軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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マシャジャインに向かう途中でバンタロイのチェイニー商店支店に立ち寄った。

「レカン様!」

「久しぶりだな」

チェイニーはすっかり老けた。だが目の輝きをみれば、まだこの男が活力を失ったわけではないことがわかる。

「ご活躍を側聞いたしておりますよ」

「あんたも元気そうじゃないか」

「ははは。取引先との少しむずかしい調整がありましてね。この老体が出しゃばってきたわけです」

レカンは知らなかったが、ノーマの活躍により、バンタロイの有力貴族であるボルドリン家の事業がいくつかゴンクール家に譲渡された。そして譲渡された事業の多くをチェイニー商店が管理することになった。

ところが譲渡された事業の取引先たちが、ゴンクール家を田舎貴族となめてあこぎな振る舞いに出た。

そこでチェイニー御大自身が乗り込んで交渉にあたることになった。バンタロイの商人たちは、少し前から頭角を現してきていたチェイニーという商人のしたたかさを思い知ることになったのである。

「もう、それもほとんど終わりかかっていましてね。これが終わったら今度こそ引退します。レカン様のおかげで、商店の発展ぶりを楽しみつつ楽隠居ができます。隠居所はもう確保してあるのです」

「ラカシュ迷宮とロトル迷宮を踏破した」

「は?」

「赤と青の小ポーションは全部お前に売る」

「おお!」

「ロトル迷宮ではたくさん素材が採れた」

「ロトル……というと、たしか八十階層ほどある大きな迷宮でしたな」

「五十階層以上の素材は全部取ってある。ただし迷宮の主の素材は、オレたちの鎧を作るのに使った部分以外だ」

「ロトル迷宮を、踏破、なされた」

「だからそう言ってるだろう」

「いや、そんな。ニーナエ迷宮の倍ほどもある大きな迷宮の踏破を、ちょっとそこらに散歩するような調子でおっしゃられても」

「ツボルト迷宮からいえば半分ぐらいだぞ?」

「たしかロトル迷宮の深層は、あまり大勢で戦うのに向いておらず、そのわりに敵が大きくて強靱なので、ほとんど探索者がいないと聞いていたような。しかもあの迷宮の主は、たしか」

「小火竜だったな」

「火竜!」

「大した敵じゃなかった」

「いや、そんなばかな! そうだ。思い出しました。ロトル迷宮の主は異常にしぶといため、強力な攻撃を山ほど浴びせないと倒せず、結局素材が使い物にならないため、危険や経費と成果が釣り合わず、もう何十年も倒されていなかったのではなかったですかな?」

「一撃で首が落ちたぞ」

「そんなばかな」

呆然とするチェイニーをうながして倉庫に案内させ、そこに続々と素材を下ろしていった。

「こ、こ、こ、こ」

チェイニーの様子が変だが、気にしないことにした。

結局レカンが〈収納〉から出した素材は、倉庫三つの空いた空間を占領することになった。武具などは鑑定しなければその真価がわからない場合が多いが、素材となれば、目の利く商人にはその価値が一目瞭然である。

チェイニー商店バンタロイ支店長のオルストが、血走った目で部下たちに大声で指示している。

「すぐに護衛をかき集めるのです! 急いで! あなたは冒険者協会に行きなさい。あなたとあなたは酒場に。特級でも金級でも銅級でも銀級でもいいから、集められるだけの冒険者を雇いなさい。ただし最低でも一度当店の護衛をした経験のある冒険者に限ります。いいですね! 盗賊どもや他店の回し者が嗅ぎつけて群がってくる前に、早く!」

チェイニーは目を輝かせて、竜素材の検分をしている。

十年、いや二十年は若返ったような顔つきだ。

「じゃあ適当にさばいてくれ。代金はまた受け取りに来る」

「あ、あ。レカン様。今、目録と受け取りを作りますので」

「いらん」

「あっ、ちょっとお待ちを。今夜の宿は当商店で準備いたしますので」

「この町には泊まらん」

「えっ?」

「さっき、門を通るとき、冒険者章を使わずに金を払って入ったのに、兵士がエダに気づいた。たぶんもうすぐここに領主の使いが来る。その前にオレたちは町を出る」

「なんとまあ、あわただしい。相変わらず破天荒な人生を生きておいでですね」

「迷惑か」

「いいえ」

チェイニーは、にっこり笑った。

レカンもにやりと笑った。

「おかげさまで、引退が遠のきましたよ」

「それはよかった。あ、これも売る」

〈ラットの盾〉を差し出した。

「これは?」

「〈ラットの盾〉という。ラカシュ最下層の主が落とした。〈魔法反射〉という恩寵がついている」

「〈魔法反射〉ですと!」

「あ、それからこれはあんた個人への贈り物だ」

「これは?」

「小火竜の肉だ。うまいぞ」

チェイニーは、目玉がこぼれるのではないかというほど大きく目をみひらいた。

「じゃあ、オレたちは行く。元気でな」

「レカン様も。エダ様も。どうぞおすこやかに」

レカンは右手を上げてあいさつし、エダとともに走り去った。

六の月の十九日、レカンとエダはマシャジャインのワズロフ家に入った。

ユリウスは、すでに到着していた。

それほど長く会わずにいたわけでもないのに、レカンはユリウスの成長ぶりに目をみはった。

「ユリウス君。あたいの身長を追い抜いちゃったね」

「すいません。エダ姉さん」

「なんかしゃべりかたもこどもっぽくなくなったね」

「すいません」

ユリウスをあずかってから、一年が過ぎようとしている。

最初は十三歳の少年だったユリウスだが、あと四か月で十五歳となる。つまり成人する。今はもう青年と呼ぶべきかもしれない。

身長も伸びたし、声も深みを増した。

骨格もしっかりしてきたし、筋肉はしなやかさはそのままに強靱さを増した。

一緒にいたときもぐんぐん成長していたのだろう。少し離れて再会して、今まざまざとその心身の充実ぶりに気づいたわけだ。

(考えてみれば十三歳から十五歳ぐらいという年頃は)

(もっとも人間が大きく成長し学ぶ時期だ)

(その大事な時期の息子をアリオスはオレに預けた)

そのことが、とりもなおさずアリオスのレカンに対する信頼と期待を示している。

しかしレカンには不思議でもある。

アリオスは体系的な剣技を体得しており、当然ながら体系的で機能的なわざの教授法も心得ているはずだ。伸び盛りそのものの時期にあるユリウスを、なぜ手元で育てないのだろう。

その答えを、まもなくレカンは知ることになる。