作品タイトル不明
211 尾形 勝己
合獣ダンジョン第44階層。
その一画には、隠し通路からのみ到達できる、100メートル四方から成る大広間――【 隠し区域(ギミックエリア) 】が存在していた。
広間の最奥には祭壇のような台座があり、魔石を嵌めこむための窪みが備わっている。
窪みの上にはゲージが存在し、現在は黄色に染まっていた。
そんなギミックエリアには今、尾形勝巳を含めた【 無敵の(パーフェクト) 超越者(・カイザー) 】の面々が揃っていた。
尾形は苛立ちを隠しきれないといった表情のまま、その瞬間を待っていた。
『 一定時間(クールタイム) が経過しました。ギミックが復活します』
すると室内にシステム音が鳴り響くと同時に、ゲージが青色へと変化する。
「来たか」
その様子を見て、尾形はこの瞬間を待っていたとばかりに笑みを深めた。
「おい、魔石を台座に嵌めこめ」
「はい!」
尾形の指示を受けた部下の一人が、次々と窪みに魔石を嵌めこんでいく。
窪みは魔石に合わせて自由自在に大きさを変えるとともに、少しずつゲージが上昇していく。
計13個の魔石を呑み込んだタイミングで、ようやくゲージが赤色に変化した。
『一定量の魔石投入を確認しました』
『エクストラボス、【イクシード・キマイラ】が出現します』
直後、システム音が鳴り響く同時に室内が眩い光に覆われる。
光が収まった時、祭壇の上には一体の巨大な魔物が存在していた。
――――――――――――――
【イクシード・キマイラ】
・討伐推奨レベル:50000
・エクストラボス:合獣ダンジョン
・投入された魔石の情報と魔力を糧とし生み出された合成魔獣。合成された魔物の種類によって姿と能力が大きく変化する。
――――――――――――――
「グォォォオオオオオオオオ!」
エクストラボス、イクシード・キマイラに鑑定を使用した尾形はさらに笑みを深めた。
「さて、 今(・) 回(・) の(・) 餌(・) はどれだけ私の糧になってくれるのやら」
イクシード・キマイラ。
この魔物は見ての通り、一定量の魔石を投入することによって出現する。
魔石のランクによって強さが決まるのはもちろん、なんとエクストラボス討伐によるレベルアップ報酬すら大きく変動するという特徴を有していた。
レベル15000を倒した際は5レベルアップ。
レベル30000を倒した際は20レベルアップ。
レベル40000を倒した際は35レベルアップ。
サンプル数が少ないため確定ではないが、レベルが上がるごとにレベルアップ報酬の上り幅も上昇していくという仕組みのようだと尾形は結論を出していた。
この【 隠し区域(ギミックエリア) 】が発見されたのはつい昨日。
発見したのは尾形たちとは別の一般冒険者だったが、その価値に気付いた彼は持ち前の伝手を使い、瞬く間に調査する権限を取り上げた。
その理由は当然、この仕様が尾形にとって喉から手が出るほど魅力的に映ったからだ。
尾形は20年前のダンジョン出現時から活動を始め、数多くのダンジョン攻略報酬を手にすることで最前線に立ち続けていた。
だが、時が経つにつれ次々と常軌を逸した実力者が現れ、尾形は徐々にその立場を失っていた。
今では一部から、『今、最もSランクに近い冒険者と呼ばれ続けている男』と揶揄される始末。
プライドの高い尾形にとって、この状況はとても耐えられるものではなかった。
そんななか訪れた今回の好機。
エクストラボスを討伐しただけでは、スパンの影響を受けることはない。
何度でも際限なく、レベルアップ報酬をもらうことができるのだ。
前述したように、その数はダンジョン攻略報酬に比べて微々たるものであるが――数の暴力の前には何の意味がなかった。
一度エクストラボスを倒すたびに 一定時間(クールタイム) が必要になるというデメリットはあるものの、せいぜい5~6時間の範疇に収まっている。
それらを換算すれば、たった一日で100以上のレベルアップすら可能となる。
これがどれだけ規格外の数値など、説明せずとも冒険者なら一瞬で理解できるだろう。
問題があるとすれば、出現するイクシード・キマイラのレベルが50000に達することもあるなど、この合獣ダンジョンに挑戦する冒険者からすればかなり格上なことだが――
「さあ、朽ち果てるがよい!」
「グギィィィイイイイイ!?」
――仮にも尾形は上位冒険者。
レベルはつい先日92000を超えたところ。
ただステータスの暴力に訴えるだけで、レベル50000程度の魔物を討伐するのは簡単だった。
『エクストラボスを討伐しました』
『エクストラボス攻略報酬 レベルが55アップしました』
自身の魔術によって倒れ伏したイクシード・キマイラを見下ろしながら、尾形は満足げに頷く。
「……ふむ、いいぞ。この調子でレベルアップできれば、すぐにでもSランクに到達できるはずだ!」
周囲から嘲りの視線を向けられて数年。
ようやくその理想が現実に近づいていることを理解し、尾形は思わず興奮に身震いした。
こうなったからには、いても経ってもいられない。
たった数時間のクールタイムすら耐えられない程だった。
「……くそっ、苛立たしい! これならいっそのこと、より強力な個体を出現させた方が効率的かもしれぬな」
そんなことを考えながら待つこと数時間。
するとクールタイムが終わる直前、新しい足音が広間の外から飛び込んできた。
「お待たせしました、マスター!」
「……来たか」
そこにいたのは【 無敵の(パーフェクト) 超越者(・カイザー) 】に所属する冒険者の一人。
尾形はその部下に対し、エクストラボス出現に必要な魔石を集めてくるように命じていた。
これまではこのダンジョン内で集めた魔石を使用していたが、それでは出現するレベルに限度がある。
尾形はいっそのこと、より強力な魔石を使用しレベルアップ効率を高めようとしていた。
「それで、魔石は入手できたのか?」
「はい! すごい物を持ってきましたよ!」
部下は興奮状態のまま、まくしたてるように続ける。
「タイミングよく市場にリヴァイアサンの魔石が大量に出ていたので買い占めてきたのです……さらに!」
部下はアイテムボックスから、一つの巨大な魔石を取り出す。
その魔石から醸し出されるただならぬ雰囲気に尾形は圧倒された。
「実はこちらに関しては非売品だったのですが……協会の伝手を使い、裏経路で入手しました」
「……いったい、それは何だ?」
その問いに対し、部下は力強く答えた。
「先日の 迷宮崩壊(ダンジョン・コラプス) にて、現地にいた七海静香が討伐したと思われるSランク魔物――ケルベロスの魔石です!」