軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6

6

すさまじい斬撃だ。

もしも貴王熊の外套がなければ、体のなかばまで剣は食い込んでいただろう。

貴王熊の外套を斬り裂き、骨を断ち、肉を切る恐るべき一撃だったが、致命傷ではない。

「〈火矢〉!」

二本の〈火矢〉が虚空に生じてゾルタンの閉じた両目を襲った。

至近距離からの突然の魔法攻撃だ。しかも攻撃を放った直後である。さすがのゾルタンもこれをかわせない。

その攻撃はさしたるダメージを与えなかったようだが、目という急所を直撃され、ゾルタンの動きは一瞬止まった。

「〈風よ〉!」

レカンは〈突風〉の力を借りて後ろに跳んだ。

離れ際にゾルタンが二度目の斬撃を放ったが、これは首飾りの障壁に防がれた。

それにしても、ひょろりと伸びた腕から繰り出される攻撃の速度には驚くほかない。

「〈風よ〉! 〈風よ〉! 〈風よ〉!」

レカンは足で地を蹴り、〈突風〉で加速して後ろに跳び下がった。

ゾルタンは追ってこない。

二人のあいだには三十歩ほどの距離ができた。

ゾルタンは、剣を持つ右手をだらりと下げて、レカンの動きをみまもっている。

「〈回復〉!」

レカンは右手を左肩にかざして〈回復〉をかけた。

その右手を前に突き出して手のひらを開く。

「〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉!」

〈炎槍〉の五連撃である。

顔に向かった攻撃をゾルタンは魔法剣で吹き飛ばした。

ほかの四発は胴体に着弾して、轟音が響き炎が噴き上がった。妙に効果は派手だが、おそらくほとんど傷はついていない。

幻魔緑蜂の素材は、きわめて魔法防御力が高い。魔法の威力をはじき返す性能があるのだ。鎧の奥にはダメージが通らない。非常に入手のむずかしい素材であり、これでまるまる一人分の鎧を作った冒険者をレカンはみたことがない。

「〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉!」

さらに五連撃を放った。

攻撃しながら、レカンは〈回復〉の効果が充分に現れるのを待ち、また情報を整理しているのだ。

今の攻防でわかったことは、まずゾルタンは〈立体知覚〉が使えるということだ。

レカンの脳裏にゾルタンとの会話がよみがえる。

〈お前さんのその左目はどうしたんだ?〉

〈タントラン迷宮の四十二階層でな〉

〈三尾大蛇の毒液か? あれはたちがわるいからな〉

もちろんゾルタンはタントラン迷宮を踏破して、〈立体知覚〉を得ているのだ。〈魔力感知〉も持っているとみたほうがいい。

「〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉!」

さらに魔法攻撃を放ちながら、レカンは後退する。

ゾルタンは、〈影刃〉のスキルを持っている。これは、もとの世界のスキルだ。不可視の刃を放つスキルである。以前にもレカンはこのスキルをみたことがある。

ゾルタンが〈ゴアル〉という呪文を唱えると障壁が消えた。あれはいったい何だったのか。

もとの世界の言葉だとすると、〈ゴアル〉は〈食え〉という意味だ。もともとは〈飢え〉という意味の言葉だ。〈風よ〉や〈刃よ〉になぞらえていえば、〈飢餓よ〉と解すべきかもしれない。いずれにしても、そんな奇妙な呪文を使うスキルを、レカンは知らない。

しかしもとの世界のスキルでレカンが知らないものなどいくらでもある。冒険者はおのれの能力をひけらかしたりしないものであり、珍しいスキル、強力で特別なスキルほど秘匿される。ゾルタンほどの男なら、レカンの知らないスキルの三つや四つは習得していても不思議ではない。

たぶんあれは、魔法を食い破ってしまうスキルなのだ。〈影刃〉を放って障壁を発動させ、発動させた障壁を食い破って、その食い破った割れ目から魔法剣で攻撃したのだろう。

背筋に寒いものが走り抜けるのを感じた。

レカンがこの世界で強者であるのは、もとの世界で身につけた剣技と体力とスキルのおかげであり、それを土台にしてこの世界で得た基礎力上昇と魔法のおかげだ。

だが敵は、もとの世界でレカン以上の剣技とスキルを獲得しており、この世界ではレカンの何十倍もの年月をかけて力を積み上げてきた男なのだ。

左奥の回廊に移動して身を隠し、腰に吊った袋から大魔石を一個取り出して魔力を吸った。

甘くみていたわけではないが、レカンはゾルタンのことを年寄りだと思っていた。もう現役の戦士ではないと、心のどこかで思っていた。

だが、そうではなかった。

強敵だ。

真の強敵だ。

対等以上の敵手だとレカンが心から認められる本当の強敵だ。

愉悦が込み上げてくるのを感じた。

この世界に来てはじめて出会った、死力を振り絞らねば戦えない人間の敵手である。

しかもそれが同郷の冒険者なのだ。

(面白い)

(面白いじゃないか)

(こんな面白い戦いができるとは)

(それでこそ冒険者でいた意味があったというものだ)

もはや戦いの理由など、どうでもよかった。

勝敗がついたあと何が起きるのかも意識から消えた。

今目の前に最高の難敵がいて、誰にも邪魔されず、心ゆくまで二人きりで戦うことができる。そのほかのことなどささいなことだ。

レカンの全身は喜びに震えた。