軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

輸送力

「やっべ。土を運び出すの忘れてたな。 超集中(ゾーン) に入ったら楽しすぎるのが悪かったかな」

日曜日の夕方までずっとダンジョン内で穴掘り作業をしていた。

超集中(ゾーン) に入り、自身の体の動かし方を修正していくことが楽しすぎて、ときおり水を飲んだりダンジョンバーを食べたりする以外はずっとそれをしていた。

が、さすがに帰る時間として設定したスマホのアラームが鳴り、そろそろ切り上げようかと思った時に問題に気づいた。

それは、穴を掘って出てきたダンジョンの土を僕はそのままにしていたという問題だ。

今までは土嚢袋三袋分くらいが溜まったら、それを手押し車に載せて運び出し、ギルドの建物に搬入していた。

それを全くしていない。

最悪の場合、穴掘りして出た土を残していってもいいのだけれど、さすがにもったいない。

ギルド建物に持ち込めばいくらかのお金にはなるし、ダンジョンバーやお弁当代にもなるのだから。

あまりに遅くなるとお母さんになにを言われるかわからないが、急いで持っていこう。

そう考えた僕は、ひとまずいつものように土嚢袋三袋分の土を手押し車に載せて運ぼうとした。

いつもどおりの行動だ。

だが、いつもと少し違った点は僕の左肩にはスーちゃんが乗っており、そのスーちゃんが僕の体から漏れ出る魔力を吸収することで、僕は 超集中(ゾーン) に入っている状態を維持していたことだ。

「……もっと一度に運べそう、かも?」

僕がこれまで手押し車に載せる土嚢袋の数を三つにしていたのは、安定性のためだ。

一輪の手押し車の上に重量のある土を載せたとき、重心が高くなるためにバランスをとるのが難しくなる。

とくに、ダンジョン内も外も地面は完全なフラットの場所などないために、常に転倒を防ぐためにバランス調整を行う必要がある。

また、ただバランスをとるだけではなく、時間短縮のために手押し車は走って押していた。

走りながらでもバランスを取りつつ転ぶことなく運び出せる土の量は土嚢袋三袋分が一番効率が良かったのだ。

だが、 超集中(ゾーン) に入った僕の体は言っている。

もっと土を積んでも大丈夫だと。

今日の午後の間中、ずっと体を動かし、無駄な動きを削ぎ落して、無理な力を入れることなく筋肉や骨、腱がストレスなく最高のパフォーマンスを発揮できる動きをするように努めてきた。

その感覚が告げている。

まだ余裕があるぞ、と。

今までの体の使い方ではだめだけれど、正しく体を操ればいけるのだと教えてくれる。

そんなわけで、僕は三つ以上の土嚢袋を手押し車に載せて、その場で押し、引き、軽く走ってみる。

一袋増えるごとに重量は増し、重心も高くなる。

そのために、走りながらバランスをとるのは急激に難しくなる。

が、一袋追加した段階ではまだいけそうな気がした。

……いける。

いや、本当に大丈夫か?

――—でも。

今の自分なら、できる気がする。

――今日は、自分の感覚を信じる。

少なくともスーちゃんのおかげで 超集中(ゾーン) に入ってからの感覚はかつてないほどに鋭くなり、僕を裏切るようなことはなかった。

これまでの自分の常識を疑い、感覚に身をゆだねる。

そうして僕は、これまでで最高の七袋積み上げ状態の手押し車でギルド建物への搬入を行った。

というか、一輪の手押し車に載せられる土嚢袋の量はこれが限界だ。

僕は、限界の輸送力を発揮しつつ、難しいバランスを取りながら、自分の肉体と魔力の動きにも注意を払いつつ、土を売ってお金を稼いだ。

――—運べる量が増えた。

それだけで、世界が少し広がった気がした。