軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ラピスの心臓 銀星石攻略編 前

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空に舞った砂塵が、さざめく風と共に白い道へと打ち付けられる。

無数の靴、馬の蹄がたてる地鳴りのような音と振動が、白道に沈む砂粒を激しく揺さぶった。

入れ替わる生と死が無限に続く深界を、兵士の一団が突き進む。

その鳴動に、色褪せた森の奥から鳥たちが慌ただしく空へ羽ばたき去っていく。

兵士の一団は北方諸国の一つ、ターフェスタ公国から派遣された増援軍であり、エゥーデ・ボウバイト将軍の指揮下にあった。

エゥーデの副官であるアーカイド・バライトは、密集して進む一団から一人離れ、先頭に向けて馬を走らせる。

騎乗する赤い軍服の輝士の群れを通り抜け、不揃いに歩みを進める歩兵や荷馬車の集団を抜けた先、そこに捜していた者の姿を見つけられず、アーカイドは表情険しく辺りを見回した。

「眼帯の司令官はどこだ?」

尋ねられた兵士らは顔を見合わせ、

「連中なら行ってしまいました、急いでいる様子で」

その報告を聞き、アーカイドは顔色を変えた。

「それはいつのことだッ」

激しい声に気圧された様子の兵士は身を仰け反らせ、

「い、いつ、というか、いつの間にか――」

「ッ――」

アーカイドは最後まで聞かず、爆ぜるように馬を走らせた。

前後を占める歩兵の集団の中心に、輝士たちを中心として構成された増援軍の中枢がある。そこに鎮座するエゥーデは、先頭集団から戻ってきた副官を見つけ、

「糞虫はどうだ」

軽快に問うた。

アーカイドは深刻な表情で首を振り、

「姿がありません、大幅に先行しているようです」

エゥーデは老いた顔に皺を増やし、

「……張り合って我が軍の指揮権を主張するものと思っていたが。早々に姿を消すとは、野ウサギよりも身軽な司令官殿だ」

嫌みを込めたエゥーデの軽口に、配下の輝士達が一斉に頬を緩ませた。

ボウバイト家の血族である幹部の一人が、馬を進めてエゥーデの隣に並び、

「将軍の威光に怯えて逃げたのだろう、陰東のねずみは臆病で逃げ足が速い」

「――そのうえ病弱というぞ」

咄嗟に、他の者から合いの手が入る。

一連のやりとりに、周囲から嘲笑が起こる。

アーカイドは一人真面目な顔で、

「歩兵を切り離し、追従するべきです」

エゥーデは副官の進言に耳を傾け、重たい鼻息を落とした。

「おめおめと背中を追えば威厳を損なうが……気持ちよく逃げをうたせるのも面白くない」

年功から放たれる鋭い視線を受け、アーカイドは強く頷いた。

アーカイドは馬を止めて、

「本隊が先行する! 全隊に知らせッ」

大声で告げた。

エゥーデは鞭を持って風切り音を鳴らし、巧みな手さばきで馬群から一人抜け出した。

「決めたからには、我らが馬の力を見せつける、続け――」

その一言に、騎乗する者達が一斉にエゥーデの後に続いた。

高速で白道を突き進む馬群は、まるで一つの生物のように、黒くうねる塊となって進んで行く。

エゥーデと、その配下の者達が跨がる馬は、優れた血統と調教の果てに生み出される生粋の戦馬である。

脚力、体力、忠実さと勇気を備えた、磨き上げられたボウバイトの馬が本気を出せば、容易く追いつけるはず、エゥーデを含め、配下の者達も皆がそう思っていた。だが、

「ちぃ、まだか……ッ」

先頭を行くエゥーデが険しく口元を歪めた。

歩兵を置き去りにして先行してから、空の色が赤みを帯びる頃になっても、追う背中はいっこうに見えてこず、時折すれ違うのは、物資を運搬する小規模の荷馬車隊くらいなものだった。

その時――

「む……?!」

エゥーデが突如、馬の速度を緩めて制止した。

エゥーデはすかさず馬から降りて、その足元に注意を向ける。

アーカイドが慌てて駆け寄り、

「どうされました」

エゥーデは顔を 顰(しか) め、

「振れに違和感があった――」

エゥーデは馬の右前足に触れ、

「――熱を持ち、張りがある、痛めたかもしれん」

「私の馬をお使いください――」

エゥーデは言葉を払うように手を上げ、

「もういい、先にある宿場に入り、セリーン・ゼカを休ませる」

亡き愛娘の残した愛馬の血統を継ぐ馬の名を大切そうに語り、エゥーデはその首を丁寧に撫でつけた。

「ですが」

食い下がるアーカイドに視線を返し、

「暗くなる前に休息地で一晩あかし、翌日に出立する。もともと特に急いで向かう予定ではなかった」

有無を言わさぬ声色を察し、

「かしこまりました」

承知を告げた。

赤みを帯びた空が終わりにさしかかる頃、エゥーデが率いる増援軍の本隊は、ターフェスタからアリオトへと伸びる白道〈ルタエノ太道〉の間に位置する宿場町に入った。

宿と繋がった酒場を貸し切りにして、できるだけの料理を作らせ、中央に寄せ集めた食卓の上を埋め尽くさせる。

中央奥の席に座るエゥーデが立ち上がると、一同が酒杯を掲げて視線を向けた。

エゥーデはアーカイドから酒杯を受け取り、

「今日はご苦労。アリオトを目前に控え、明日は早めにここを出る、息抜きはほどほどにしておけよ」

皆が顔を合わせて笑みを浮かべた。

エゥーデが一杯目を口に付けたのを合図に、全員が一斉に酒と食べ物に手を伸ばす。同時に壇上の演奏家たちが賑やかな音楽を奏ではじめた。

音楽と談笑に包まれた食卓の空気は、まるで宴会のように和やかで楽しげである。

エゥーデは骨付き肉に噛み付きながら、末席でぼうっと座る孫のディカを見つめていた。

近くに座るボウバイト一族の幹部たちは、食事に手を付けず真面目な顔で、

「エゥーデ様――」

エゥーデは食事の手を止めぬまま、

「なんだ」

一人が頷いて皆と視線を合わせた後、

「眼帯の司令官のことです」

エゥーデは顔を顰め、

「今はやめろ、不味い肉が余計に不味く感じる」

しかし、発言者は怯むことなく、

「アリオトに入りしだい、奴を始末しましょう」

「…………」

背後に控えていたアーカイドが、息を殺して聞き入る気配が伝わる。

エゥーデは自身に視線を寄せる一同を眺めた。微動だにしない皆の目線から、一心に違わぬ気持ちが伝わってくる。

エゥーデは口元を緩め、

「もとよりそのつもりであるわ」

一同が破顔して顔を見合わせる。

しかし、アーカイドは冷ややかな声で、

「アリオトの司令官の任命は大公直々の決定です。さらに、件の人選にはバリウム家が関わっている、結論を出す前に慎重を期すべきです」

ボウバイト家の幹部の一人が声を荒げた。

「弱腰なッ、戦地へ入れば現地の判断が優先されて然るべきだ。ヤツは陰東の出、それも濁った石を持つ者を誰が指揮官として認めるという、そのような者を放置しておけば、アリオトの指揮は乱れ、ターフェスタの仇となる。それに――」

男は周囲をちらりと見た後に声を潜め、

「――現地での滞在が長引けば、増援軍の運用にかかる戦費の負担はボウバイトにのし掛かる。適当に見栄えのする手柄をあげて切り上げるのが得策ではないか、所詮は大公家の見栄のための戦だ、使い潰されても得るものなど何もない」

親族一同が強く頷く中、アーカイドが険しい顔で反論に出ようと踏み出したその時、エゥーデは手を掲げ、次の一言を制止する。

アーカイドはその意を察し、

「……」

言葉を飲んで、踏み出した足を引き下げた。

皆の視線を受けながら、エゥーデは再び離れた場所に座る孫のディカを見やった。

戦士の家系に生まれながら、温厚な性格を持って生まれたディカは、まるで自分の目指すべき運命を忘れてしまったかのように、覇気のない顔で虚空を見つめている。

その表情、その態度に、不安が募る。残されされている限られた寿命という時間の中で、ディカの後継の座を固めなければならないのだ。

酒に煽られて生じた言い知れぬ焦燥感から、エゥーデは次の一言を発していた。

「……到着次第、糞虫とその一派を仕留めるぞ」

「おおッ――」

喜ぶ親族達とは対照的に、アーカイドは苦々しく喉を鳴らした。

「どうか再考を願います、副司令が司令官を謀殺するなど、閣下の御名に傷をつけかねません。それに、事後のアリオトの動向も予測がたちません。アリオトに駐屯しているのはターフェスタの軍だけでは――」

エゥーデは後ろを振り返り、

「アーカイド、お前の懸念もっともだが、あの糞虫を踏み潰したとて、アリオトの兵に誰一人として異を唱える者などあるものか。東方を裏切った糞共の石を落とし、それを土産にムラクモに対し、我らにとって多少なり利のある講和の条件を勝ち取る、それによって大公家の顔も立つだろう。決めたからには迅速に動く、早速支度に取りかかれ」

アーカイドは一瞬の躊躇いの後、僅かに頷き、

「……ディカ様には?」

エゥーデは遠目から孫の顔を見つめ、

「放っておけ、いずれ知ることになる」

飲み食いの賑やかさから離れ、アーカイドは一人店の外へと出た。

「バライト重輝士、報告します」

現れた数人の部下達を前に、アーカイドは頷いて、続く言葉を促した。

「司令官一行を見た者がいたか」

部下の一人が首を振り、

「いいえ、それらしき姿を見たという情報は得られませんでした」

アーカイドは視線を落とし、

「休憩もとらず、あのまま走り続けている……」

「もしくは、別の場所で休んでいるかもしれません」

「かもしれない、だが……」

この町よりも施設が整った休息地は、近隣には存在しない。休むのであればここを選択する、彼らに帯同するネディム・カルセドニーなら、それを知らないはずもない。

――到着を急いでいる。

なんのためか。後ろ髪すら見えぬほどの進行速度なのだとしたら、あまりにも必死すぎる。

妄想がふくらむが、後手に回っている現状では無意味でしかない。

アーカイドが無言で考え込んでいると、

「バライト重輝士、この後はどのように」

アーカイドは今に意識を戻し、

「後続との合流を優先することになる。お前達にも伝えておくが、将軍が決定を下された――」

詳細を聞き、部下達は互いに深刻な表情で視線を交わす。

「――出立は早朝になる、皆が潰れる前に店の者に酒を隠させろ。合流後は強行軍となる、馬の状態も夜のうちにたしかめておく。後続部隊の現在地点の把握も進める」

部下達が頷いて、足早に各々の仕事に向かっていった。

アーカイドが全員を見送った直後、

「セリーン・ゼカの様子は?」

細く掠れた女の声に、不意を突かれたアーカイドの心臓が大きく跳ねた。

「ディカ、様……」

物影から姿を現したボウバイト家の公女ディカ・ボウバイトは、街の通りから漏れ伝わる微かな明かりに照らされ、ぼんやりとした視線でアーカイドを見つめていた。

「いつから、そこにおられたのですか」

ディカは瞼を落として、

「お婆さまのお考え、すべて聞いたわ」

アーカイドは緊張させていた肩の力を抜き、

「そう、でしたか」

ディカはしかし、何事もなかったかのように周囲を見渡し、

「あの子はどこ?」

場所はわかっている、しかしアーカイドは返答を躊躇った。

「それは…………」

ディカはぼんやりとした顔で、

「私が馬に乗って、あの人に知らせにいくことを心配している?」

図星をつかれ、アーカイドは小さく頭を下げた。

「そうではない、と言えば嘘になります」

ディカは小さく鼻息をおとし、

「そんなこと考えていない、それに、セリーン・ゼカ、あの子は子供の頃から夜を怖がる癖がある、今からここを飛び出していくなら、あの子より足が遅くても別の馬を選ぶでしょう」

アーカイドは頷き、

「こちらです、私がご案内してもよろしいですか」

セリーン・ゼカを置いた厩舎のほうへ体を流しながら問うた。

「どうぞ好きに、あなたはいつもそうするでしょう」

ディカは短く返し、示された方へと歩き出した。

厩舎に入るなり、ディカを見つけたセリーン・ゼカが嬉しそうに首を振った。

ディカは無表情のまま、セリーン・ゼカの頬を優しく撫でつけた。そのまま柵を越えて屈み込んで足に触れ、その様子を観察する。

不気味なほど淡々とした様子のディカを前にアーカイドは、

「心中をお察しいたします」

ディカは視線を馬の足に合わせたまま、

「大丈夫、硬い白道を走り通しで、少し疲れただけみたい」

「いえ、そのことではなく……」

ディカは溜息をこぼし、ゆっくりと立ち上がってアーカイドへ顔を向けた。

「なにも心配なんてしていないわ。謀略を用意しても、あの人はきっと黙ってそれを受け入れるような人じゃない。あなたもお婆さまも、あれを見れば、きっと私と同じように思うはず」

アーカイドは真剣な顔付きで、

「あれ、とは?」

ディカは頷き、遠くを見つめた。

「嵐のようだったし、神の救いの光のようでもあった、それにあれは…………終末になびく枯れ枝のような、置き去りにされた死、そのものでもあった」

癖の強い抽象的な言いように、アーカイド首を傾げた。

「私にはおっしゃりようがよく……」

無表情だったディカが薄らと、口元だけで笑った。

「矛盾する二つのもの、それを同時に併せ持つことをなんと言うか知っている?」

話についていけないまま、アーカイドは曖昧に首を振り、

「……わかりません」

ディカはさらに口角を上げ、

「奇跡」

朧気な光を頼りに、瞬くことなく開かれたままの琥珀色の瞳を前に、アーカイドの平常心が不穏に揺れる。

「お嬢様は、その者の事を……想われておいでなのでしょうか」

微かな動揺から、思わず昔の呼び方をしてしまう。

ディカは困ったような顔で笑い、

「さあ、どうだろう。お婆さまが望む私でいようと努めている間に、本当の自分がわからなくなってしまった。新雪のような心根が、まだ自分の中にあるのか、よくわからない――――」

敵対的な辺境の勢力を目前にし、常に外敵から門を守護してきたボウバイト家の当主は、必然として強靱な統率者である事が求められてきた。

老いてもなお、血の気の多い一族や兵士らを束ねているエゥーデは言わずもがな、その娘であるディカの母も、未来のボウバイト家当主としての適性に長けた人物であったが、その母から生まれてきた一人娘のディカは、母や祖母の資質を受け継ぐことなく生を受けた。

アーカイドは苦しんできたディカの実情を身近に見てきた。獅子の家系に生まれた一頭の馬は、その身に合わない重たい鎧を背負わされて苦しんでいる。

エゥーデの後継の座を固めるために送り出された戦場から戻って以降、ディカはまるで心を雲の上に囚われたように、その視線は定まらない。

ディカはゆったりと馬の首を撫でながら、

「お願いアーカイド、お婆さまには内緒で画材を調達して。ターフェスタから持ち込んだ物は、全部深界に降りる前に捨てられてしまったみたい」

当主であるエゥーデの意向を知る身であり、ディカの要求を諫めるべき立場にあるアーカイドは、しかし、かつて忠誠を誓った亡き主の面影を宿すディカを前に、

「おまかせください、ディカ様」

その望みに、逆らうことはできなかった。

朝陽の下、深界白道の上で、ボウバイト将軍率いる増援軍が群れを成していた。

「将軍、後続隊との合流を完了いたしました」

アーカイドの報告を聞いたエゥーデは馬上から頷いた。

アーカイドは続けてエゥーデに、

「後続隊は休みなしです、多少なり休息をとらせるべきでは」

エゥーデは厳めしく鼻を鳴らし、

「休みなど後からでもかまわん、ついてこられない者は置いていく。それよりも、糞虫は先に入ったと思うか」

アーカイドは首肯し、

「はい、ここまでの状況から判断して、おそらく――いえ、間違いなく」

エゥーデが鼻に皺を寄せて猛々しく笑む。直後に手綱を引いて馬を反転させた。居並ぶ部下達に向けて胸を張り、大きく息を吸い込んで、

「聞けッ、東門を賊が占拠したとの報が届いた――」

皆が一斉にざわついた。

「我らはアリオト解放のため進軍を急ぐ、全隊に屋内での戦いを想定した武器の着用を命じる、到着次第、ボウバイトの旗の下、賊を完膚なきまでに討伐するッ」

エゥーデに近いボウバイト家の将兵らが一斉に武器を掲げ、雄叫びをあげた。波打つように、兵士らの咆哮が端から端まで広がっていく。

アーカイドの物言いたげな視線を受け止めるエゥーデの血走った眼は、年齢を忘れさせるほど爛々《らんらん》と血をたぎらせていた。

「我が行うは司令官への反逆ではなく、賊の討伐、物は言い様だろう――アリオトに到着後、門をくぐり次第やつらを討つ」

アーカイドは渋った顔を僅かに沈め、

「…………はい」

副官の曇った表情を見たエゥーデは、

「不満か?」

「アリオトに駐屯するカトレイ軍が気にかかります」

「所詮は傭兵の群れ、阻む理由などあるものか。が、もし阻んできたとしたら、諸共に絞め殺すまで」

直線にほとばしる老獪な視線に、有無を言わさぬ強行な意思が宿っている。

アーカイドは無言で頷き、同意を示した。

一度前を向いたエゥーデはなにかを思い出したように振り返り、

「ディカの目の前で糞虫の喉笛をこの手で切り裂く、生け捕りを厳命しておけ」

望む結果を信じて疑わないエゥーデの宣言から後、時が過ぎる。

白道に蓋をするように鎮座するアリオトの全貌が見えてくる。

塊となって行進を続ける増援軍の中心で、エゥーデは側にいるディカを呼びつけた。

「ディカッ」

ディカは暗い表情で馬を寄せ、

「はい」

「先頭へ出る、ついて来い」

颯爽と馬を走らせるエゥーデに、ディカは遅れないよう馬を走らせる。そのすぐ後ろを、アーカイドが曇った顔で追走した。

「お婆さま、あの……?」

目的がわからないまま困惑を示すディカに、エゥーデは鋭い眼を向け、

「これから先、起こる事のすべてをお前に見せる」

「すべて…………」

「軟弱では領地は治まらず、内に潜むネズミに足をかじられる。お前はボウバイトの領主となる身、西門を守護して蛮族共をしりぞけ、内をまとめて領地を守り、ターフェスタにボウバイトの真価を認めさせ続けなければならない。そのためにお前に学ぶ機会を与える、強者がいかに力を知らしめるか、弱者がいかに惨めに死すか、とくと見ておくがいい」

ディカは祖母の説教に返事をせず、ただ暗い顔で、馬上から流れる景色を見つめていた。

エゥーデを先頭に、帯同するディカ、アーカイドの三名が増援軍の先頭に出て間もなく、一行は東門アリオトの門前に到着した。

エゥーデは前を向いたままアーカイドに向け、

「用意は」

「は、整っております」

アーカイドは淀みなくそう答える。

ディカは城門を見つめ、緊張した面持ちで息をのんだ。

だが、しかし――

いつまでたっても、門が開くことはなく、中から動きがあるような気配すら伝わってこない。

エゥーデは僅かな動揺を声に混ぜ、

「どうした、なぜ開門しない……」

アリオト門前に到着した増援軍の兵士達を前に、通常先んじて開かれていてもおかしくないその門は固く閉ざされたままだった。

「なにをしている、ただちに開門をさせよッ――」

苛立ったエゥーデが馬を進めて怒鳴り声をあげる。

城壁の上に姿を現した男を見て、エゥーデは苦々しく顔を歪めた。

「糞虫……ッ」

悠々と佇むその男、シュオウは高みからエゥーデを見下ろしていた。

エゥーデは馬を前に進めて声を張り上げ、

「増援軍が到着したのだ、今すぐ門を開けよッ」

シュオウは高くあごをあげ、

「だめだ」

短く、しかしはっきりと聞こえる声で告げられたその一言に、エゥーデは腕をだらりと下げ、

「な、に…………」

だらしなく、ぽかんと顎を落とした。

しんと静まりかえる門前で、くす――と場違いなディカの笑い声だけが、エゥーデの耳に不快に響いた。