軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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「手も足も出ませんでした」

「嘘だろう。それほどの使い手なのか」

「しかも気骨があり、筋を通す男です。思いやりもあり、情けもあります」

「お前がそこまで言うほどの男か」

「少し偏屈なところがあり、疑い深いところもありますが、人格の根幹には高潔さを備えた人物です」

「ほう」

「そしてレカンとノーマ様は、深い信頼で結ばれています」

「そうなのか?」

「あの男はノーマ様の頼みなら、たいていのことは聞いてくれるでしょう。それを恩に着せたり、分不相応な要求をしてきたりするような人間ではありません」

「ううむ」

この時点のフィンディンにとって、レカンという名は災厄の代名詞のようなものである。ジンガーの言うような男とはとても思えない。だから、話の展開にまったくついてゆけなかった。

「マンフリー様、お願いがあります」

何事かを考え込んでいたマンフリーは、ノーマの言葉に顔を上げた。

「レカンは今ツボルト迷宮を探索しているはずなのです」

「ほう」

「使いをやって、レカンの所在を確認し、今どういう状況であるかを調べていただけませんか」

「ふむ。ツボルトなら直接侯爵に調査を依頼してもいいが、この件はあまり表沙汰にしないほうがいいだろうな。よし。密偵を数人送り込む」

話し合いが終わったあと、フィンディンは廊下でジンガーに話しかけた。

「ジンガー様」

「何かな」

「先ほどのレカンという冒険者について、あなたがおっしゃったことなのですが」

「ふむ。あれがどうかしたかな」

「レカンというのは、夜間にゴンクール邸を襲撃してゼプス様を惨殺した、あのレカンのことですね?」

「そうだ」

「とてもああまであなたが称賛するような人物とは思えません」

「君の立場からすればそうかもしれんな。だがあのとき、ゼプス殿はエダ殿を不意打ちで昏睡させ、誘拐したのであり、レカン殿はそのエダ殿を奪還に来たのだということは知っているのかね」

「えっ? 誘拐? それはお言葉がすぎるでしょう」

「そうかね」

「それに、少々行き違いがあったとしても、日中堂々と訪問して用件を言えばすむのに、わざわざ夜間に門を壊して侵入したことは、犯罪以外のものではありません。エダ殿がゴンクール家に迎えられたことについては、ご本人に意思を確認すればよいことだし、問題があれば領主に訴え出るのが筋です」

「事実関係についてはカンネル殿に確認しなさい」

「そうします」

「フィンディン」

「はい」

「私はノーマ様の騎士だ。形のうえでどうあろうとも」

「はい」

「私はノーマ様の安全と幸せを願う。そのうえでノーマ様の指示に従う。言葉にならない指示も含めてのことだ」

それだけを言ってジンガーは去った。

このジンガーの言葉を、フィンディンは繰り返し味わった。

(そうか)

(ジンガー様にとって、ご自分がレカンをどう思うかということは、この際あまり問題ではない)

(ノーマ様がどう思っておられるかが問題なのだ)

(そしてノーマ様はレカンを代理人にしたいと望んでおられる)

(だからジンガー殿はあのようなことをおっしゃったのだ)

(では、私はどうなのだ?)

(私はノーマ様に信頼される家臣でありたい)

(ノーマ様の信頼を得なければ、ゴンクール家のお役に立つことはできないからだ)

(とすればジンガー様と同じように思考し行動すべきなんだ)

それにしてもジンガーという騎士は、いかに主命であっても心にないことや嘘を言う人物とは思えない。そのジンガーがなぜああもレカンを称賛したのかが不思議といえば不思議だった。

その後フィンディンは、ノーマがレカンをどう思っているかを少しずつ聞き出した。

ノーマによれば、レカンは冒険者として最強無敵であるのみならず、回復魔法の使い手としても比類のない領域にあり、それ以上に薬師としては、超絶的な技術を持っている。薬聖とその弟子たちすら、レカンの技術には驚嘆するばかりだったというのだ。しかもレカンは、その透徹した人物評価と分析力と包容力で、ノーマの心の闇を優しく取り払ってくれたという。

これだけ聞けば、ノーマがレカンのことをどう思っているかは明らかだ。

(だめだこれは)

(ノーマ様ほどのかたが恋情に浮かされて)

(正常な評価ができなくなっている)

(どう考えてもそんなやつがいるわけがない)

(レカンというやつは悪人だな)

結局フィンディンの、レカンは乱暴者であり無法者だという印象は変わらなかった。それどころか、女たらしの極悪人だという評価が加わったのである。

その後、密偵の調べにより、百二十階層しかないと思われていたツボルト迷宮にさらに下層があることをレカンが発見し、今は未踏破階層に挑み続けているということがわかる。

それを知ってマンフリーもレカンという冒険者に勝負を委ねる気になった。

事はノーマの縁談ではあるが、ワズロフ家の名誉もかかっている。そして、いずれ諸家系統譜が書き換えられるのは確実なのだから、結局この出来事は海賊貴族フォートス家とワズロフ家の縁談なのだ。つまりワズロフ家の今後について、きわめて重要な意味を持つ縁談なのだ。

マンフリーはレカンを呼び出そうとしたが、ノーマはそれを止めた。迷宮に挑んでいるのを邪魔したのでは心証が悪いというのだ。

いったんノーマはヴォーカに帰り、レカンの帰りを待つことになった。

もしも期限が近づいてもレカンがヴォーカに帰還しないようなら、そのときこそレカンを呼び出すことになる。

ワズロフ家に滞在しているあいだも、ゴンクール家に帰ってからも、ノーマは寸暇を惜しんで原稿を執筆していた。そして合間合間には、ゴンクール家の抱える問題に適切な助言をくれた。

そんなノーマをみて、次第にフィンディンは敬意を深めていったのだった。また、レカンのゴンクール家襲撃についても、カンネルから詳しく事情を聞き、レカンの側にも言い分があることを理解はした。

手紙を書いていたノーマが顔を上げて声をかけたため、フィンディンの回想は終わった。

「フィンディン。君には、王都行きの準備もしてもらわないといけない。いろいろ用事もあるだろうにすまないが、この手紙を書き終わったら、できるだけ早く出発してもらいたい」

「はい。すぐに荷物と馬車の準備をいたします」