作品タイトル不明
赤ムカデ君達との戦闘!
門の前で待っていて貰ったクワイエットに改めて挨拶をする。
「クワイエット、元気だった?」
と焦げ茶色な長い毛の彼女の、その首を撫でると、”元気よ。あなたはどうだったのかしら?”と言うように、穏やかな目で「ブルル」と鳴いた。
何か、厳つい体つきなのに、話していると貴婦人のように見えてくるから不思議な馬だ。
「わたしも元気だよ。
今日もよろしくね」
と答えると、”任せておきなさい”と言うように「ブルブル」と鳴いた。
乗せて貰い、出発する。
因みに、今回は騎乗したアーロンさんに手を引かれる形で乗った。
白いモクモクは人目のある所では余り使わないようにというアーロンさんの注意から、そうなった。
色んな所で使用しているから、今更手遅れな気もするけど、まあ、言う通りにした。
アーロンさんは西方に向かってクワイエットを駆けさせる。
警戒しているのか、 速歩(はやあし) って言うんだっけ?
前世、自転車ぐらいの速度で走っている。
クワイエット(彼女) の走力を考えたら、非常にゆっくりだ。
ひょっとしたら、警戒だけで無く町で出来ない話をするために、速度を落としているのかも知れない。
前に乗るアーロンさんが話し始める。
「巨大赤ムカデは普段なら、年に一匹か二匹程度しか出てこないのだが、今回は春になり、すでに何十匹も目撃されている。
奴らは、非常に凶暴な上に、触れるだけで、体が麻痺してしまう恐るべき魔虫だ。
並の冒険者では太刀打ちできない」
「それって、人間の背丈より少し長いぐらいの奴だよね。
ここに来るまでに見てるよ」
マンモス君( 毛長魔象(けながまぞう) )を襲っていたと説明すると、強ばった声で「それだ」と続ける。
「一匹を相手にするだけでも困難なのに、複数匹となれば……。
熟練の冒険者でもひとたまりも無いな。
サリー、お前は奴らを押さえ込めるか?」
「一人で倒す前提じゃないよね?
やれなくは無いけど、複数匹だと厳しいかな?
結構素早かったから漏れが出そう。
出来れば、待ち構えて一網打尽が理想かなぁ」
「待ち構えて一網打尽か……。
分かった。
少し考えてみる」
アーロンさんが合図を送ったのか、クワイエットが駆ける速度が速くなった。
――
「うわぁ~
結構酷いね」
クワイエットの上で思わず声が出た。
隣町に向かうための街道に赤大鹿さんらしき残骸が散らばっていた。
固められた道や脇に生える若草の上に肉片が落ちている。
鮮血もベッタリ付いていて、なかなかグロテスクだ。
二十匹ぐらいにはなるかな?
頭部だけとか、足だけとか残っているのもいるみたいだから、ひょっとしたら、もっと多いのかもしれない。
「……場所も悪いな」
とアーロンさんの声も苦みを帯びている。
そうだよね。
森や林の奥ならともかく、町から離れているとはいえ、町を行き来する人がそれなりに通るだろう、街道では看過は出来ないよね。
「サリー、悪いがもう少し進む。
出来れば、一、二匹でも見ておきたい」
「構わないよ。
町の用事も、急ぐものは無いし」
「すまんな」
と言いつつ、愛馬クワイエットを先に進める。
……。
いくらか進んだ先で、わたしは唸ってしまう。
「う~ん、あんまり良くないなぁ」
それに対して、アーロンさんは「どうした?」と返してくる。
だが、それに答える 暇(いとま) は無い。
「来るよ!」とわたしが警告するのと同時に、草むらから真っ赤なそれが飛び出てくる。
巨大赤ムカデ君だ。
十匹ほどが同時に襲いかかってきて――二匹、”逃した”!
わたしは両手から出した白いモクモクで捕らえようとする。
一匹は 捕(つか) まえたけど、もう一匹は背後に回られて、 捕(と) らえきれない!
すると、突然、ぐらりと揺れた。
わ!?
何!?
背後でガィ! っという音が響く。
おお!
クワイエットが後ろ足で、蹴り飛ばしたのか!
とはいえ、多分、あれでは倒しきれてない。
わたしは素早く、地面に降りると視線をそちらに向ける。
アーロンさんも下馬して、抜剣する。
「”あれら”は、お前の魔法か?」
「うん」
”あれら”というのは、巨大赤ムカデ君が八匹、襲おうとした形で固まっていることだろう。
白いモクモク縛りをあらかじめ両足からだしていたのだが、彼らはそれに引っかかったのである。
移動に合わせてずらすのが結構大変だったけど、それが功を奏したのだ。
しかし、巨大赤ムカデ君、戦闘能力はそれほどでは無さそうだけど、隠密能力はなかなかなものだ。
結構近くまで来てたのに、気づかなかった。
白いモクモク縛りの罠が無ければ、わたしはともかく、アーロンさんとその愛馬クワイエットは危なかったかもしれない。
転がっていた残りの一匹となったムカデ君は、起き上がると、 わたし(こちら) に向かって 顎肢(がっきゃく) を振りながら、威嚇してくる。
はぁん!?
ムカデ君ごときが、生意気な!
わたしが迎え撃とうとすると、アーロンさんから待ったが入る。
「すまん、わしに試させてくれ」
「え?
でも、毒があるんでしょう?」
「分かっておるが、実力を知っておきたい」
まあ、経験豊富なおじいちゃん組合長にわたしみたいな女の子があれこれ言うのは、それこそ、釈迦に説法なのかもしれないけど、ちょっと心配だ。
前回、武器がへし折れてたし……。
そんなことを考えている間に、巨大赤ムカデ君が距離を詰めてくる。
それに対して、アーロンさんは剣を振るう。
金属同士がぶつかるような音が響く。
多分、アーロンさんが巧みなんだろう、巨大赤ムカデ君の突撃を上手くいなしている。
このままなら、倒せそうな気配はある。
だけど、持ってる剣がどうも頼りない。
今こそ、わたしの、新たなるもう一つの力を見せる時では無かろうか?
準備を始めるも、アーロンさんは剣の技量で巨大赤ムカデ君を押し始める。
あれ?
わたしの心配は杞憂に終わりそう?
でも、アーロンさんの剣では、巨大赤ムカデ君の体を覆う甲殻には歯が立たないのか、簡単に弾かれている。
隙間を狙っただろう突きも、上手くいかないみたいだ。
う~ん、あの剣で、 甲殻(あれ) を切り裂くのは無理そうだなぁ。
それは、アーロンさんだって分かっているだろうけど、それでも、わたしに振らずに戦い続けている。
何か、倒す当てでもあるのかな?
そんな風に思っている内に、アーロンさんは「せいや!」というかけ声と共に、剣先を巨大赤ムカデ君の 口中(こうちゅう) に差し込む。
おお!
口の中は柔らかいってのは定番だ!
これはやれたかな?
だが、口の中もそれなりに堅いのか、紫っぽい体液をこぼしながらも、巨大赤ムカデ君は怯まない。
むしろ、口で剣先をくわえながら前に出る。
「ちぃ!」
アーロンさんは舌打ちをしながらも、剣を引き抜こうとするが、なかなか引き抜けないようだ。
う~ん、このまま行くと、また前回同様、剣が折れる結末を迎えそうだ。
わたしは白いモクモクに魔力を加えるのを再開する。
そして、形作った”それ”をアーロンさんに向けて、山なりに投げた。