軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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迷宮探索六日目。二の月の十三日。

岩山の頂上がみえてきた。

「うわあ、みてみて、レカン! すごい眺めだよ。今まで歩いてきたところが全部みわたせる。絶景って、こういうのをいうんだろうね。それにしても、ひろーい。この迷宮って、信じられないぐらい広いねえ」

エダが後ろを振り返ってはしゃいでいる。

だがレカンには振り返ることなどできない。

山の頂上を凝視している。

いや。

山の頂上のその向こう側にいるものをみている。

まだ〈立体知覚〉の探知範囲には入っていないので形はわからないが、〈生命感知〉に映るその魔獣の存在感は圧倒的だ。

エダもレカンの様子に気づき、〈イェルビッツの弓〉を構えて、山の頂上をにらみつける。

すると頂上の岩の向こう側に、魔獣の巨大な頭部が現れた。

「えっ?」

エダが間の抜けた声を上げる。

次に魔獣の肩が現れ、胸が現れ、腹が現れた。

「ちょ、ちょっと。レカン? これ……」

やがて岩山の頂上に、巨獣がその全貌を現した。

距離はまだ二百歩近くある。

だというのに、まるですぐ前にいるかのようだ。

「こ、これが、大炎竜」

その体高は、優に十歩をこえている。つまりレカンの五倍以上だ。上半身も巨大だが、下にいくほど体の厚みは増し、二つの足などは、どんな巨木にもまさる太さだ。

ずしり、ずしりと、重厚な足音を立てて巨獣が近づいてくる。

足を止めた。

ぎょろり、と巨大な二つのまなこがレカンをにらむ。

と、レカンが巨獣に向かって走り出した。

少し遅れてエダが続く。

レカンが右に進路を変える。

エダは左に進路を変える。

レカンは斜面を駆け上り、巨獣より少し高い位置に達してから、巨獣に向かって突進した。エダも真反対の側から巨獣に向かって走る。

あと百歩ほどに近づいたとき、胸を大きく膨らませた大炎竜が、白い息をはいた。

その息は、すさまじい勢いでレカンに襲いかかった。

レカンは左にかわす。

だが白い息はレカンを追うようにはきかけられる。

〈インテュアドロの首飾り〉の障壁が燃え上がる。思わずレカンは左手で顔をかばう。視界が完全にふさがれた。とてつもない大きさであり、威力だ。

驚いたことに大炎竜の白い息は途切れることなく吹き続けられ、ぐるりと回ってレカンと反対側のエダにも吹き付けられた。

俊敏なことにかけてはレカンにも劣らないエダも、これはかわしようがない。

〈インテュアドロの首飾り〉に頼って、身を縮めて攻撃をしのいだ。

白い息が吹き付けられた岩の地面は焼け焦げ、溶けている。

(岩をも溶かすブレスか)

(しかもこんなに長く吹き続けられるとは)

(信じられん威力だな)

右回りに回転しながらブレスを吐き続けた大炎竜は、さらに回転を続けた。

長大な尾が現れる。付け根の部分は、尾というより胴体の続きだ。それぐらいの太さがある。そして段々と細くなりながら、長く伸びている。尾の付け根から先まで十歩近くあるだろう。

その尾が恐ろしいうなりを立てながら振り回される。岩肌をなでつつ、あらゆるものをなぎ倒し吹き飛ばす攻撃だ。

レカンは大きく後ろに飛びのいた。

「〈展開〉!」

飛びのきつつ、〈ウォルカンの盾〉を展開した。

巨岩をがらがらと吹き飛ばしつつ、尾の先がレカンの目の前を通過する。

そしてそのあとに大小の岩と小石がレカンを襲う。

〈ウォルカンの盾〉で岩は防ぐが、飛んでくる無数の小石が避けられない。体を打たせてじっと我慢をする。

レカンは〈収納〉から〈 万竜斬り(アルザムシル) 〉を取り出し、尾で地をなぎ払いながらなおも回転している大炎竜の足元に飛び込んだ。

そして巨獣の右脚に斬撃を加える。一度ではない。二度、三度、四度、五度と斬り付ける。さすがにこの恩寵品の効果は絶大で、強靱な大炎竜の脚をも斬り裂く。だが、あまり深くは食い込まない。そして大炎竜はあまりに大きく、脚はあまりに太い。

(効率が悪いな)

レカンは右に右にと回り込みながら攻撃を加えている。

大炎竜は、レカンのあとを追うように体を左に左に回転させている。

レカンは、大炎竜の体の周囲を回り込みながら、〈万竜斬り〉をしまい、〈彗星斬り〉を取り出して、思いきり魔力をそそいだ。

長大な魔法刃が出現した。めったに使用しない最大長だ。長さはじつに二歩半を超える。この長さなら大炎竜の足の太さに勝る。

レカンは、大炎竜の足元に飛び込んで、その右足に〈彗星斬り〉を打ち込んだ。

「なにっ?」

〈彗星斬り〉は大炎竜の右足を素通りした。

レカンは慌ててとびすさり、再び大炎竜の右側に右側に回り込んでいく。

少し遅れて大炎竜が怒りの吠え声を上げた。

(痛みを感じているようだな)

(だが切断はできなかった)

(どういうことだ?)

もう一度飛び込んで、大炎竜の右足に〈彗星斬り〉を振るった。

だが、斬れない。

(うっ)

(いかん)

(魔力を使いすぎた)

最大長の魔法刃を顕現するには、膨大な魔力がいる。それを維持するのに必要な魔力もまた膨大だ。

レカンは魔法刃を消して、〈彗星斬り〉をしまった。

大炎竜が咆哮し、動きを止めると、息を吸いつつ大きく胸をふくらませ、魔力の収束を始めた。

高熱のブレスを放つつもりなのだ。

エダは、尾の届かない距離まで下がって魔弓を撃ち続けている。その攻撃は大炎竜の頭部に顔に当たり、小さな爆発を起こし続けているのだが、ダメージを与えられているようにはみえない。たぶん矢はいくらも食い込んでいない。

「エダ! こちらに来い!」

声をかけると、レカンは大炎竜から三十歩ほど距離を取った。赤紫のポーションを飲み込むと、やってきたエダに、自分の真後ろに隠れるよう、手で合図を送る。

大炎竜が、白熱のブレスを放った。

「〈ワルドナ〉!」

呪文を唱えつつ、盾を握る左手をぐいと突き出す。

たちまち殺到した白き灼熱のブレスが、〈リィンの魔鏡〉の効果で反射される。反射されたブレスは大炎竜を直撃しているはずなのに、なかなかブレスは止まらない。光と熱があふれかえって視界をおおう。レカンは盾の向きを調整しながら、じっとブレスを反射し続け、右手を革鎧の隠しに突っ込み、〈ザナの守護石〉を握ると、最大限まで魔力を注いだ。

やがてブレスがぴたりと止まった。

みればブレスの反射により、大炎竜の顔の右半分は焼けただれ、削り取られている。右肩もえぐられ、体のわりには小さな右前脚も肘から先がなくなっている。

残った左目が、ぎろり、とレカンをにらんだかと思うと、大炎竜は、ずしん、ずしんと前進を始めた。

「〈縮小〉!」

盾を手甲に戻すとレカンは〈アゴストの剣〉を取り出し、両手で握って駆け出した。

大炎竜は身をかがめ、口を大きく開いた。

まるで百本の剣を並べたような上あごであり、下あごだ。

巨大な顔が地表すれすれに下りてきて、レカンを襲う。

レカンは、走り込んだ勢いのまま、両手で握った〈アゴストの剣〉を、大きく反動をつけて大炎竜の頭部に振りおろした。〈ザナの守護石〉の攻撃力増加が最大限に乗った一撃だ。

酒樽が砕けたような感触があった。

レカンの体が吹き飛ばされる。空中でくるりと回って着地した。

大炎竜は岩を弾き飛ばしながら倒れ込み、やがて動かなくなった。