作品タイトル不明
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騎士のその後ろには兵士が二人いる。周りには職員らしき人間が大勢いるが、みな物陰に身を隠すようにして成り行きをみまもっている。
(ほう)
(この三人は腕が立つな)
騎士が口を開いた。
「私は領主補佐官付の騎士バイアド・レングラー」
「レカンだ」
「ここで何をしているか聞いてもいいか」
「騎士トログ・ベンチャラーが、〈ラフィンの岩棚亭〉の主人ナークとその妻ネルーを誘拐した。そして二人を人質にして冒険者ゾルタンを脅迫し、オレを殺してオレが迷宮から得た〈彗星斬り〉を奪うよう命じた。オレはゾルタンを倒してここに来た。そしてトログを殺してナークとネルーを助け出した」
周りからざわめきが上がった。レカンがゾルタンに勝ったと聞いて驚いたのだろう。
「そうか。まにあわなかったようだな」
「うん?」
「しかしトログ殿を殺害した貴殿をこのまま行かせるわけにはいかん。領主館まで同道してもらえるか」
「断る」
「む」
「オレは、この町の騎士にも領主にも怒っている。こんな無道を放置するような領主の命に従う気はない」
騎士の後ろにいる兵士二人が殺気もあらわに、剣に手をかけた。
騎士バイアドは、両手を左右に広げて二人をとめた。
「よせ。お前たちでは太刀打ちできん。深層の冒険者に手を出してはならんと、いつも言っているだろう。冒険者レカン」
「何だ」
「貴殿はその二人を〈ラフィンの岩棚亭〉に連れ帰るのだな」
「ああ」
「貴殿はまだしばらく〈ラフィンの岩棚亭〉に滞在するのか」
「ああ」
「いずれ事情を聞かせてもらう。ゾルタン殿はどこにおられる」
「死んだよ」
レカンはそう言い残して騎士バイアドの横を通り過ぎた。
そのとき、騎士バイアドの顔に何かの表情が浮かんでいるのをみた。だが、それがどんな感情を示すものなのか、レカンにははかりかねた。
レカンが進むと、ナークとネルーもついてきた。
三人は建物の外に出ていった。
統括所で何か騒ぎが起きたのを知ったのか、建物の周りには大勢の人がいた。
レカンが前に進むと人々は道を開けた。
そのあとも邪魔する者はなかった。
宿に着くまで、三人ともしゃべらなかった。
ただ黙々と歩いた。
〈ラフィンの岩棚亭〉に着いた。
ドアを開けるとブルスカがいた。
「ナーク! ネルー! 無事だったのか! レカン、あんたが二人を助けてくれたんだな」
「ああ」
「迷宮統括所に乗り込んだのか?」
「ああ」
「あんた、とんでもないやつだな。いや、知ってたけど」
レカンからおよその事情を聞いたブルスカは、ゾルタンが死んだと聞いて残念な顔をしたが、トログが死んだと聞いたときには、よしっ、とこぶしを握り、愉快そうに笑った。
ナークとネルーは、まず便所に行き、それからあり合わせのもので腹を満たしながら話を聞いたが、騒いだり怒ったりするようなことはなかった。
レカンのほうでは、ゾルタンを殺したことを話せば、ナークもブルスカも悲しみ、レカンを非難するだろうと思っていたので、この反応は予想外だった。
そのうちに、ツインガーとヨアナも帰ってきた。
昨日の夕方宿に帰った〈グリンダム〉の三人は、ナークもネルーもいないことを不審に思って、近所の人たちに話を聞いた。迷宮統括所の兵士が引き立てていったと聞いて、三人は騎士トログのしわざだろうと思ったという。
今日になって三人は統括所にかけ合ったが、はかばかしい返事はもらえなかったため、周辺で聞き込みなどをしていたのだという。
三人は第百階層に到達した冒険者であり、第九十階層台あたりに潜る冒険者たちの多くが顔見知りだ。迷宮都市では深層に潜る冒険者は特別な扱いを受けるのであり、レカンが思っていた以上に、三人は顔が利くようだ。
驚いたことに、ナークとネルーは夕食の買い物に出た。〈グリンダム〉の三人も、自分で風呂を沸かして入り始めた。
ナークとネルーが夕食の準備をしていると、アリオスが帰ってきた。
町を出たのが十五日だから、まだ五日しかたっていない。しかし考えてみれば、防具の修理が行われている十日間ずっと留守にすると言っていたわけではなかった。
「ただいま帰りました。えっ?」
テーブルに座ってちびちびいぶし酒を飲んでいるレカンをみて、アリオスが凍った。
「何があったんですか?」
その態度が不審だったので、レカンは聞いた。
「何に驚いているんだ?」
「何にって。迷宮の主でも倒したんですか?」
「何のことだ」
「自分では気づいていないんですね。まあ、いいか」
「変なやつだな」
やがて料理ができて、〈グリンダム〉の三人とレカンとアリオスは食卓についた。今夜はナークとネルーも一緒に食事を取った。近所の人々がナークとネルーの無事を知ってようすをみにきたり、夕食目当ての客がぽつぽつ入ってきたりして、ひどく混み合ってきた。
レカンは問われるままに事情を話した。第百二十一階層に到達していることも、〈彗星斬り〉を手に入れたことも、隠さず話した。第百階層以降では、五人以下で入った場合、人数と同じだけの魔獣が出るということも、第百二十階層の〈守護者〉を一人で撃破することで第百二十一階層への道が開かれるということも話した。ただし、〈不死王の指輪〉のことは話さなかった。
〈グリンダム〉の三人は、呆然としながらその話を聞いていた。
第百二十階層よりさらに下の層があり、それを発見したということも驚きだが、三人が一番驚いたのは、そんな偉業をたった二人で成し遂げたということだ。
「あんたら、やっぱり普通の冒険者じゃないな」
「そうだのう。伝説に名を残すような冒険者なのかもしれんのう」
「何言ってんだい。この二人が普通じゃないなんて、今さらなことさ」