軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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レカンは、心のなかで、ふうっと大きく息をついた。

乗り込んでからどう話を運ぶかを、ここに来る道中考えた。

そのとき気づいたのは、エダに〈回復〉を使わせてはならない、ということだ。

今やエダの〈回復〉はかなりの段階に達しているようだし、悪いことに〈浄化〉を含んだ〈回復〉になる可能性がある。この神殿に今〈浄化〉持ちはいないようだが、それにしても神殿だ。専門家の牙城なのである。エダの〈回復〉をみられるだけでもまずいのに、〈浄化〉の才能があるとばれたら、もう終わりだ。その場合、エダの平安は失われ、この町を離れたからといって、二度と戻らないだろう。

かといって、わざと失敗させるのも危険だ。

まず、失敗するつもりでも成功させてしまう可能性がある。また、うまく失敗できたとしても、魔力の扱いをみて、神官たちが真実を知ってしまう可能性もある。

だから、レカンが〈回復〉を実演することにしたのだ。

「では、〈回復〉を使ってみせよう。この右手の上に顕現させる。よくみてくれ」

「なに? 杖は?」

レカンは右手を大きく前に突き出して手のひらを上に向けた。

五本の長い指を、大きく開く。

(頼む)

(成功してくれ)

実のところ、レカンが実際に〈回復〉で人を治療したのは、バンタロイへの旅の途中でヴァンダムに施術したのが最初で最後だ。その後も練習は重ねているし、今回エダが高次元の〈回復〉に覚醒してから、その実験台になって発現のようすを何度もみている。しかし、それだけだ。

こんなことになると知っていたらもっと練習しておいたのだが、こういう方向に持っていくことをはっきり決めたのは、ここに着いたあとなのだ。どうしようもなかった。

(頼む)

(もしもオレが失敗してしまったら)

(あるいは初級の〈回復〉しかできなかったら)

(オレの言葉に説得力はなくなり)

(結局エダのほうに矛先が向く)

(それではまずいんだ)

(だからエダのため)

(エダを守るため)

(頼む!)

「〈回復〉」

静かな、しかし決然とした発動呪文のあと、レカンの右手の上には、緑色の光の玉が発現した。

「おお!」

「なんという」

「なんという美しさでしょう」

「なんという巨大さ」

「こ、これが〈回復〉だと」

レカン自身も驚いている。

それほど巨大で、それほどはっきりした、力強い〈回復〉だった。

(ありがとうよ、神様)

何の神とも知らず、レカンは自分を助けてくれた神に感謝をささげた。

そもそもレカンは、神殿はきらいだが、神は信じている。というより、命を張った生き方をする冒険者は、神に祈るしかない瞬間をたびたび経験するものなのである。また、神に祈ってとてつもないわざを行う神官や騎士も、いやというほどみてきた。神への畏れは、レカンの心の奥深くに根を張っている。

ただし、そのことと、エダを正体の知れない神官たちに差し出すのとは、まったく別の話だ。そして神殿に来て、カシス神官に会い、ここにエダを置いていくことは絶対にできないと、なおさら思った。

いつのまにか、神官たちのざわめきも静まっている。

レカンは右手を一振りして、緑の燐光を消し去った。

「おい。今の〈回復〉」

「準備詠唱が、ありませんでした……」

「ばかな!」

「確かに、発動呪文だけであった」

カシス神官は、目を大きくみひらいて驚愕の残滓をただよわせつつも、怒りとも憎しみともつなかい感情をちりちりとただよわせて、顔をけいれんさせている。

「カシス神官」

「何だ、レカン」

「今のは、オレの、正真正銘精いっぱいの〈回復〉だ」

「確かに〈回復〉だった」

「ケレス神殿の基準では、今のは初級か? 中級か?」

カシス神官は無言だったが、パジール神官が答えた。

「あきらかに中級以上じゃ」

ほかの神官も言葉を添えた。

「しかも、あの光球の大きさ。とてつもない回復量じゃろう」

「あれなら死にかけた怪我人の深手を一瞬で治したというのも信じられます」

レカンは大きく息をついた。これで山は越えた。

「オレの弟子であるエダには、今みせたほどではないが、あの何分の一かの〈回復〉ができる」

「おお!」

「すばらしい」

「神のみわざは 賛(ほ) むべきかな」

「みた通り、オレの流儀では準備詠唱はない」

「そ、それじゃ!」

「いったいどうやって、あのような」

「そ、そうじゃ。偶然発動するような弱い〈回復〉ならいざしらず、今のような〈回復〉が準備詠唱なしで発現できるわけがない」

「ということは、ケレス神殿には、準備詠唱なしで〈回復〉を行使できるわざはないのだな」

この失礼な質問に、神官たちは憮然として黙り込んだ。

言葉を発したのは、パジール神官である。

「準備詠唱は、術の精度を高め、効き目を強めてくれるのだ。当神殿では丁寧で正確な準備詠唱を重視しておる」

「神殿では、そうだろうな。だが、迷宮ではちがう」

「迷宮、だと?」

「そうだ。迷宮では一瞬が生死をわける。だからオレは、すべての魔法で準備詠唱を行わない」

カシス神官が割って入った。

「すべての魔法で、だと? レカン、きさまは魔法使いなのか?」

神殿に入るのに帯剣でというわけにもいかなかったので、剣は〈収納〉にしまってある。だが、レカンの体躯をみれば、魔法使いだと思う者はいない。

「本業は剣士だ。だが魔法も使う」

再び、長い沈黙が流れた。神官たちは、みずからの常識に反するものに出会って混乱しているのだ。今が撤収の好機である。

「今、オレが〈回復〉を使うという証明はしてみせた。エダはオレの弟子であり、〈回復〉も、その他の魔法も、まだまだ未熟だが成長している。いつか今みせたと同じ〈回復〉もできるようになるだろう。お前たちの疑問には、これで答えた。オレたちは帰っていいか?」