軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11

11

人が近づく気配で目が覚めた。

「レカン、入るぞ。お、起きてたのか」

話しかけてきた人物にみおぼえがあった。

「エザク。エザクか」

レカンがこの世界に落ちてきて最初に出会ったのが、このエザクたちだった。レカンはそれからザイドモール家に一年住まわせてもらったが、そのザイドモール家の筆頭騎士が、このエザクだったのだ。

「ああ、そうだ。私だ。レカン、昨夜は驚いたぞ。家のすぐ近くに倒れている大男がいると思ったら、それがレカンだったんだからな。いったい何があったんだ?」

「酔って倒れただけだ。ここはどこだ?」

部屋のなかをみまわし、ベッドの脇に軽鎧やブーツ、それに〈白魔の足環〉や剣が置いてあるのを目に収めた。

「それもわからんのか。貴族街の端っこだよ。騎士や官僚が住んでる区画だ」

体の調子は悪くはない。いや、むしろ非常にいい。だが念のため、エダに〈浄化〉をかけてもらっておくべきだ。

「お前が酔って倒れる。そんなばかな。あの脂汗をかいたようすはただごとじゃなかったぞ。酒の匂いなんかしなかったしな」

「だが、そういうことにしておいてくれ」

「ふん? 何か事情がありそうだな。ところでレカンに会ったら聞きたいと思っていたことがあるんだ」

「ほう。何だ」

「ザイドモール領の北東のはずれで、地竜トロンに会わなかったか?」

「知らんな」

「何か巨大なものが激しく闘ったような跡があって、そこに大量のとげが落ちていた。そのとげは、おそろしく高い値段で売れてな。地竜トロンのとげだったんだ。おかげでとても領地は助かっている。お前じゃないのか、トロンと戦ったのは」

「もしそうだとしたら、どうするんだ」

「お前には、分け前をもらう権利がある」

「なるほどな。義理堅いことだ。だが、さっきも言った通り、オレはトロンなど知らん」

「そうか。レカン」

「うん?」

「すまん。礼を言う」

「頭を上げろ。あんたに礼を言われる筋合いはない。あんたやザイドモールの人々に世話になったのはオレのほうだ。礼を言うのはオレだ。ところで家といったが、ここはお前の家なのか?」

「ガスコエル様の家だ」

「ガスコエル?」

「領主様のご長男だよ。王都警備隊、じゃなくて今は王都騎士団か、王都騎士団の宿舎におられたんだが、近々正騎士に叙任されることもあって、この家を借りて引っ越してきたところだったんだ。これもトロンのとげのおかげだ」

「エザク。トロンのとげという言い方はやめたほうがいい」

「わかってる。このことは実はガスコエル様にも内緒なんだ。そもそもトロンのとげだとわかったのも、わりと最近のことだしな。あれをザイドモールでは、〈森の槍〉と呼んでるよ」

いわれてみれば、トロンのとげは大型の槍のようにみえなくもない。なかなかうまい命名だ。

「それにしても、そんなことをお前から言われるとは思わなかった。いろんなことを学んだようだな。言葉もずいぶん流暢になった。ところで、腹減ってないか」

「減った。ぺこぺこだ」

「ははは。今食事を持ってこさせる。だいぶ冷めてしまったけどな。おおい! シュリク! レカンの食事を持ってきてくれ」

部屋の外で、はい、という返事が聞こえた。

「シュリク? あいつも来ているのか」

「ああ。シュリクだけじゃない。若手を十人連れてきている。みんなお前に手ほどきを受けた者ばかりだ」

「ほう。十人とは豪儀だな」

「それもこれも、〈森の槍〉のおかげさ。トロンと戦ったやつには感謝しかない」

「人間じゃないかもしれんぞ、トロンと戦ったのは。だいたい人間が少々集まっても戦える相手じゃない」

「ほう? そうだな。トロンと戦えるような人間がいるとしたら、ほんとに化け物みたいに強いやつだろうな」

「レカンさん。おはようございます。お食事をお持ちしました」

「お、シュリク。久しぶりだな。ほかにも来てるそうだな」

「はい。ここにはまだそんなにベッドがないんで、別に宿舎を借りてます」

「さてと、レカン。私はシュリクたちを連れて王宮に行かなくちゃならん」

「王宮に? そういえば、ずいぶん上等な鎧を着ているな」

「ああ、私は今日、騎士に任じられるんだ」

「なにっ。勅任騎士か」

「そうだ」

エザクはもともとザイドモールの騎士だが、これは領主から任じられた騎士というだけのことである。本来騎士とは王から任じられるものであって、これを勅任騎士という。しかしワズロフ家ほどの大家であっても、勅任騎士の数は多くない。ザイドモールのような田舎で家臣を勅任騎士にするなど、ふつうはあり得ない。

「そうか。領主からずいぶん厚く遇されているんだな」

「ああ。過分のご高配を頂いているよ」

「エザク。お前はいい騎士になる。いや、すでにそうだ。領主殿が信頼するのももっともだとオレは思う」

「驚いたな。レカンからそんな褒め言葉を聞くとは思わなかった。剣の腕は褒められたことがなかったのに」

「オレは世辞は言わん」

「そうだった」

二人は笑い合った。

「さて、私は行く。ゆっくり食事してくれ。ガスコエル様がどうもレカンに用事があるらしいんだ。すまんが、ガスコエル様の帰りを待ってくれ」

「オレに用事だと? 会ったことはないはずだが」

「オルガノがそう言ってたんだ」

「オルガノ?」

「ガスコエル様の側仕えの騎士だ。ザイドモールから来ている。昨日私が連れて帰ったのがレカンだと聞いて、何だか驚いていた。ガスコエル様は昨日夜勤でな。朝には帰ってこられるはずだったんだが、まだお帰りでない。それで騎士オルガノが迎えに行った。ガスコエル様が冒険者レカンに重要な用事があるので、必ず待たせておくようにと言い置いてな」

「ふうん?」

(ワズロフ家に無事を伝えなくてはならんが)

(まあそれは何とかなるだろう)

「その騎士オルガノというのは、エザクより偉いのか?」

「いや、私のほうがザイドモール家での序列は高いはずなんだがな」

エザクが肩をすくめた。

「今、この家には常雇いの使用人はいないが、通いで料理や掃除をしてくれる女性が一人来ている。できればゆっくりしてくれ。叙任式が終わったらすぐ帰ってくる。今日は祝杯を挙げようじゃないか。そういえばレカンも王宮に呼び出されてるそうだな。ずいぶん活躍してるそうじゃないか。その話も聞かせてくれ」

「ああ」

(どうしてエザクがそれを知ってるんだ?)

(王宮で耳に挟んだのか?)