軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「エダちゃん。よかったねえ」

「あ、あたい、あだい。うれじいっず。ぐずっ」

「町のなかじゃ、誰かにみられるかもしれないから、練習の続きは町の外でするのがいいね」

「続き、町の外でするっす」

「じゃあ、すまないけど、冒険者協会に行って、討伐か採取で日帰りじゃないやつを探してきておくれでないかい。三日か四日、あるいは五日か六日ぐらいかかる依頼がいいね。もちろん銅級のだよ。報酬は安くてかまわないから。依頼を受けちゃだめだよ。いくつかのなかからあたしが選ぶから」

「わかったっす! 行ってくるっす!」

エダは元気に飛び出していった。

「レカン」

「何だ」

「困ったことになったねえ」

「〈回復〉が使えるということがか?」

「詳しく説明するからよくお聞き」

〈回復〉は、日常生活のなかで家族の怪我や病気の回復を祈るなかで発現することが多い。つまり、何の準備も覚悟もないまま、その能力を得てしまうことが多い。

発現した時点では力は弱く、ごく浅い傷や小さな怪我を治すことができるが、良質な薬には劣る程度の力だ。この程度の力の〈回復〉持ちは、家にそのまま住んで、家族親戚や近所の人の役に立っていればいい。

もう少し強い力、つまり大きな傷を癒したり、軽い病気を治したりできるようになると、大きくいって三つの道がある。神殿に行くか、貴族のもとに行くか、施療師のもとに行くかである。施療師とは、薬を使って人を治療する者のことで、薬師と共同で仕事をするか、さもなければ自分が薬師を兼ねている。

さらに強い力、つまり命に関わる傷を癒したり、重い病気を治せる力を持った者は、神殿も、貴族もほってはおかない。

ただし、弱い力しかない者でも、才能があるとみこまれたら、神殿や貴族は取り込もうとする。取り込まれれば金と名誉が与えられ、贅沢な暮らしができるが、親にさえ自由には会えなくなり、結婚相手も選べない。男でも女でも、〈回復〉持ちの血を残す道具として扱われる。

拘束の強さは、能力の強さに比例すると考えてよい。弱い力しか持たないうちは、神殿や貴族のもとにいても拘束も弱いが、力が強くなればなるほど、拘束も強くなる。つぶれた目や、切れ飛んだ指を再生できるほどの力を持てば、牢獄のなかの囚人のような暮らししか許されない。

貴族と神殿が〈回復〉持ちを欲しがる理由には、同じ部分もあるし、ちがう部分もある。

〈回復〉は病気にも怪我にも効くし、体調を整えることもできる。貴族家では、一族の健康保持と長寿のため〈回復〉持ちを欲しがる。それは当主の権威を高めることにもつながる。貴族の血を引く者に〈回復〉が発現したら、それは聖なる血の証しであるとみなされ、いっそう拘束は厳しくなる。

神殿では、〈回復〉持ちをかき集めて、貴族や民衆への施療に使う。これは神殿の重要な資金源であるとともに、勢力拡大につながる。なぜなら、多くの〈回復〉持ちを抱える神殿ほど、神からの愛が深いとされ、発言権が増大するからだ。そして、各都市に九大神殿のどこが配下の神殿を設立するかは神殿長会議で決まるが、抱える〈回復〉持ちの数に比例して神殿数が決まる、というのが大原則なのだ。

そして、〈回復〉を高いレベルで使えるようになった魔法使いは、〈浄化〉を使えるようになることが多い。〈浄化〉は、けがれや呪いをはらうほか、魂鬼族の妖魔には決定的な威力を持つが、人に使えばほとんどの病気に効くし、毒や状態異常も癒す。高位の〈浄化〉は〈神薬〉に匹敵するともいわれるが、そこまでいかない低位の〈浄化〉でも、若干の若返り効果がある。

この若返り効果こそ、神殿の最大の武器である。年老いた高位貴族や富豪たちは、わずかの若返りと引き換えに、あらゆるものを神殿に支払う。神殿の存在を根幹で支えるのは、民衆の信仰と〈浄化〉持ちなのである。

九大神殿にはそれぞれ何人かの〈浄化〉持ちがいるにちがいないが、神殿ではその人数も名前も年齢も秘匿している。古くから功績のある何人かの〈回復〉持ちについては、〈浄化〉持ちに進んだのではないかという噂ぐらいならあるが、若くして〈浄化〉を発現した者もいるだろうといわれている。〈浄化〉持ちになれば、外出はもちろん、面会も極端に制限され、神殿の指示にない行動をすることはほぼ許されない。

大貴族家のなかには、〈浄化〉持ちを抱えている家があるといわれているが、存在が公になれば神殿に取り上げられてしまうから、その存在が明るみに出ることはない。

「レカン。あんたならいいんだ。あんたぐらい力のある冒険者なら、大病を治せるほどの力を得ても、神殿や貴族にやすやす拘束されたりしない。だけど」

エダはそうではない。一人で自由を守れるほどの強さはない。

「あの子に才能がなければ、こんな心配をすることもないんだけどね。けど、たぶんありゃ、才能があるねえ」

「禁ずればいい。〈回復〉を使うことも、練習することも」

「レカン。あんた、誰かに剣を使えって命令されて剣士になったのかい?」

「いや」

「剣というものを知った以上、手に入れ、使わずにはいられなかったんだろう?」

「そうだ」

「あの子も同じだと思うよ」

「そう心配するほどの才能だろうか」

「不必要な心配かもしれない。でも、そうでなかったとしたら、あたしたちはあの子に何をしてやれる?」

「冒険者になれば、貴族や神殿の拘束からのがれられるのか?」

「拘束されない唯一の道だろうねえ。まずは金級の冒険者になることさね。そうすれば小さな町の領主ぐらいじゃ手を出せない。確実とはいえないけどね」

「まずは、ということは、次があるのか」

「迷宮の深層に潜れるようなパーティーの一員となれば、大貴族でもうかつな手出しはしにくいだろうね」

「そんなに権威があるものなのか」

「権威というのとはちがうのさ。迷宮の深層に行くようなやつは、普通の人間とはちがうと思われてる。怒らせてはならないやつらだとね」

「なるほど。それならわかる。だがそれは、死と隣り合わせの生き方だ。それをエダが望むだろうか」

「そこは何ともいえないねえ。拘束を悪いと思ってない人は少なくない。そりゃそうだろうさ。田舎の農家に生まれたこどもが、貴族に望まれて引き取られ、奇麗な服を着てうまい物を食べ、大勢の使用人にかしずかれるなんて、夢のようなことだからね」

「エダ自身は何を望むだろう」

「その選択肢を与えるのが、あたしたちの役目さ。一度縛られたら、そこからは抜け出せない。縛られる暮らしを望むか、縛られない暮らしを望むか。それを選択できるだけの力をあの子に与えてやりたいと、あたしは思ってる」

レカンは黙り込んだ。

正直、あまり深入りはしたくなかった。エダはもう赤の他人とはいえないが、保護者になったわけではない。

ニケ、つまりシーラも、そんなレカンの思いを推し量るかのように、レカンの顔をみつめていた。

「レカン。あんたには、万能薬と、かぜ薬と、毒消しの作り方を教えた。もう自分で作れると思うけど、できればもう一回ぐらいあたしのもとで練習したほうがいい。それと、シュラ草を使った傷薬の作り方は教えたけど、チュルシム草やポウリカ草を使った作り方は教えてない。どんな季節にも作れるようになりたいなら、ポウリカ草が生え始める八の月までは待ってもらわなきゃならない。体力回復薬に使うキュミス草が採れるのは五の月から七の月、魔力回復薬に使う材料が全部そろうのは、九の月か十の月。つまり、あんたが学びたいことを学ぶには、今年いっぱいかかるってことさ。そのあいだは、ここを拠点にしながら、迷宮に行くなり依頼を受けるなりしたらどうかと思うんだけどね」

これはレカンの意図をくんだ、非常にありがたい申し出だ。

迷宮に行って青ポーションと赤ポーションを使い、その効果と限界を知ったレカンからすれば、シーラの薬はいよいよ重要なものになった。

その作り方を教えてくれる者は、ここにしかいないのだ。

「そうさせてもらえると、ありがたい」

「そのあいだは、つまりあたしの弟子でいるあいだは、エダちゃんのようすをみまもって、助けられるところは助けてあげてくれないかねえ」

「わかった」

レカンは面倒なことが嫌いである。

縛られることが嫌いである。

だから、エダも人生を縛られるようなことがなければいいと思う。

だがそのために自分自身がエダに縛られるのもいやである。

その点、シーラの弟子でいるあいだは、ということなら気が楽だ。

そのあとのことなど今から決めたくない。

それに、とにもかくにもシーラの頼みである。シーラは自分を受け入れ、惜しみなく知識と技術を教えてくれている。そのシーラの頼みなのだ。どうしてシーラがエダのことをそんなに気づかうのか不思議ではあるが、それを言うならレカンに対する面倒見のよさも、損得勘定を超えている。レカンは誰かにこんなに恩義を受けたことがない。そのシーラが頼むことなのだから、少々の手間や面倒さはがまんできる。

レカンの意識としてはその程度のことであったが、とにもかくにも、このときレカンとニケとエダは、一つのパーティーとして成立したのである。

「それにしても、あんた、教え方うまかったねえ。舌を巻いたよ。エダちゃんにぴったりの、素晴らしい教え方だった。孤児院のこどもたちにも、えらく気に入られたみたいだし、もしかしてあんた、小さい子の面倒をみるのが天職なんじゃないかい」

「それはない」