作品タイトル不明
220 生き残りと新称号
突如として出現したエクストラボスの群れが黒髪の青年によって討伐された後、斎藤を始めとする【ミューテーション】の面々は、まず治療を行うことにした。
それから約一時間後、ようやく最後の一人が意識を取り戻す。
アレだけの強敵と遭遇しながら、一人として死者を出さずに済んだのは、まさに奇跡という他ないだろう。
そこまで考えた後、斎藤は「いや」と首を横に振った。
(確かに、奇跡に等しい確率だったかもしれないが……俺たちが助かったのは あ(・) の(・) 青(・) 年(・) のおかげだ。彼がいなければ、間違いなく全滅していた……)
紙一重であったことを自覚し、斎藤の体がぶるり震える。
同じようなことを他のメンバーも考えていたのだろう。次第に場は、あの黒髪の青年に関する話題一色になっていた。
「俺たちを救ってくれたあの青年は、結局何者だったんだ?」
「そんなの分かるわけないでしょ。あれだけの若い男で、Sランク魔物をソロ討伐できる冒険者なんて聞いたことないもの……」
「そうだよな。この前、最年少でSランクに到達した【宵月】所属の冒険者は、女の子だって話だし……」
疑問と推測を交わすも、答えが出る様子はない。
それもそのはず。彼の正体を見抜くには、あまりに情報が欠けていた。
そんな中、斎藤は眉をひそめつつ、自らの思考に沈む。
(今朝彼と話した時に、せめて名前だけでも聞いておくべきだったか……とはいえ、名乗らずに立ち去ったことから考えると、もしかして正体を明かしたくないのか? 彼の意図するところは分からないが……いずれにせよ、今回の一件についてはギルドマスターに報告するべきだろう)
あの人なら独自の情報網で、既に何か情報を掴んでいる可能性だってある。
後のことは任せるべきだろう。
それよりも現状、遥かに重要な問題があった。
「そうだ。今は彼のことよりも、どうしてこんな事件が起きたか明らかにする必要がある」
レベル10万のジオ・イクシードを始め、強力なエクストラボスが大量発生するという異常事態。
恐らくは尾形たちのせいであり、もし直接話を聞くことができればすぐにでも原因が判明するが……それは難しいだろうと斎藤は予想していた。
(アイツの性格なら、あれだけ強力なエクストラボスが現れた時点で撤退を選ぶはずだ。だけど一時間以上経っても、尾形達がこの階層まで上がってくる気配はない。ということは恐らく――)
事件に巻き込まれ、全滅したと考えるのが自然。
自業自得だと言ってやりたい気分だが……原因が分かっていない現状、さすがにそこまで言ってしまうのは早計だろう。
斎藤は服についた汚れを払うと、切り替えてこれからのことをメンバーに告げることにした。
「聞いてくれ、皆。もう少しだけこの場で休息を取ったのち、俺たちは地上への脱出を目指す。今回の事件についての調査は、ギルドマスターの指示を仰いでから決めることになるだろう」
その方針を聞いてホッとする面々。
生きて地上に戻れることを強く実感したのだろう。
疲労や怪我は多少残っているが、この様子なら地上に戻るくらい問題ない。
そう斎藤が思った直後だった。
「だ、誰か、いるのか……?」
離れたところから、弱り切った声が届く。
視線を向けると、そこには大量の傷を負った男性の姿があった。
服装からして【 無敵の(パーフェクト) 超越者(・カイザー) 】のメンバーだ。
「おい、大丈夫か!? 他の奴らはどうした?」
「じ、実は……」
生き残りがいたことに驚きつつ、斎藤は男性のもとに駆け寄り治療を行う。
すると彼は、ゆっくりと絞り出すように事情を話し始めた。
語られるこれまでの経緯。
ギミックの内容と、尾形が下した愚かな判断。
この男性は尾形の行動を止めようとしたのだが、強引に押し切られてしまったらしい。
その後、メンバーが次々とジオ・イクシードに食われていく中、男性は高いスキルレベルの隠密を有していたこともあり運よく見逃されたとのことだった。
全てを聞き終えた斎藤は、尾形の行動に対し不満を抱きつつ、優しい言葉を投げかける。
「そうか、よくここまで生還してくれた。もう大丈夫だ」
「それ、なら、よかった……」
そう告げると、男性は意識を失った。
体力に限界が来ていたのだろう。命に別状はないようなので、ダンジョンの外に運びさえすればすぐに回復するはずだ。
「それじゃ、帰還するぞ」
斎藤の言葉に、生き残った面々は力強い返事をした。
◇◆◇
その一方。
「 万(・) 物(・) を(・) 、 喰(・) ら(・) う(・) 者(・) ……?」
合獣ダンジョンを終え、既にダンジョンの外にいる凛は、新しく得た称号の説明を読みながら怪訝そうにそう呟くのだった。