作品タイトル不明
地脈とダンジョン
深夜の帰宅でお風呂から上がった後すぐに寝付いてしまった翌日の朝。
僕はいつもどおりの時間に目が覚めて朝の日課をこなす。
自室でアースソナーを使用し、近隣にモンスターの気配が感じられないかを確認する。
今日も異常なし。
我が家の近くは平和で何より。
それを確認してからジャージに着替えてランニングに行く。
免許を取りに行くことを考えて渚に仕事の紹介してもらえないか相談したが、基本的に僕の毎日の生活は家で勉強していることが多い。
自分の部屋の机の前に座り、タイマーを設置して一定時間ごとに休憩を取りながらひたすら本を読みノートを取っている。
なので、どうしても運動不足になりがちだ。
なんだかんだでダンジョンで遭難し、ひたすら穴を掘って脱出のために動いていた期間は毎日肉体を極限まで酷使する環境だった。
そのおかげで、僕の体はボディービルダーのような筋肉はないけれど、細く引き締まったいい筋肉をしていると思う。
力も体力もかなりあるほうだということだ。
せっかく身についた体力や筋力が、毎日の勉強漬けの生活で落ちてしまうのは嫌だった。
だから地脈再生活動の一環として走ることが増えた。
走って行ける範囲はほとんど地脈の再生も終わったけれど、それ以降もこうしてランニングをしているというわけだ。
早朝の気持ちのいい空気を感じながら駆ける。
この時ばかりはスーちゃんのスライムスーツの助けは借りずに、自分の足の裏でしっかりと地面との反発を感じながら地面を蹴り、スピードを速く維持しながら駆け続ける。
その道中もアースソナーを使うことは忘れない。
以前の癖からか、ランニングでは地脈の流れに沿った道を走ることが多く、この日も再生された地脈を感じながら走っていた。
走っている最中は割と考え事もする。
いつもは適当なことを考えながら走ることも多いけれど、今日は自分の足元に流れる魔力の流れについてが頭から離れなかった。
この地脈ってなんなんだろうか。
感覚的には、地球という星の中心にあるマグマなどから発生したエネルギーが地球全体を巡る際の通り道――それが地脈なんじゃないかと感じている。
ただ、それが正しいのかどうかわからない。
そもそも論だけど、地球の中から魔力が流れているという僕の仮説は正しいのだろうか。
少なくとも、人類の歴史では近世までは魔力なんて確認されていなかったと授業で習った。
だけど近現代になりダンジョンが出現したことで、この世には魔力が存在し、魔物とも呼ばれるモンスターがいるのだとわかった。
逆に言うと、それまでは魔力はなかったはず。
……でも、本当にそうなんだろうか。
地脈の流れが大昔から地球を巡っていたのであれば、それは確かに存在していたことになる。
近現代に入り、地球にはダンジョンが現れた。
なぜ、どうして、というのは専門家たちの意見もさまざまあり、統一された説というのはない。
だけど、昨日の都会での状況を考えたら、こういう説もありなんじゃないだろうか。
ダンジョンが地球に現れたのは、地球に地脈が乱れたからだ、と。
中世の時代まではそうでもなかったのかもしれないが、近代現代に入り、人類の科学技術は大きく進歩した。
そして、それに伴い人類は自分たちの生活を豊かにするために開発を行った。
自然と調和し、共生して生きるよりも、自分たちの都合のいい環境に変えてしまったほうが生きやすいと考えたからだ。
その結果、地上や地下の地脈の流れは無茶苦茶になった。
これがダンジョンが現れる一因になったと考えるのはありじゃないだろうか。
僕がそう考えるのは、ダンジョンが多いのは都市部であるというデータを見たことがあったからだ。
人口が多く大規模に開発された世界的な都市の近くにはだいたいダンジョンがある。
反対に、自然が多く残された場所には少ないという研究結果をネットで見たことがある。
この目で確かめたわけじゃないけれど、きっと世界中の大都会と呼ばれる場所も地脈は乱れて壊れかけているに違いない。
であれば、逆にこう考えることはできないだろうか。
地脈が再生されて安定すれば、ダンジョンも落ち着くんじゃないだろうか。
……どうかな?
それを確かめる術が僕にはない。
なぜなら、うちの家から一番近くにあったダンジョンはなぜか消滅したからだ。
近所の地脈を再生させて安定しているように思う現状がダンジョンにどんな影響を与えたかを検証する機会がないのだ。
結局のところ、僕のこの考えは妄想以上のものではない。
そう結論付けてランニングから帰宅した僕は朝シャワーを浴びていつもどおり朝食をお腹いっぱいに食べることにした。