軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

108 由衣の視線の先

大学に入学して一週間が経ったころ。

葛西(かさい) 由衣(ゆい) はこれまでとは異なる環境に慣れるべく、必死に頑張っていた。

「おはよう、由衣ちゃん」

「千代ちゃん! おはよ~」

入学式の翌日にあったレクリエーションで知り合った友達と、軽く挨拶をかわす。

そのまま彼女は、講義が始まるのを待っている由衣の隣の席に座った。

由衣は大学に入学してすぐのこの時期に、少しでも多くの友達を作るべきだと考え、今は交流に力を入れていた。

そのため、この一週間はダンジョンにも行けていない。

現在、所属しているパーティーがなく誰にも迷惑をかけずに済むのが、せめてもの救いだった。

講義が始まってしばらく経った頃、やにわに千代は口を開く。

「あ、そうだ由衣ちゃん。実はよさげなサークル見つけたんだけど一緒に行ってみない? そこの先輩がすっごくかっこいいの」

「そ、そうなんだ。それもいいかもしれないね」

ダンジョン攻略は週に一度のバイト感覚で続けるなら、並行してサークル活動などを楽しむことはできるだろう。

あまり強い興味を持っていたわけではないが、とりあえず頷いておくことにする。

(それに、ダンジョン攻略をしてるって説明するのもあれだもんね……)

大学生、特にその中でも女子は、冒険者活動をあまりよく思っていない者が多い。

ステータスを獲得するだけならともかく、本格的に活動するよりも、大学生らしく若さを堪能する方がいいと考える者が圧倒的に多いのだ。

……ステータスを獲得することがなければ、きっと自分もそうなっていたんだろうなと思う。

少しだけ気まずさを感じ、千代から視線を外す。

すると、視界に1人の少女が飛び込んできた。

「綺麗……」

教室の後方に1人で座るその少女は、ヘッドホンを装着しながら講義を聞いていた(たぶん聞いていない)。

落ち着いた雰囲気の、とても綺麗な女の子だ。

あの高そうなヘッドホンで聴いているのは、きっとクラシックなどの何か凄そうな音楽なのだろう。

由衣はそう確信を抱いた。

すると、隣にいた千代が由衣の視線の先にいる少女を見て、「あっ」とこぼした。

「由衣ちゃん、黒崎さんが気になるの?」

「黒崎さん?」

「そう、黒崎 零さん。私と同じ高校だったの。話したことはほとんどないんだけどね。いつも音楽を聴いて他人を寄せ付けない雰囲気だったから」

「そうなんだ……」

由衣は無性に、その黒崎 零という少女が気になった。

できれば話してみたいと、そう強く思う。

だがそれは難しいだろう。

千代の言葉を信じるなら、彼女は他人と関わることをあまり好んでいないらしい。

由衣から話しかけられたら、嫌な気分になるかもしれない

だけど不思議と、それが分かっても由衣の気持ちがなくなることはなかった。

(黒崎さんか……いつか話せたらいいのにな)

そんな希望を、由衣は胸に抱き続けるのだった。

それから、一ヵ月と少しが経った頃。

「あ、零ちゃん! 一緒に帰ろ!」

「……由衣。分かった」

零の後ろ姿を見かけ、由衣は笑顔で彼女のもとへ駆け寄る。

数週間前、凛と一緒にいた時に零と出会って以降、こうして顔を合わせたら話をする関係になっていたのだ。

話してみて分かったのだが、零は決して他人と関わるのが嫌いなわけではないらしい。

とはいえ、特別好きなわけでもないみたいだが。

一度だけ、迷惑かもしれないと思いつつも、どうして普段からヘッドホンをつけて人を寄せ付けないようにしているのかを聞いてみた。

すると零は「くっ、頭が……!」と悶えだしたので、質問はそこで切り上げた。

結局どんな理由だったのかは、今でも分からない。

と、ここで由衣は少し前から零に聞きたかったことがあることを思い出した。

「ねえねえ、零ちゃんは結局、今はソロで冒険者活動を続けてるんだよね? 新しいギルドやパーティーに入ろうと考えてたりはしないの?」

「……考えていないこともない。やっぱり、1人ではなかなか難しい。それができる凛は、色々とおかしい」

「んーまあ、凛先輩は凛先輩だからね! それより、そういうことなら零ちゃんに1つ提案があるんだけど――」

零の返答を聞いた由衣は顔を輝かせて、とある提案を口にした。

その提案を、零も興味深げに聞いてくれるのだった。