笑み、

「恨みある者の血すべてが憎いというのなら、好きにせよ」

直後、シャラは先制した。強化された脚力を活かし、爆発的な勢いを持って正面から突くように蹴りを繰り出す。

蹴った足はそのままシガの腹部に命中した。が、まるで何重にも重ねた岩壁を蹴ったように、まるで相手に損傷を与えたという感触がない。

蹴り込んだ足を引っ込める間もなく、振り上げたシガの拳がシャラの眼前へ突き出された。

「……ッ」

シガの拳と、シャラの顔面の隙間は一本の指を通す事もできない程度。生じた風圧がシャラの髪をごっそりと背中のほうへ押し流す。ビリビリと空気が震え、振動が稲妻の如く全身を貫いた。

シャラはゆっくりと、出した足を引っ込める。同時に、両手を掲げて、

「まいった」

シガは鼻に皺を寄せ、

「なんだと」

「負けた、と言ったんだ。私は負けを認めた、お前の勝ちだ、ガ族のシガ」

「ふざけてんのか……」

シャラはあげた手の平をくるくると回し、

「勝負にならん。同じ質の力と力、ぶつかればより膂力の高い者が勝者となる。私のそれは技で補えぬほどお前のそれにまったく及んでいない、と理解した」

「やる前から諦めるのか」

「己を知る事も強さの一部と心得る。が、私は一方的に負けを宣言しただけ。私の降参を受け入れないというのなら、よかろう、戦いを継続してやる」

シガは僅かシャラを睨んだ後、舌打ちを残して構えを解いた。

「ち、気がそがれたぜ」

視線を逸らすシガに微笑して、シャラは預けていた外套を羽織り、親衛隊輝士達に手招きをした。

「満足した。ここはもういい、次へ行くぞ」

しかし、聴衆から不満の声があがり、

「待ってくれ、勝負は? サーサリア様への面会権はどうなるんだ?」

シャラは振り返ってシガを指さし、

「言っただろう、私は負けを宣言した。つまり、権利はそこの男に移ったのだ。面会の権利はやつに勝利した者に与える、望むなら勝負を挑めばよかろう!」

シガが周囲をぎょろぎょろと睨みつけると、間を置かず、集っていた輝士達が視線を落としてぞろぞろと去っていった。

シャラはその光景を見てほくそ笑み、

「馬鹿はいないようだな」

去り際、シャラはシガを見て、

「おい、ガ族のシガ」

シガは仏頂面で睨み、

「……なんだ」

「それほどの力を持ちながら、我が父たる油壺に捕らわれたという。それが真実であるなら、腕を鍛えるよりまず頭を鍛えることだ」

「なん、だとこのッ――」

「ああ、それと約束だからな、サーサリアに会いたければいつでも支度をしてやるぞ」

「いらねえよ、そんなもん」

「ふ――だろうな」

シガの怒声を背に受けつつ、シャラは何事もなかったかのように、次の興味を求め、中庭を後にした。

「シャラ様、いくらなんでもこんな所……」

シャラの指し示した次の目的地を前に、側仕えの輝士は難色を示した。

戦場まっただなかの深界の拠点、というほどには緊張感や悲壮感すらないムツキは、まったくシャラの期待に沿うものではなかった。

品の良い顔ばかり並ぶ男女は皆若く、彼らには覇気もなければ経験からくる厳つさのかけらも感じられない。

ここで唯一、相手を求めるのに価値のある男は、別の女の相手で塞がっている。

シャラはムツキ滞在中、これから先の退屈を予期し、辟易する。

戦地にある拠点がやたらに清潔に保たれていることに苛立ちを感じていた。おそらく、ここの統率者が王女の来訪のために見栄を張ったのだろうが、汚点を必要以上に包み隠そうとする所作は姑息である。

初め、そんな気はなかったが、ふと底意地の悪い感情が芽生えた。正常の世界からは隔離された場所、おそらく王女らが見ることもないと決めつけているであろう牢獄の中を調べてやろう、と。

退屈とは先の見えること。面白さとは予想外の事に見舞われること。外から見えない牢獄の中は、なにがあるかわからない未知が詰まった箱であり、期待を抱くことができるだけ、シャラにとっては価値のある探検だった。

牢獄の前には見張りがいた。が、その見張りは立っているわけでも武装しているわけでもなく、ただ椅子を置き、その上で居眠りに興じる老人が一人いるだけである。

「入らせてもらうぞ」

寝息を立てる老人に一言そう告げて、シャラはさっさと通路を進んでいく。しかし、帯同する輝士達は皆が一斉に顔色を悪くした。通常、牢獄という空間には不潔さとそこから生じる悪臭がつきもの。生まれに恵まれ華々しい優等の輝士として生きてきた彼らにとっては、よほどのことがなければ近寄りたくもない場所なのであろう。

シャラは手巾で鼻を覆う輝士達を見やり、

「別に臭くはないがな」

思い込みというやつか、とくに臭いを感じてもいないのに、すでに輝士達はこれ以上ない、というほど不快そうに顔色を悪くしている。

中へ入り、シャラは一種の落胆に似た心地を味わった。

どこの国でもどこの拠点でも、牢獄というものはその性質上、不浄が伴うものだが、このムツキの牢獄はまるで二等の宿程度の清掃は行き届いており、漂う空気も外と大差がない。

地面を指でこすろうとも、ささいな埃すらつかないのだから、徹底している。

やはり意外そうに中を見渡す輝士達を引き連れ、シャラが奥へと進むと、格子部屋の一つからガシャガシャとうるさい音が鳴った。覗き込むと、中で拘束されている男が目を剥いてこちらへ顔を突き出していた。

「もしや我が君の再来か、と期待したのだが。ただのお嬢さんとはがっかりだよ」

どろりとした視線で舐めるような視線を寄越す男。無精髭と疲れた顔のため、若いのか老けているのかもよくわからない。容姿や服装、そして状況から判断して間違いなくターフェスタの輝士であろう。だが、

――こいつ。

目にはその者の意思が強く宿る。対峙するこの男の目には、捕らわれの身であるとは微塵も感じられないほど、負の感情によって落ちる影が見当たらない。

「お前は北国の戦士か」

シャラの問いに男は気味悪く口角を上げ、

「我が名はクロム。あえて言おう、このクロムは主の忠実なる僕であると。故にどこの者かと問われも、クロムであるとしか答えようがない」

想像の外にある受け答えに、シャラは首を傾げた。

「クロムとやら、お前の言う主とはターフェスタの領主の事か」

クロムはあごをつんと上げ、

「否だ! 愚鈍なる者にこのクロムを捧げるいわれなどない」

シャラは訝り、

「いまいち話が通じんな。本当に捕らわれなのか、ターフェスタとムラクモの戦場で捕虜とされたのだろう?」

「捕虜……? ここへはカエル様の御宣託により滞在しているにすぎないのだよ。悪いがね、これ以上無駄に消耗をしたくない。たいした用もないのなら、話しかけるのはこれを最後にしてもらいたい」

シャラはクロムの顔面に残った傷跡を見つめ、

「戦で頭でもぶつけたか――」

一瞬、なにか強者が持つ独特な気を感じたような気がしたが、この囚人はそれとも違う、相当にズレた気性の持ち主であるらしい。

まるでこちらへの興味を失った囚人に対し、シャラが首を捻っていると、奥にある別の部屋のほうから、

「もう何度も同じことを言って、いい加減うんざりしているんだが、その男は元々そういうやつなんだ、いかれてる、まともに相手をするだけ無駄なことだぞ」

渋みのある重たい男の声がそう言った。

声を追ってみると、そこには体格の良い男が寝台に腰掛けていた。シャラはまず、この男の片手を見て驚いた。

「なにか見間違いをしているのではないだろうな、彩石を封じることなく牢に閉じ込められる者がいるとは」

男は左手の甲にある色のついた石を見せ、

「ここには義を知る男がいる。これはその男からの信頼の証だ」

帯同する輝士たちが、封じのされていない囚人の左手を見て、剣を握った。

シャラは輝士と囚人との間に立ち、

「自由に力を使えるのにどうして大人しく囚われの身でいる」

男は笑み、

「ここは世界有数の軍隊を所有する国の要塞だぞ。ここから出たところで身体をバラバラに切り裂かれるか、潰されて肉塊にされるのがおちだろう。そのどちらも、リシアの教理においては死後に神の御前に立つに相応しくないとされている。無意味に死を迎え、そのうえ天に恥を持ち込むことは避けたいのだ」

「惰弱な考え方だ。強ければ生き、弱ければ死ぬ。死ぬときの事を考えながら生きるなど、すでに死んでいるのと同じであろう」

「好きに言うがいい。だが、クオウ教徒の身でありながら、ムラクモの高級輝士と共に行動しているお嬢さんのほうにこそ、俺のことを笑えないような事情がおありになるのではないかね」

シャラは腰に手を当て、

「我が名はア・シャラである。たしかに、この身もそちらと同様の身分にすぎん。お前は――」

「バリウムの領主、ショルザイ。シャラ殿、振る舞いや帯びた気配からして、王侯に連なるお方とお見受けするが」

シャラはふんと鼻を鳴らし、

「似たようなものだ」

「南方の姫君がまた、このような無骨な場所へおいでとは」

「東方見聞の一環だ。が、我ながら良い選択だったと自負している。ターフェスタの要人と話す機会を得られたのだからな。一つ聞かせてもらいたい」

「似た境遇の者同士だ、なんなりと承ろう」

シャラは一歩前へ出て、

「この戦争、どちらが勝つと思う」

ショルザイは困惑した顔をして、

「ターフェスタの侯であり将でもある者にそれを聞かれるか。当然、ターフェスタの勝利を、と言いたいが、義兄がどれほどの準備をしているのか、まるで知るよしもない。が、俺が知るかぎり、ターフェスタが易々とムラクモを打ち破る結果を想像することは難しい」

「つまり、ターフェスタは負ける、ということだな」

「そうは言っていないだろう。我が国は無数の都市、国家が入り交じる地帯に在りながら、長く国としての存続を維持してきた。国を統べる大公家に王の石もないままに、だ。ターフェスタにはそれを強固に守護する家が存在する。いくつもの白道、門を長きにわたって守り続けてきた強力な石が――」

「銀星石、か」

ムラクモとの国境を守備する深界の拠点アリオト。夕刻を過ぎ夜を間近に控えた頃、輝士の集団が粛々と入門を果たしていた。

集団を率いるプラチナ・ワーベリアムは、出迎える者達の少なさと覇気のないアリオト門の雰囲気に眉根を寄せた。

敷地内に点在する天幕に、ぽつぽつと座り込む負傷者の群れ。火を囲んで横たわる者や怪我に苦しみ唸り声をもらす者が多数いる。彼らはプラチナの到着にも気づいていない様子だった。

「ワーベリアム准将ッ」

出迎えに現れたのは、ゴッシェ亡き後、残されたターフェスタ軍の指揮権を自動的に引き継ぐことになった重輝士である。

「なんなのだ、この様は……これがあの精強なるアリオトの有様なのかッ」

副官として帯同するナトロが手にする棍棒で地面を叩いた。

「ナトロ」

プラチナは手をかざし、気を静めるようナトロへ促す。

重輝士は深々と頭を垂れ、

「申し訳ありません……初戦の後、我が軍は多大なる被害を被りました。結果、硬石級の兵力で駐屯するカトレイ軍が勝り、それを知ってか、アリオトへ戻ってから連中は威圧するような行動を繰り返し、衝突を避けるためしかたなく……」

「城を明け渡したというのかッ」

怒りを必死に押さえつつナトロが怒声をあげる。

「プラチナ様、こんな話、事前に一言も聞いていません」

同族であるリディア・ワーベリアムの囁きに、プラチナは口元を引き締めてあごを引く。

「時に誇りを捨て、利を優先させねばならないこともある。軍は無事維持されている、気に病むことはありません」

重輝士は涙ぐんだ顔を下げ、平伏した。

ナトロは猛った顔に歯を剥き出して、

「プラチナ様、すぐに傭兵軍を追い出しましょうッ。我々が来た以上、好き勝手には――」

ナトロの言葉を、よく通る男の声が遮った。

「好き勝手、とは聞き捨てなりませんな――」

金色の鎧を纏う男だ。それだけで尋ねずとも出自がわかる。

「カトレイ華金兵団指揮官、オーデイン・バルであります。かの銀星石の主、ワーベリアム准将にお会いでき、光栄の至り」

辞儀をしたオーデインへ、プラチナは頷きを返す。

「プラチナ・ワーベリアム准将、ターフェスタ大公殿下の命を受け、アリオトの司令官を拝命しました。以後の指揮権はすべて私が掌握します」

「もちろん、雇用主の意向であれば我々はただそれに従うのみ」

白々しいオーデインの態度にナトロが吠えた。

「なにを言うッ、我らの兵を外へ追い出しておきながらッ」

オーデインは肩を竦め、

「これは、負傷したカトレイの兵を休めるため、一時的に屋根のある部屋をお借りしたいと申し出たところ、許可をいただいたゆえお言葉に甘えていただけにすぎません。もちろん、どけといわれればそういたしますが、我らカトレイの兵は、狂鬼に追われるあなた方ターフェスタ軍の撤退を支援し、負傷者を多数出しました。叶うならば、雨風をしのげる温かい部屋をいくつかこのままお貸しいただけないものかと」

「いいかげんにッ――」

激高したナトロをプラチナが制し、

「真実、負傷した者のためにならばその願い、受けましょう」

オーデインは頭を垂れ、

「感謝いたします、准将。ですがしかし――」

意味深に声を潜め、プラチナが引き連れてきた輝士隊を見やる。

「何か?」

リディアが棘のある声で聞いた。

オーデインは輝士隊を流し見て、

「いえ、かのワーベリアム家が参戦するとあれば、お家からの加勢も相当なものであろうと期待していたのですが。見たところこれでは、小規模の隊が二つ、三つ組めるかどうか。失礼ながら、残りの軍勢は到着が遅れておられるのでしょうか」

ナトロが、ぐぐと喉を鳴らすが、文句を言う前にそれを飲み込んだ。

ワーベリアム家には全力で兵力を派遣できないだけの理由があった。それは謀反を疑われないため、若者や才に恵まれた輝士達を残していかねばならないためである。

プラチナはしかし、あくまで冷静に、

「ワーベリアム家よりの加勢はこれですべてです。大軍ではなくとも、一族に連なる者達より選りすぐりの精鋭達を連れてきました。それに加え、銀星石たるこのプラチナが戦場に立つのです。雇われであるカトレイの指揮官殿には、なにかご不満なことがおありなのでしょうか」

オーデインは苦笑して口元を引きつらせ、

「いえ、それを聞いて安心いたしました。御身自らがターフェスタ軍を率いられるのであれば、相手はさぞ肝を冷やす事でしょう。先の司令官殿には、その任は重すぎたようですので。では、私は部屋を空ける支度をしなければなりませんので。また後ほど」

戦死したゴッシェへの侮辱を残し、オーデインは恭しく礼をして去って行った。

「あの男、信用なりません」

ナトロの言に、プラチナは首肯する。

プラチナは様子を窺っていた重輝士へ、

「先の戦いによる犠牲者の収容は――」

重輝士は苦しげに首を振り、

「未だ手をつける余裕はなく……申し訳、ありません」

「では、動ける者達を集め、一隊を組む。私自ら向かい、ただちに遺体の回収作業を始めます」

プラチナの宣言にリディアは血相を変え、

「今からですか? もうすぐ夜になります。せめて一晩身体を休めてからでも」

初戦からすでに幾日か経過している。遺体は深界の鳥獣らに食い荒らされている可能性が高かったが、そうであっても、遺族の元へ返すことのできる僅かな可能性にすがり、プラチナは自らの手で、それを行うと固く決意していた。

「すぐに行く、時を置いた事を後悔したくはない。ナトロは――」

「もちろん、同行します」

「いいえ、あなたは副官としての責を。ここに残り傭兵軍の退去を監督しなさい」

ナトロは強く頷いて、

「まかせてください」

プラチナは天幕のある奥の光景に、ふと目をとめた。

「あれは――」

そこには複数人、赤い聖衣を纏ったリシアの輝士らしき姿がある。彼らは彩石を持たない傷病者達に、親身に食事や治療を施しているようだった。

重輝士が頷き、

「ここに残ってくださったリシア輝士の方々です。金食い共とは違い、献身的に皆の世話に手を貸していただきました」

プラチナは胸元で祈りの所作を刻み、

「天に感謝を――さすが神に仕える選ばれたリシアの輝士達、その行いは気高く、誇り高く、責任と愛と光に満ちあふれている」

「いい、実にいい! 聖白功労勲章とは、聖下は我が意をくみ、奮発してくださった」

リシア教本山の神殿にて、長い階段を駆け下りながら、聖輝士隊を率いる長、ミオトは興奮気味に、勲章を入れた入れ物と、表彰の言葉が綴られた書を入れた筒を天へ掲げた。

副長のルイが必死にミオトを追いかけながら、

「せめてお考え直しください、わざわざ隊長自らが敵地に乗り込み、敵兵に勲章を手渡すなどと――」

「はっは――感謝を告げるのに他人任せにすべきではない。聖下の許可はいただいたのだ。お前こそ口をつつしめ、ルイ!」

ミオトは跳ねるように飛び、一段飛ばしでさっさと階段を下っていく。勢いについていくことを諦めたルイは、肩で息をしつつ、

「片目を潰された相手に喜々として感謝状を届けようなどと考える人間は、この世界でダーカ隊長くらいなものだろう……。神よ……どうか、隊長が目を覚まされますように」

ルイの愚痴と祈りも空しく、雪のちらつく冬の空気に飲み込まれた。

呼吸の音だけが聞こえる。

吸って、吐いて。また吸って、吐く。

焼けた木の匂い。苦い薬草の香り。

重い瞼の向こう側は、暗い夜色に塗れていた。

首を振ると、額に乗せられていた塗れた布がぽとりと落ちた。

「起きた?」

暗い部屋のなか、夜光石の青白い明かりが辛うじて照らすサーサリアの姿が浮かぶ。

「ずっと……寝てたのか」

シュオウのぱさついた呟きに、サーサリアはそっと微笑し、頷いた。そして甲斐甲斐しく水飲みを差し出す。強烈な喉の渇きを感じていたせいもあり、差し出されるまま口に飲み口をつけた。

喉を潤し、シュオウは再び寝台に身体を預けた。

――痛い。

全身の関節が千切れるように痛みを伴う。目の奥に感じる鈍い頭痛も、あまり改善はしていないようだ。

サーサリアは寝台に腰を落とし、前屈みにシュオウの顔をじっと見つめている。心配をしているようで、どこかこの状況を楽しんでいるようでもある。

一時でも目を離さずじっとこちらの反応を窺うその姿を見て、シュオウはぼやけた頭で、サーサリアの腰の辺りから生えて伸びる、激しく揺れる犬の尻尾を連想していた。

「外はどうなってる」

問われたサーサリアは、変わらず目を見つめたまま、

「なにも、変わったことはないと思う」

仲間達のことが気になったが、事情を知っているジェダがいる以上、とくに心配する必要は感じなかった。

「ずっと見ていてくれたのか」

サーサリアは首を振り、

「ううん、あなたが望んだ事をしにいっていたから、ずっとじゃない」

サーサリアの言葉を、シュオウは不思議に思う。

「……俺が?」

「言った――戦って傷ついた人たちがいるから、声をかけてくれって」

覚えていなかった。どうして唐突に、彼女にそんなことを願ったのかも記憶にない。

サーサリアは誇らしげに胸を張り、

「言われた通り、怪我を負った者や病気の者達と会ってきたの。話を聞いて、言葉も交わした。きちんとできたと思う」

シュオウは呆けた顔で頷き、

「そうか……みんなきっと喜んでる……よく、やったな」

王女に対する言葉遣いとしてはまったく不適切ではあるが、サーサリアは頬を染めて無邪気に喜びを表した。

サーサリアはシュオウの腕を持ち上げ、その中にするりと入り込み、胸の上に顔を乗せて控えめに頬ずりをする。

巻き込まれるように、サーサリアを抱く手の平が、その背に触れた。

手の中に熱を感じつつシュオウは、

「いつ、帰る」

身体を揺らしていたサーサリアが、ぴたりと動きを止めた。

「……明日、朝」

密かにシュオウは安堵をした。

「よかった――ここは王女がいていい場所じゃない」

肩に力を込めたサーサリアは、無言で全身をぴたりと寄せる。

「ずっと……死ぬまでこうしていたい。これだけでいい、他に欲しいものなんて、ない。ねえ、このまま一緒に寝てもいいでしょ」

「わかってるのか……このことを知られたらどうなるのか……」

正常であれば、サーサリアから身体を離していたはず。しかし、弱った身体にサーサリアから伝わる温もりは心地よく、シュオウは再び微睡みへと引きずられていった。

夜明けを告げる鳥のさえずりが聞こえる頃、アマイはサーサリアが一夜を明かした部屋の中の様子を窺った。

未だ熟睡するシュオウに自身の額を重ねるサーサリアの姿を見て、アマイは悟られぬよう嘆息した。

「殿下――」

呼び出しに応じたサーサリアはシュオウから額を離し、起こさぬように静かに部屋の外に出る。

「一晩で熱が引いた。でも、まだ具合が悪そう。よくなるまで側に居たい」

「殿下……幾度も申しました、ここは戦地なのです。御身が在るにふさわしくありません。お気持ちはわかりますが……」

水底のような青い双眸が、アマイへ向いた。

「わかってる」

アマイは壁にかけてあった黒い外套をとり、

「これを――手入れは完璧に。彼もきっと喜ぶでしょう」

サーサリアはシュオウの黒い外套を受け取り、胸に抱きしめる。その姿勢のまま通路の奥を見やり、

「あれは……?」

視線の先を追ったアマイは、

「ジェダ・サーペンティアです、覚えておられませんか」

サーサリアは目を鋭く尖らせ、

「知らない――でも、昨日あの人の隣に立ってた。なぜあそこにいる」

「昨日からずっと、あそこで待機を続けているようです」

「なぜ」

「わかりかねますが、おそらく彼があの者の隊に所属しているから、と」

サーサリアは唇を噛んで遠目に見えるジェダを睨み、

「気分が悪い、あれをどこかへ行かせて――」

そう言い残し、部屋へ戻ろうとする。

アマイは閉じられる前に扉に足を挟み、

「殿下、どうか――」

「約束をしたから、ユウギリには戻る。でも、シュオウをこんなところに置いて行きたくない、だからかならず――」

欠けた愛は粘性を持ち、束縛を望む。

言葉は鎖。連なり、伸びて、

「――かならず、彼をユウギリへ」

からみつく。