軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「今回の質問はそれだけかい」

「ああ。いや。ううむ」

「何だい。煮え切らないねえ」

「あんたはもう迷宮に潜らないと誓ったんだったな」

「そうさ」

「パルシモ迷宮を踏破したいんだが、手伝ってもらうわけにはいかんのだろうな」

「無理だね。ほかをあたりな」

「そうか」

レカンは冷めた茶の残りを飲み干した。

シーラはぽつりと言葉を継いだ。

「誓いもあるし、今のあたしには、迷宮で戦い抜く体力がない」

「なに?」

ニケの姿をとって一緒に冒険したときのはつらつとした姿を思い出せば、体力がないなどとはとても思えない。

そうレカンが考えたとき、シーラは細杖を取り出して、レカンには理解できない言葉で呪文を唱えて自分に魔法を行使した。

そのとたん、それまでぼやけていた〈立体知覚〉に映るシーラの姿が、急に鮮明になった。

「なにっ」

思わずレカンは声を上げた。

〈立体知覚〉に映るシーラの姿は、老婆そのものだったのだ。

以前はこうではなかった。

目にみえる姿は老いていても、実体は十八歳ぐらいの若々しい姿をしていた。だから〈立体知覚〉に映る姿こそがシーラの本当の姿だった。つまり、〈彗星斬りのニケ〉と呼ばれた若い冒険者の姿こそが、シーラの正体だったのだ。

だが今〈立体知覚〉に映るシーラはひどく年老いている。

(そうか!)

(これが〈浄化〉を浴びた代償か)

〈薬聖〉スカラベルがヴォーカを訪れ、師であるシーラに〈浄化〉を施したとき、シーラはまともにその〈浄化〉を受けた。ザカ王国でもおそらく最高峰にある上級の〈浄化〉である。

しかし不死の怪物であるはずのシーラは、〈浄化〉を浴びたあとも平気な顔をして座っていた。何もダメージを受けたようではなかった。だからレカンもすっかり安心していた。

そうではなかったのだ。不死者たるシーラが〈浄化〉を浴びて平気なわけがなかった。それでもシーラはスカラベルの〈浄化〉を受けた。そうすることによって、スカラベルの真摯な思いを受け止めたのだ。

その代償として、シーラは不死者としての生命力を大きく削られ、若さを失ってしまったのだ。

これであのときのシーラとスカラベルの対話の意味がわかった。

これ以上の〈浄化〉は無用だと言ったシーラに、スカラベルは、〈はい、師よ。よくわかりました〉と答えた。スカラベルは自分の〈浄化〉がシーラに及ぼした影響を正しく感知し分析して、シーラの正体を知ったのだ。

(なんてことだ)

レカンは愕然とした。

ではあのとき、シーラは消滅してしまったかもしれなかったのだ。もしもスカラベルが〈浄化〉をかけ続けたら、さすがのシーラも耐えきることはできなかっただろう。あのときシーラは、そこまでの覚悟をしてスカラベルの〈浄化〉に身を委ねたのだ。

愚かといえば愚かなふるまいだ。だがレカンは感動した。何に感動したのかは自分でもよくわからない。わからないが、シーラの身の処し方に感動した。

たぶんスカラベルもそうだったのだ。シーラの正体に気づくとともに、それでも自分の〈浄化〉をまともに受けてみせた腹の据わり方に驚嘆した。それは〈あんたになら殺されてもいい〉という意思表示にほかならない。だからシーラが人ならぬ怪物だと知っても、スカラベルのシーラに対する敬意は変わらなかったのだ。と同時に、大恩ある師匠を危うく消滅させてしまうところだったことに気づいた。だから激しく動揺し、呆然とした。思い出して振り返ってみれば、あのときのいろいろなことがふに落ちる。

「というわけだからね。今はあんまり踏ん張りが利かないんだ。迷宮は無理だね」

「あ、ああ。それはいい。よくわかった。だがあんたはもう力を取り戻せないのか?」

「それがねえ。何とかなるかもしれない」

「なにっ」

「あんたのおかげさね」

「オレの?」

「そうさ。そしてそのことに関わってあんたに相談がある」

「オレに?」

「ヴルスの魔石に匹敵する、あるいはあれを超える魔石を持ってないかい?」

しばらくの沈黙ののち、レカンは低い声で答えた。

「ああ、持っている」

あと何個か竜の魔石があるが、そのなかでヴルスの魔石を超えるといえるものは一つしかない。とっておきの秘宝だ。

だがレカンは、それがシーラの役に立つなら譲ってもいいと思った。どのみちレカンにとっては強大な竜の魔石も、大きな魔力庫以上のものとはならない。この世界に来てレカンがシーラから受けた恩は、こんな魔石とは比べられないほど大きい。

持っていると答えた以上、手放す覚悟はある。

しかしレカンは冒険者である。苦心惨憺のすえ手に入れたお宝を、ただで手放したりはしない。

右目の瞳に怪しげな光をともして、レカンは言葉を発した。

「バリフォアという異世界の竜の魔石を持っている。ところでシーラ。あんた、〈始原の恩寵品〉を持ってるんじゃないか?」

シーラは、感情の読めない表情をした。ずいぶん長いあいだ黙り込んで、その表情を変えなかったが、やがて言った。

「やっぱりそこに気づいたかね。ああ。持ってるよ」