軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

流転 8

流転 8

怒れる民衆と、それを武力で押さえ込もうとする兵士たち。そこから始まり、加わった百刃門の武人たちに加え、統制された軍隊であるボウバイト軍が介入し、混沌とした場の空気は、急速に冷静さを取り戻しつつあった。

シュオウは現場を仕切る指揮官として振る舞い、

「兵士たちに上官が逃亡したことを教えて降伏を促せ。怪我人は一箇所に集めて下街に連れて行く、複数人を乗せられる荷馬車を用意させろ。ここから中央広場に向けて安全な経路の確保を最優先にする。住民たちは、できるかぎり穏便に武器を捨てさせろ」

ボウバイトの兵士たちに次々と指示を伝えていく。

本来、直属の部下でもない者たちも、恭順の意を示したエゥーデによって、逆らう者は誰一人としていなかった。

手前側から徐々に落ち着きを取り戻していくこの場において、集団のなかに見覚えのある男の姿を発見し、シュオウはその名を大声で呼びかけた。

「ヴィシャ――」

ヴィシャは複雑な顔でシュオウに向けて手を上げて、鎮圧のために奔走する者たちを険しい顔付きで眺める。

「これは、大公の命令なのか?」

シュオウは一瞬喉を詰まらせ、

「……いいや、違う」

ヴィシャは大きく見開いた瞳を揺らし、

「……そうか」

シュオウに向けて足を踏み出した。

ヴィシャはシュオウの前で立ち止まり、大きく太い手でシュオウの両手を取り、包むように手の中に入れる。

「よく、来てくれたな……もうわかってるだろうが、酷いことになった」

やつれて疲れ切った顔を見ながら、シュオウはヴィシャに頷きを返した。

「聞きたいこともあるが、今はここを治めることを優先する」

ヴィシャは強く頷き、

「俺にできることがあればなんでもやる、多少なり使える奴らもいる」

シュオウが同意を示したその時、担架に乗せられたセレスが目の前を通過した。

ヴィシャは複雑な表情でセレスを見送り、

「あの野郎……無事なのか?」

「わからない。でも、治療はさせる」

「あいつは――」

ヴィシャは何かを言いかけて口をつぐみ、頭を掻いて、首を振った。

「――なんでもねえ。それより、俺に出来る事はないか?」

運ばれていくセレスから視線を切ったヴィシャと同様に、シュオウは一帯を眺めて、

「住民たちに声をかけてくれ。誰にも手は出させない、必ず助けると伝えて欲しい」

ヴィシャは目の奥を潤ませ、

「くそ……俺も歳だな。もうどうにもならねえと思ってたところに、誰であっても助けると言って来てくれたやつがいるのが、嬉しくてたまらねえ……それがあんただったこともな」

鼻をすすり、背を向けて一瞬空を見上げたヴィシャは、怯えた様子で武器を構えて固まる住民たちのほうへと向かっていった。

ターフェスタ公国中央都に燻る火は、時折振り落ちる氷雨を受けながら、徐々にその熱を冷ましていく。

暴徒化した住民たちは、加勢したボウバイト軍によって粛々と鎮められ、その大半は穏便に仮設の収容所へ送られていた。

シュオウの部下たち、それに協力しているターフェスタの一部の輝士や兵士たちの手で、家を失った難民たちに、休息と食糧が与えられていく。

その行程はしかし、明らかに不足している物資と人手、食糧問題により、未だ都内に晴れる気配のない暗雲を残していた。

シュオウはボウバイト軍の働きを監督しつつ、道々の安全を確保して、最終的に城の前に到達していた。

シュオウが到着した途端、多くの者たちが一斉に声を掛けてくる。

「准砂、クモカリ殿が――」

駆け足で近寄ってきたレオンが、保護した住民たちの待遇を相談すると、兵士たちに指示を飛ばしていたバレンが遅れて現れ、シュオウに向けて敬礼をする。

「准砂、お待ちしておりました。城内に侵入した一部の住民たちが投降を拒否して立て籠もっています。それに加え、一部の区画にも抵抗を続ける兵士たちが詰めている状況。彼らを傷つけずに外に出すには時間がかかるかと思われます――」

次にシュオウの耳元に聞き覚えのある声が響く。

「シュオウ殿、お知らせしたいことが。アイセ・モートレッド殿を始め、城に残されていた皆さまの所在についてです――」

空洞のなかで風が鳴るような独特な響きを持つ音は、フクロウの晶気を用いた囁きである。

次に、クロムが駆け込んできて、

「ご報告いたします。我が君に命じられていながら、敵を取り逃がしました……ッ。この期に及んではどのような罰でも受ける所存! 我が君に討たれるのならば、すでに覚悟はできております!」

半泣きで尻を向け、ズボンを下ろそうとしたクロムを、レオンが慌てて食い止める。

その時、

「准砂はお忙しい身だ、あまり先走ってご迷惑をおかけするものではない」

悠々と現れたネディムがクロムを宥めるように背中を撫でた。

ネディムはシュオウの前で辞儀をして、

「准砂、おつかれさまです。貴族の居住区に身を置く家々の者たちは、今のところ大人しく留まっています。ボウバイトの助力を得られたようで、この状況ではなによりの成果と存じます」

側に控えるディカ、そしてその後ろで隊列を組むボウバイト軍を見て言った。

シュオウは先にある城を見上げ、

「まだ片付いてないことだらけだ、手伝ってくれ」

ネディムはまた一礼し、

「尽力いたします。その前に、准砂にお目通りを願う者がおります、よろしいでしょうか」

促され、ネディムの背後から一人の少女が歩み出る。

壮麗な軍服を纏い、透明感のある頭髪と大人びた顔付きをしたその風貌に、思わず氷長石を身に宿す、一人の少女の姿を思い出す。

少女はシュオウの前で軽めの辞儀をして、

「冬華六家ユメギクの輝士、ユーカ・ネルドベル、と申します。お初にお目に掛かります」

礼儀正しくとも、どこか秘めたる疑念も滲ませる視線に、シュオウはまっすぐにそれを受け止める。

ネディムは両者の間に立ち、

「ネルドベル家が積極的に協力を申し出てくださいました。兵を出して上街の混乱を鎮めるのにも尽力をいただき、そのうえ食糧や物資の提供まで申し出てくださっています」

ユーカが冬華という立場であることを訝り、

「事情をすべて知ってるのか?」

シュオウは確認のためにネディムに問う。

ネディムは首肯し、

「はい、すべてを」

シュオウはあらためてユーカを見つめ、

「ありがとう」

なにげない日常のなかの一言のように感謝を伝える。

ユーカはきょとんとして、

「あ……? いえ……」

瞬きを繰り返した。

シュオウは振り返って城を見やり、

「今から城内を制圧する。その後はこの城を収容所として活用する」

その言葉に周囲にいた者たちは驚きを表した。

「城を難民たちの避難所になさると……」

ネディムが呟くと、シュオウは大きく頷いた。

「家を無くした難民たちを一箇所に集めておいたほうが管理がしやすい。ここなら水の確保もしやすく、食糧も保管できて、調理や配膳もしやすい」

ネディムは頷き、

「なるほど……思いつきませんでした」

シュオウは集う者たちに視線を送り、

「バレンはボウバイト軍を指揮して城の出入り口を封鎖しろ。レオン、夜のうちから難民たちを移動させる、準備をすすめておいてくれ――」

二人は同時に頷き、命令を実行に移すために場を離れていく。

シュオウは続けて同行するヴィシャを見て、

「領民を代表して話ができる人間が必要になる」

まっすぐ見つめるその視線の意を汲み、ヴィシャは自分を指差して顔を引きつらせた。

「俺か?!」

シュオウが頷くと、ヴィシャは首をふり、

「あんたも知ってるだろう、俺は領民代表なんて柄じゃねえ」

「自分の身を切って飢えた住民たちに施しをしていたな。俺には、それだけで十分資格があると思う」

ヴィシャはなおも顔を歪め、

「俺は光の当たらない世界を生きてきた人間だ、相応しいとは思わねえ。だが、いまそれが必要だってんなら……一時的になら引き受ける」

頷いたシュオウの前に、クロムが膝を落として辞儀をし、

「我が君、私にもどうかご命令を! 取り逃した敵を追えと言われれば、地の果てまで追いかけますッ」

シュオウは一瞬返事に窮し、ネディムに視線を送った。

「追わせるべきか?」

ネディムは逡巡の後、首を横に振り、

「デュフォスを逃したとあっては、おそらく行き先は近隣にいる諸侯の領地――公妃殿下と太子殿下がおられるバリウムを目指すはず。しかしそれを食い止めたところで、いずれこの件は外に知られることになります。それが遅くなるか、早くなるかの違いでしかありません」

シュオウは首肯し、

「追わなくていい」

クロムに告げた。

クロムは顔色を変えてシュオウの足元にすがりつき、

「ですが!」

「やることが多い、俺の側について手伝ってくれ」

クロムは情けない顔を深く沈めた後、顔を勢いよく上げて破顔した。

「は、我が君の仰せのままに!」

シュオウが城を見やったその時、城内から出てきたジェダの姿を見つけ、険しく眉根を寄せる。

ジェダはシュオウに向けて手を上げながら駆け寄り、

「すまない、そっちに向かうべきだとも思ったが、残してきた者たちの安否が気がかりでこっちを優先した。動ける範囲で探したんだが、どこにも彼女たちの姿が見当たらない」

血の繋がった双子の姉、ジュナを残してきたジェダとしては、その無事を確かめたいと思うのは当然のことである。

シュオウは、

「そのことなら――」

フクロウから報告を受けたばかりの、ジュナたちの隠れ場所についてジェダに教えた。

ジェダはほっとした様子で、

「よかった、僕が行って確かめてこよう」

シュオウは虚空を見上げ、

「聞こえているか? 案内を頼む」

姿を隠してこちらを伺うフクロウに向けて言った。

すぐに耳元から、

「承知――」

と返事が返ってくる。

去り際、シュオウはジェダの腕を強く掴み、

「ジェダ――ボウバイトの件について、後で話がある」

ジェダは一瞬で顔から感情の色を消し、側に控えるディカを見て、

「……わかった」

暗い顔で頷いた。

夜が深まる頃。

ボウバイト家の広い邸内は、洞窟のように足音がよく響く。

ジュナの無事を確認した後、ジェダはシュオウの呼び出しに応じ、このボウバイトの邸まで足を運んでいた。

重い表情のシュオウと傍らにいるディカを見れば、呼び出しの理由を聞くまでもなく理解できる。

人気の少ないボウバイトの邸、その一室の前に佇むシュオウが、締め切られた部屋の奥から隠しきれない死臭を嗅ぎ取り、暗く表情を沈ませた。

「わざわざ、直接見なくても――」

扉に手をかけたシュオウへ、ジェダは思わず声をかけていた。

シュオウはジェダを一瞥し、言葉を無視して扉を開く。

「……ッ」

一層強くなった臭気に、同行するディカが息を止めて鼻を覆った。

殺戮の成果が、淡い灯火に照らされた。

最後に見たときのまま、暗幕に覆われた室内は、細切れにされた肉片と零れ落ちた大量の血がそのままに残されている。

その光景を前に、シュオウはじっとしたまま、強く拳を握りしめた。

無言の背中に耐えかね、ジェダは辿々しく口を開く。

「これは、ボウバイトを、味方に引き入れるために――」

シュオウは僅かに肩に力を入れ、

「これをやる必要があったのか?」

常になく硬い声で問われ、ジェダはたじろぎつつ即答する。

「必要だった。将軍が最も欲するものを差し出さなければ――」

言いかけでシュオウは勢いよく振り返り、

「本当に必要だったんだなッ」

ジェダを睨み、再度問う。

見るものを硬直させるような強い視線を受け止め、ジェダはしかし、臆することなく首肯した。

「時間を戻せたとしても、僕は同じ事をする。君には――僕たちにはボウバイトの兵力を得ることが不可欠だった。彼らの助力の有無によって、これからの立ち回りは大きく異なる。君が望むことを実行するためにも、これは絶対に必要なことだった」

気づけば、ジェダは早口で理由を語っていた。

殺人行為に理由を与えることなど、ジェダにとっては希なことである。それは日常であり、常に必要なことだったからだ。

しかし、この場において、人生で出会った者の中でただ一人だけ、シュオウを前にしてのみ、自らの行為に言い訳染みた言葉が、際限なく浮かび上がってくる。

目を合わせたまま、ジェダの額に汗が滲んだ。

シュオウはまるで戦場に立っている時のように、はっきりと眼を開いたまま、

「わかった」

言って、小さく息を吐いた。

そのまま振り返って足元に広がる死者の破片を見つめ、

「片付けるぞ」

ジェダは手をあげ、

「いや、君にそんなことは――」

直後にディカが、

「あなたにそのようなことはさせられませんッ。アーカイドが信頼できる者を手配していますので――」

シュオウは無言でディカに首を振り、

「それでも、できるだけのことをやっておきたい」

躊躇なく、地面に散らばる肉片に手を伸ばす。

その姿を見て、ジェダは苦しげに目元を歪め、自らが散らかした死者の破片に手を触れた。

その時、

「……俺が、こうしろと命令したんだ」

呟いたシュオウの一言に、ジェダは慌てて顔を上げ、

「待ってくれ、それはッ――」

シュオウはジェダを睨みつけ、

「俺がお前に、これをやれと言ったんだ。いいな?」

有無を言わさぬ強い口調でそう告げる。

汚れた手を握り絞め、ジェダは奥歯を噛んで頷いた。

「宰相殿」

城の上階、外気に晒された通路に立つ人物の背中に、ネディムは手を上げて声を掛ける。

宰相、と呼ばれたツィブリは軽く頷き返し、

「カルセドニー、か……」

言って、軽く会釈をした。

ツィブリはせり上がった矢間の内から、城の中庭を覗いていた。ネディムに挨拶をした後、再びその視線を外へ向ける。

ネディムは歩み寄ってツィブリに肩を並べ、

「宰相殿がご無事であられて安心しましたよ」

白い息を吐き出した。

ツィブリは自嘲するように、

「宰相などと……いまや私はただの馬糞拾いにすぎない、知っているだろうに」

「馬糞拾いが、兵を説得して待避させられるはずもありません。各所から話を拾いましたが、あなたのおかげで多くの血が流されずに済んだのだと理解しています、お見事でした」

ツィブリは視線を釘付けにしたまま眉間に皺を寄せ、

「……生きている間に、このような光景を見ることになろうとは」

眼下では、正門から続々と難民たちが列を成し、城内に入っていく様子が見られる。

下街で暮らしていた平民である彼らは本来、生涯に一度でも城の敷地に足を踏み入れることなく死んでいく者たちが大半である。

ネディムはツィブリと同様に眼下に広がる光景を眺め、

「住む家を失った者たちを城に受け入れると、あのお方がお決めになられました」

「……ドストフ様はどうなっている?」

ネディムは後ろを振り返って視線を流し、

「自室に移されましたよ。治療を施され、現在は監視下に置かれながら監禁されておられます」

ツィブリは肩の力を抜き、

「ご無事であられるのなら、よかった」

「宰相殿は、あれだけの処遇を大公殿下から受けていながら、その忠誠心には敬意を表します」

ツィブリは複雑に表情を曇らせ、

「そればかりでは……あのお方にもしものことがあれば、ここがいったいどうなるものかという思いがあってのこと」

ネディムは首肯し、

「仰るとおり、現状だけでもとても危うい状況です。このうえ大公殿下の身になにかあれば、銀星石の手の付けられないほどの憤激を買うことになる。あのお方にとっては、それだけは避けなければなりません」

ツィブリは、

「すでに手遅れであると思うが……よもや、このようなことにカルセドニー家が全面的に加担するとは思いもよらなかった」

「当家だけではありませんよ、ネルドベル家も比較的協力的であり、他の家々も現在のところは大人しくしています」

ツィブリは鼻で笑い、

「目の前にボウバイトの軍がちらついていては、泣く子も声を潜めて首を縮める。あの連中は常に我が身が大事なだけだからな」

言いながら、ツィブリの視線は城内の治安を監視するように配置されているボウバイトの兵士に向けられる。

ツィブリは神妙な顔をつくり、

「しかし、あのお方がこうまでなさるとは……」

ネディムは涼しい顔で応じ、

「中央都の治安は乱れに乱れ、領民たちは飢えて足場を失った状態にあり、都内の権力構造は歪に形を変化させてしまいました。このような時だからこそ、この国に長く仕える、手堅い熟練の経験を持つ執政が必要とされるでしょう」

その視線はじっとツィブリを捉えて離さない。

ツィブリは狼狽え、

「私は……いまさらそんな……」

「あのお方の側には、有能だが冷酷な気質を持つ者も仕えています。強硬派ともなりかねないそうした者たちを押さえ込むには、私一人の力では不足する可能性が高い。どうか、お力をお貸しくださいますよう、ご検討ください」

ツィブリは自らの手を上げて見る。凍えるような環境で過酷な労働に就いてきた結果、皺だらけの手には、下民の労働者の如く、傷やたこが無数にできている。

「私に、ターフェスタを裏切れというのか……」

ネディムは眼下の難民たちを見て目を細め、

「今回の件は、国とはなにか、という問題に起因します。それは宗主たる大公家であるのか、それともこの国に生きる人々であるのか。件の人物は後者であると考え、それを行動に移した。あなたは自分の意志に従ってなにを選択するのかを決めることができる。かの人物に協力をしている私としては、有能な者を取り込む努力をしなければならない。ただそれだけのことですよ」

ツィブリは深く溜息をつき、

「……よくわかった。だがどうか一人にしてほしい、その口を聞いていると、自分の意志とやらに自信が持てなくなってくるのでな」

ネディムは微笑を浮かべ、

「お邪魔いたしました、お話があればいつでも……失礼いたします、宰相殿」

恭しく一礼し、静かにその場を後にした。

ジュナ・サーペンティアは寝台の背もたれに寄りかかり、双子の弟であるジェダに微笑を向けた。

「おかえりなさい」

城内の一室、ジュナの私室として使用されていた部屋に入り、ジェダは暗い表情で返答もせず、椅子に座って肘をつき、拳に顎を乗せた。

「……後始末をしてきたよ、僕がばらばらに切り刻んだモノのを、ね」

言って深く息を吐いたジェダに、ジュナは微笑を消して問いかける。

「そう……でも、それだけじゃないみたい」

ジェダは視線を床に落とし、

「必要なことだと信じてやったことだった。でも、どうやら僕のやり方が、彼の機嫌を強く損ねたようだ」

ジュナは目を細め、

「怒られた?」

ジェダは暗い顔のまま片頬を上げ、

「少し、ね。僕が自分で着るはずだった汚名なのに、シュオウがそれを自分で着ると言ったんだ。それが……」

ジュナは声を落とし、

「悲しい?」

ジェダは道に迷った子どものように不安げな視線を上げ、

「……彼は怒っていた、僕のやり方が汚いから。だけど、そうしなければボウバイト将軍を味方に引き入れることは不可能だった。その行程をシュオウは嫌悪していた。それでも、隣に立って僕のしたことを、共有すると言ってくれた」

静々と語るジェダに対して、ジュナはくすりと笑う。

ジェダは抗議を込めてジュナを睨み、

「おかしいかい?」

「だって、とても辛そうな顔をしているのに、嬉しそうに言うから――」

ジュナはジェダを招くように両腕を広げる。

ジェダは寝台に座り、ジュナに身を寄せ、その腕のなかに顔を落とした。

「――嬉しかったんでしょう? あの人が一緒に、汚れることを選んでくれたことが」

双子の姉の腕の中で、ジェダは小さく頷いた。

ジュナはジェダの髪を撫でながら、

「私たちが悲しければ、きっとあの人は隣にいて一緒に泣いてくれる人。そんな人は、生涯に二度と出会えないかもしれない」

透き通るような黄緑色の髪に指を通していたジュナの指先に、不意に強く力がこもる。

ジュナは沈めたジェダの顔を持ち上げ、

「私たちの大切な友人であり、仕えるあの人を、私たちの手で上の世界に押し上げる。それがあなたの夢で、私の夢にもなった。ここを支配下に置くことができたこの機会を、絶対に無駄にしてはだめ」

ジェダは静かに体を起こし、

「ここを必ず彼の物にする……そのために、どんな手段を使うことも厭わない。敵は倒す、それに邪魔をする者は誰であっても――」

よく似た顔の姉と鏡を見るように視線を重ね、

「これからのことを、よく話し合いましょう。きっと、とても忙しくなるから――」

ジュナが言うと、二人は互いに深く頷いた。