作品タイトル不明
65 ネフィス同盟
雪解けを待たず、私たちは動き出した。もちろん勇者誕生の所為だ。
冬祭りの後、すぐに会議が行われた。今までの会議とは比べ物にならないくらい真剣なものだ。頑張って議事堂を作った甲斐があったと思ってしまう。少し皮肉だけどね。
会議で決まったことは、被害を最小限に勇者に対抗することだった。
そのためにまずは、勇者の襲撃に遭ったら、スズキタウンとドワーフ王国、獅子族、餓狼族、熊人族、虎人族の里に戦闘力の低い種族や集落はすぐに避難する計画を立てた。これらの町や里は各種族の戦闘力が高いだけでなく、幻獣改め神獣の戦闘力も高いからね。それにドワーフ王国の王都なんて、堅牢な壁があるから籠城戦には持って来いだ。
ルナールが仕切り、どんどんと計画が進んでいく。
「とにかく勇者の襲撃に遭ったら籠城して、時間を稼ぐことです。そのために数日籠城できる施設と食料の備蓄をお願いします。それでこれは言いたくはありませんが・・・」
一旦、話を切ってルナールが言う。
「たとえ全滅するにしても、情報だけは共有できるようにしましょう。仇は絶対に討ちます」
過去の歴史を遡ってみても、勇者には甚大な被害に遭ってきた。
今回も犠牲はゼロにしたいが、それは無理だと思っての判断だろう。一同が悲痛な雰囲気になった。前回の勇者に族長が討ち取られた熊人族とキンググリズリーが声を上げる。
「できるなら、前族長クマズル様の仇を取りたい。どこの里が襲撃されたとしても、我らは駆けつける」
「うむ。クマズルはいい奴だった。我も協力しよう」
これにマンティコアが答える。
「熊人たちもキンググリズリーも無理をしてはならんぞ。まずは安全策を取るのだ」
「そうだよ。体制を整えないと被害が増えるからね」
「分かっている。そのための話し合いだろ?」
これがきっかけになり、建設的な話し合いが行われた。
ドワーフ王国のドワンド王が提案する。
「防衛施設の構築には技師が必要であろう?我が国からドワーフを派遣する。すぐにでも作業をさせる。報酬は旨い酒と飯で手を打ってやる」
この提案は受け入れられた。
会議終了後、それぞれの代表者は帰って行った。これが歴史的に有名なネフィス同盟の始まりの物語だ。
代表者が帰ったからといって、ほっと一息とはならない。
防衛施設を構築したり、食料の備蓄を増やす。結局、スズキタウンを城壁で囲む案が採用され、雪が残る寒い中、みんな必死で作業している。食料の備蓄については十分にあることから、食料の備蓄が少ない箇所へ支援物資を送る。これにはソマリたち商人が全面協力してくれた。
「もちろん、無償でやるニャ。それくらいの貯えはあるニャ」
すぐにソマリたちは各集落に向けて出発した。
準備はそれだけでは終わらない。訓練も行う。
まずは非戦闘員による避難訓練。私も戦闘訓練に参加している。というのも、勇者の能力は様々らしい。剣技に特化したタイプや魔法特化の勇者もいるらしく、様々な想定で訓練を行う。私は結界を張って防御に専念する。私の結界は優秀で、ほぼすべての攻撃を無効にできる。
グリューンが言う。
「悪いが聖女殿に前線に出てもらうかもしれん・・・」
「気にしないでください。そのためのネフィス様の加護ですから」
ヨルもウリもフェニーもできることはしてくれている。
特にフェニーなんかは大車輪の活躍だ。連絡網を構築し、襲撃があればすぐに他所に伝わる体制を作ってくれた。
「いささか疲れたが、これも神鳥の務めじゃ。しかし、 妾(わらわ) をここまで働かせるなど許せん。勇者に会ったら消し炭にしてくれるわ」
「僕も即死の毒魔法でやっつけるよ」
「キュー!!」
「殺したら駄目よ。ネフィス様に言われたでしょ?」
「仕方ない加減してやろう」
「そうだね。痺れる毒魔法を磨くことにするよ」
「キュー!!」
ゴブリナもテンションが高い。作業員に回復魔法を掛けたりして、鼓舞している。
「これは聖戦です!!時間がありません。さあ、頑張るのです!!」
こういう時は頼もしいんだけどね。
★★★
何とか雪解けまでに形にはなった。スズキタウンだけでなく、他の集落もある程度戦える状態にはなっているようだった。
そして春を迎えたのだが、勇者の情報は得られなかった。ソマリやその上司のシャムたちが率先して情報収集はしてくれているが、まだ情報は得られていないらしい。
ネフィス様にかぎって、嘘なんてつかないと思うけど・・・
会議の席でゴブリナが言う。
「勇者は来ませんが、恒例の視察はどうしましょうか?私たちを歓迎する雰囲気ではないでしょうけど・・・」
グリューンが言う。
「こういう時こそ、やってはどうだろうか?支援物資を多めに持って行けば喜ばれるしな。それにこんな時こそ、明るい話も必要だ。主様だってウリ殿に会いたいだろうし、ヨル殿がドラゴンズホームやレッドリザードの里に行かなければ、暴動が起きるぞ」
「そうですね。幸いフェニーのお陰で、どこに行ってもすぐに対応できますしね」
フェニーがドヤ顔で言う。
「そうじゃ。 妾(わらわ) にもっと感謝するがよいぞ」
こうして、勇者の恐怖に怯えながらも、恒例の視察は行われることになった。