軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ペンタロスは爆笑した。

「わっはっはっはっはっはっは。わっはっはっはっはっはっはっはっ。なんて愉快なんだ。あんたは素晴らしい。あのこざかしい宰相狸をそんなに見事に斬って捨てたのか」

そこでペンタロスは急にまじめな表情を作った。

「ノーマ姫」

「はい?」

「〈紅刃姫ニコラ〉は剣の腕も立ったが、何よりその知略がすさまじかった。〈海賊王〉が一大勢力を築けたのは、実のところニコラのおかげだ。俺たちには今こそニコラが必要なんだ」

ペンタロスは、素早く立ち上がるとテーブルを回り込んでノーマの前に進み出て、床にひざまずいた。

「ペンタロス様?」

「あんたに惚れた!」

「はい?」

「あんたの美しさと、気性と、知恵に、ぞっこん惚れた!」

「はい?」

「どうか俺のニコラになってくれ」

「はあ?」

これは求婚なのだろうか。

こんな求婚の言い回しというものがあるものなのだろうか。

それはまるで、俺の首を獲ってくれ、と言っているようなものだ。

だがたぶん、彼らの感性では、これは最高の口説き言葉なのだろう。

さしものノーマもあぜんとして反応できないでいると、今度はソルスギアがヘレスの前にひざまずいた。

「私の〈紅刃姫〉はあなたしかない。ヘレス姫、どうかわが正妃となってください」

なんとソルスギアはヘレスに求婚した。

この二人は、もしかして、あらかじめ求婚することを決めていたのだろうか。どちらがどちらに求婚するかも相談してあったのだろうか。

いや、そうではない。たぶんそうではない。

だが、考えてみると、ペンタロスは三十歳で、ノーマは二十七歳だ。そしてソルスギアは二十六歳で、ヘレスは二十二歳だ。この組み合わせが自然ではある。

だから席次も、ペンタロスとノーマが向かい合い、ソルスギアとヘレスが向かい合うようになっていた。

だがたぶん、この男たちは、それ以上のことは決めていなかった。そこからあとは感性で決めたのだ。つまり会話しているうちに、ペンタロスはノーマを妻に迎えたいと感じ、ソルスギアはヘレスを妻に迎えたいと感じたのだ。何ということだ。まさかこんなことになるとは。

ノーマは自分の魅力のなさには自信があった。だからこんな方向に話が進むとは思っていなかった。

ペンタロスが膝を進めてノーマに近づき、右手を取った。

ノーマは、優しく、しかし断固として、その手をはらいのけた。

ペンタロスに手を取られた瞬間、ノーマは悪寒を感じたのだ。

これは不思議なことである。実のところノーマは、この会食のあいだ、ペンタロスを嫌ってはいなかった。むしろその話しぶりや人柄に好感を抱いていた。

ところが手をふれられた瞬間、おぞましさを感じた。そのときノーマはこう思ったのだ。

(私はレカン以外の男に肌を許すのは死んでもいやだ)

いつのまにこんなに激しい感情が宿っていたのか、自分でも不思議だ。だが、今やノーマははっきりと自分の感情のありかを自覚した。夫となるべき人はレカン以外にいない。それがかなわなければ、誰とも結婚はしない。

それを気づかせてくれたのだから、この見合いはノーマにとって有意義だったといっていい。

ヘレスのほうをみた。

この従姉妹殿はどうするだろう。有力侯爵家の正妃となり、港街で荒くれ男たちを牛耳るのも、案外この騎士姫に向いているかもしれない。

ヘレスはじっとソルスギアの目をみつめて言った。

「港街には、求婚決闘という習わしがあるそうですね」

「あ、ああ。あります。〈紅刃姫ニコラ〉はダロスに、自分に剣で勝ったら結婚してあげるわと言った。そしてダロスは挑戦を続け、ついに奇跡的に勝利をつかみ、ニコラを妻に迎えたのです。それを受け継いでできた習わしです」

「私は私より弱い男に嫁ぐ気はありません」

「おお!」

ソルスギアの目が大きくみひらかれた。喜びに輝いている。そのまなざしは、もはや崇拝に近い。

「ソルスギア・インドール」

「はい」

「私に求婚決闘を挑むことを許します」

「ありがたき幸せ!」

ソルスギアは大げさに感謝の礼をしてみせた。

「私に勝利して、私をなんじのものとせよ。しかして私に敗れたときは、二度とこの話を持ち出すことは許さぬ!」

「はは! なんたる光栄。なんたる喜び。姫、必ずやわが一剣をもってトランシェの美花をわがものとなすでありましょう」

おかしい。

何かがおかしい。

今目の前で行われているのは、本当に貴人同士の求婚のやりとりなのだろうか。

ノーマも心ひそかに、求婚というものにあこがれるところはあった。自分自身にはそんなことは起こりはしないと知ってはいたが、世の中にはため息の出るようなロマンチックな求婚があるのだろうと想像していた。

だが今目の前で行われたのは、どこをどうみても決闘の約束である。

どうしてこんなことになってしまったのか。

ヘレス姫の後ろでは、レイスが手で顔を覆っている。この成り行きをレイスは予想できていたのだろうか。たぶん予想できなかっただろう。

「ノーマ姫! 俺の求愛に答えてはくれないのか!」

(あ、そういえば私も求婚されていたのだった)

ノーマは視線をペンタロスに戻した。

そのとき天啓が降りてきた。

ノーマは至福の笑みを浮かべてペンタロスに聞いた。

「ペンタロス様。その求婚決闘というものは、代理人に受けさせることができますか?」

「おう! もちろん、できる。相手が認めればな。ただし、家臣か身内でなければ代理人とすることはできない。つまり他家から強い騎士を借りたり、金で強い冒険者を雇ったりすることはできん。それと、片方が代理人を出すなら、もう片方も代理人を出すことになる」

「家臣か身内」

「そうだ」

「では私も求婚決闘の結果をもってお答えしたいと思います。あなたさまの代理人が私の代理人に勝利されたら、私はあなたさまの妻となりましょう。私の代理人が勝ったなら、ご縁がなかったものとお思いください。二度とお会いいたしません」

「なんという素晴らしい申し出だ」

ペンタロスはにやりと笑った。

ノーマもにこりと笑った。

このあとペンタロスがどう出るか、ノーマには予測ができている。宰相がどう出るかも、ほぼ予測ができている。

そしてノーマは望むものを手に入れるだろう。