作品タイトル不明
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「そういうわけなんじゃ。あてにしておった魔法使いのなかには、拘束系の魔法が得意な者がおって、その男を連れてこられなんだのは痛いが、いずれにしても最下層の主とは数に頼った戦いは危険じゃ。少数精鋭で挑むのがよいのじゃ。とはいえ、この状況では途中で迷宮を出ることはできんの。迷宮を出ぬまま最下層をめざすことになる。すまんのう」
追っ手たちは、もう迷宮に到着し、入り口を封鎖し地上階層で待ち構えているはずだ。一度上に上がれば捕縛され、ジザはもう迷宮には入らせてもらえない。
しかし迷宮に潜り続けるかぎり、追っ手はジザにたどり着けない。この迷宮はそういう迷宮なのだ。
「土産を渡しておこうかの。まずこれじゃ」
ジザは二つの首飾りを取り出して、レカンに渡した。
「お、すまんな。感謝する。いくら払えばいい?」
「おわびの印に、無料にしておくわいの。今さら金などいらんし、使いようがないでの」
「そうか。性能はオレの持っているものと同じか?」
「いや。〈回復〉と〈浄化〉をはじかないのは一緒じゃが、〈吸収〉がない魔法使いだと、魔力補填ができん。あと、レカンちゃんが使っておるものに比べると、容量がちと少ない」
「そうか」
「それと、この袋をつけておくわいの」
「これは何だ」
「この袋に首飾りと魔石を入れておくと、首飾りに魔力が充填されるのじゃ。時間はかかる。今回の迷宮探索では、わしかレカンちゃんが魔力を充填すればいいが、あとあとのためにの」
「これはありがたい。エダ。ユリウス」
「うん」
「はい」
「これは〈インテュアドロの首飾り〉だ。おばばに譲ってもらった。お前たちにやる」
「えっ?」
「それは魔法攻撃を自動的にはじく恩寵品ですね。いや、魔道具なのかな」
「そうだ。お前がアリオスから貸してもらっている〈シャンドナーの宝玉〉は、二、三発しか魔法攻撃を防げないが、これは充填した魔力が残っているかぎり何度でも防ぐ。それに〈回復〉と〈浄化〉ははじかない」
〈シャンドナーの宝玉〉は〈回復〉も〈浄化〉もはじいてしまう。そのため、戦闘の途中でユリウスに〈浄化〉をかけるのはむずかしかった。その問題が解決する。
「それは素晴らしいです」
「もらっていいのかなあ、こんなにすごいもの」
「おばばは、この迷宮を是が非でも踏破したい。パーティーメンバーの魔法防御を上げるのは、そのために必要なことだ。もらっておけ」
「うん。ジザおばば様、ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「ひょひょひょ。若くて礼儀正しい子らは、みておって気持ちがよいのう。それからレカンちゃん、これをあげるわいの」
「小さな袋だな。〈自在箱〉だな」
「そうじゃよ。最新型の特別な品じゃ。エダちゃんの持っとる〈自在箱〉もそこそこよい品じゃが、これのほうが容量は大きいのに、袋は小さい。そしてこの〈自在箱〉は、なかに入れた食べ物が腐りにくいのじゃて」
「なに」
「腐らんというわけではないし、長い時間入れておけば水気は失われていくが、外に出しておくのに比べて何倍ももつ。特に乾燥系の食べ物なら、びっくりするぐらい長持ちするはずじゃ。最近作ったものじゃから、まだ実証は充分でないがの。それからこの〈自在箱〉には〈箱〉や〈自在箱〉を入れることができるし、この〈自在箱〉を〈箱〉や〈自在箱〉に入れることもできるのじゃ」
「ほう。それはすごいな」
「実際、画期的な品じゃよ。レカンちゃんには、いらんじゃろがの。エダちゃんなりユリウスぼうやになりあげればええ」
「これもありがたい。礼を言う。エダ、お前の〈自在箱〉はあとでユリウスに渡せ。そしてお前がこれを使うんだ。ただし、今中身を入れ替えているわけにはいかんから、迷宮を出るまではユリウスがこちらを使え」
「うん。わかった」
「はい。師匠」
「そういえば、おばば。今もらった〈自在箱〉には、使用者限定の機能はついていないのか」
「ついとらんよ。あの機能は便利なようで、いろいろ問題もあっての」
「そうか。さて、おばば。迷宮攻略の話に戻ろう。さっき言ってたボルクとかいうのは、単独で穴に入って戦うことはできんのか」
「戦って敵を倒すことはできるし、穴を抜けて先に出ることもできるんじゃが、ボルクちゃんだけが一つの穴を受け持つと、下層が開放されないんじゃ。どうしても一人は人間が穴に入らねばならんようなんじゃよ。それにボルクちゃんは物理特化じゃから、どのみち八十階層以降では魔法使いと組み合わせんとのう」
「なるほど」
「エダちゃんは遠距離の魔法特化ということじゃから、物理近接型のボルクちゃんと相性がよいじゃろう。あとはユリウスぼうやじゃが、魔法は使えないんじゃったかの」
「ユリウスは魔法を使えない」
「なら、強力な魔法攻撃のできる魔道具がある。魔力のない人間にも使えるタイプのものもあるが、ユリウスぼうやは魔力があるから、より強力なのを使えるぞい」
「ふむ。その話はちょっと待て。アリオス」
「はい」
「すまんが迷宮攻略に付き合ってもらえんか」
「しかたないですね。お供しましょう」
ここでウイーが口を挟んだ。
「待て。その人は剣士のようにみえるが、まさか魔法剣士なのか?」
「いや。アリオスは魔力は持っているが、魔法は使わない。生粋の剣士だ」
「では魔法使いと一緒でなければ攻略できないだろう」
「いや。大丈夫だ。アリオス、今回は〈魔空斬り〉は持っていないようだな」
「ええ。あれは里に置いてきました」
「〈魔空斬り〉の攻撃は魔法攻撃だと判定される。それは実験したからまちがいない。お前にこれを貸そう。魔法刃を発現させられるか試してみろ」
レカンはツボルト迷宮百四十二階層で得た〈魔空斬り〉をアリオスに渡した。
アリオスは剣を抜いて魔法刃を発動させた。
「使えます」
「よし。これで一穴任せられる」
「レカン殿。そのご仁はアリオス殿といわれるのだったか。アリオス殿が同行されるとなると、一階層からやり直さねばならん。そんな時間はない」
「ウイー。一階層からやり直しても同行してもらうだけの価値が、アリオスにはある。こいつの剣は、天下一品だ」
「天下一品?」
「アリオス。この迷宮に出てくるのは魔狼だけだが、白っぽいやつは魔法攻撃が効きにくく、黒っぽいやつは物理攻撃が効きにくい。だから、〈虚空斬り〉と〈魔空斬り〉をうまく使い分けてくれ。といっても、お前だったら、八十階層までの敵は〈虚空斬り〉だけで倒せるだろうが、あとあとのために〈魔空斬り〉も試しておけ」
ウイーは疑わしそうな目でレカンとアリオスをみている。
ジザが別の〈自在箱〉を取り出した。
「アリオス殿。お世話になるのう。ところであなたとお会いするのははじめてじゃが、そのお顔立ちには覚えがある。ユリウスぼうやをみておって、そうではないかとは思っておったんじゃが、あなたをみて確信した。あなたはイリーズの一族じゃな」
「はい」
「もしや今の長殿かの?」
「いえ。今は父が長です」
「なるほど、なるほど。これを受け取ってもらえるかの。〈自在箱〉じゃ。食品保存の機能はついておらんが、入れ子機能はついておる」
「ありがたく頂戴します。あなたがジザ・モルフェス導師なのですね」
「そうじゃ」
「おばば様。アリオス殿はイリーズの一族だったのですか」
「そうじゃ。次の長になられるお人かもしれんて」
「イリーズの一族といえば、パルシモに魔法騎士団を設立したとき、剣のわざを指南してくださったという。そうだったのですか」
このあとレカンからアリオスに迷宮の特性について簡単な説明がなされ、とにかく潜ってみようということで、穴に突入した。エダとユリウスは一緒で、あとは一人ずつだ。
速度重視で魔石も素材も取らないことに決めた。当然攻略は速い。
わずか半日の探索で、一行は十八階層に到達した。