作品タイトル不明
最適化
体内に魔力を満たし、それが不必要に漏れださないようにする。
僕の体の表面、皮膚の薄皮一枚外側ギリギリ辺りに魔力をとどめてやることで、全身の感覚が鋭敏化し、極限の集中力を得ることができた。
超集中(ゾーン) とでもいうべきその状態では、周囲の音がよく聞こえ、例えばダンジョンの外にいる監視員のおじさんの動く音ですら遠距離からでも聞くことができる。
それ以外にも細かな音がいろいろな方向から聞こえ、それを察知することができるのに、高められた集中力によりそれらの外部刺激が僕の行動の妨げとはならなかった。
鋭敏化した感覚で今までにないほどに種々雑多な信号をキャッチしつつ、僕の意識はそれらを認識しながら、深い集中を保ち続ける。
自分の口から発する息遣いや、心臓の拍動すらも鮮明にわかる。
さらには、穴を掘るという動作を行う際に自身の肉体の動きまでもがこれまでにないほどによくわかった。
筋肉がきしむ音がする。
実際にきしみをあげているわけではないのだろうけれど、僕はそう感じた。
スコップを持ち上げ、構える。
ダンジョンの壁に向かってそのスコップを滑らせるように動かし、突き立てる。
突き立てたスコップの角度を変えて壁の土を浚い、後方に置いた手押し車の上の土嚢袋に土を入れる。
今までに何度も繰り返し行い、ショート動画で穴掘り名人の作業動画を見てそれからヒントを得て真似してきた僕の動き。
超集中(ゾーン) を使うと、そんな僕の体の動きは無駄な動作でいっぱいだったことが手に取るようにわかった。
人間の体は正直なんだと思う。
あらゆる動作に最適な動きというものが存在し、その最適な動きで体を操ることができれば筋肉や骨、腱には無駄な力は必要なく、余計は負荷は一切かからない。
だが、僕は知らない。
自分の体の正しい動かし方を。
生まれてから十数年にわたり使ってきた自分の体のことを何ひとつ理解していなかったと、今になって思い知らされた。
僕の体は悲鳴を上げている。
動きが正しくない、と。
もっと、最適な動きがあると。
無理のないスムーズな動きができるのだと、体が訴えていた。
だけど、僕はその声に一度も気づけていなかった。
それが 超集中(ゾーン) の状態になり、ようやく聞くことができた。
いまだになにが正しい動きなのかはわからない。
だが、体の声は聞くことができるようになった。
ならば、あとは一つひとつの動作で自身の肉体がどんな声を上げているのかを細かく聞きながら修正するしかない。
正解のわからない各種動作を一つずつ再確認しながら手直ししていく。
気の遠くなる、終わりが見えない作業だ。
だけど、そんな行動ですら、極限に高まった集中力があれば苦痛を感じることもなく続けられる。
スーちゃんが、わずかに震えた気がした。
……応援してくれているのかもしれない。
気づけば、どれだけ時間が経ったのか分からなかった。
僕はその日はずっと、スーちゃんに魔力を吸ってもらいながら 超集中(ゾーン) を維持し、動作の最適化作業に取り組み続けていった。