軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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イライザが出ていったのをみおくってから、ゾルタンは椅子を引いて座った。

「レカン。面倒を頼んですまんな」

「確かに面倒だった。だが、もういい。ナーク!」

ナークがどたどたと奥からやって来る。厨房の奥、つまり自宅のほうに行っていたようだ。

『いぶし酒、飲むか』

レカンは、もといた世界の言葉で話しかけた。

『ああ。もらおう』

同じ世界の言葉でゾルタンが返事をした。

ナークがやってきた。

「いぶし酒を出してくれ。カップは二つだ。あと、何かつまめるものを」

ナークは手際よく酒瓶と金属カップを取り出して並べ、豆と干魚を皿に盛って出した。

「ぼうず。すまんが木のカップにしてくれ。そっちのほうが好きなんだ」

「オレもそうしてもらおうか」

ナークはカップを取り換えてから厨房に向かった。何か作ってくれるのだろう。

『乾杯』

『乾杯』

『あんたがこの宿の前にやって来たとき、思わず声を上げそうになったよ』

『わしもだ。あんな感覚は味わったことがなかった。だが、同郷の者がこの宿のなかにいると、確かにわかった。あんな感覚があるものなんだな』

『同郷の人間が近くにいると、あんな感じがするものなんだな』

『いや、そういうわけではない』

『うん? どういうことだ?』

『前にも同郷の者たちに会ったことがあるが、あんな感じはしなかった。だがそいつらは冒険者ではなかった』

『冒険者でもない者が、〈黒穴〉に飛び込んだのか?』

『そうじゃない。森のなかで突然大きな〈黒穴〉が目の前に現れ、落ちたというか飲み込まれたらしい』

『へえ。そんなこともあるんだな』

『たぶんさっきの感覚は、お互い迷宮のそれも深層に潜る冒険者だから感じるんじゃないかな。そんな気がする』

『なるほど』

『わしたちの世界とはまた別の世界で迷宮に潜っていたやつとも会ったことがあるが、そいつからもおまえさんのような匂いはしなかった。だから、同郷で迷宮を探索していた者にだけ、さっきのような感覚を覚えるんだと思う』

『あんた、いろんなやつに会ってるんだな』

『長いからな』

『何年だ?』

『さて。五十年は少し超えるはずだが。よく覚えておらんな』

『なに? あんた年はいくつだ』

『八十は超えて、九十に近いかの』

『とてもそこまでの年にはみえん』

「落ち人は、少しばかり寿命が延びる。迷宮の深層に潜るとさらにな」

「お、こっちの言葉に戻したか」

「今となってはこの言葉のほうがしゃべりやすい」

「お待ちどうさん。話がはずんでるみたいだな」

ナークは出来たての肉料理を運んできた。三種類の肉を火であぶったもので、ぴりりと辛い香辛料がそえられている。

「この男とは同郷なんだ」

「へえ! ゾルタンと同郷なのかい。そりゃ驚いた。てか、ゾルタンの故郷って、どこなんだ?」

「遠い国さ」

「そういえばあんた、最初にじいさんのところに転がりこんだとき、言葉がしゃべれなかったそうだな」

「じいさん?」

「わしがここに来て最初に立ち寄った村で、言葉が通じないために厄介なことになってな。森に隠れて過ごしていたんだが、隊商が魔獣に襲われているとき手助けして、その護衛をしていたナークのじいさんが連れて帰ってくれた」

「ほう。ナークのじいさんは冒険者だったのか」

「そうだ。ヤークという名だった。ヤークは親切なやつでな。こっちの言葉をまったくしゃべれんわしを、迷宮に連れていってくれた」

「それは親切というのか」

「ぐっくっく。親切だとも。やつはわしの戦闘力に興味を持ったのだな。そしてわしにとって迷宮はふるさとのようなものだ」

「なるほど」

「ヤークには世話になった。言葉をはじめ、こっちの常識を一から教えてくれた。ちょっと偏った常識だったがな。ぐぐ」

ゾルタンが含み笑いをすると、歯の隙間から空気が漏れる音がする。それが面白かった。

「やがてやつは結婚して冒険者をやめて、野菜を作るようになった。わしは迷宮に潜り続けた」

しばらく話をしていると、ネルーが買い物から帰ってきた。ひとしきりゾルタンとあいさつをかわしたあと、ネルーは畑から新鮮な野菜を収穫して料理してくれた。うまそうな料理が何品か並んだ。ナークとネルーは気を遣ったのか、奥に下がった。

「そうだ!」

「どうした?」

「いいものがあったんだ」

レカンは〈収納〉から酒の瓶を取り出した。

「これは! レガッテの三十年物! おお!」

もとの世界から持ってきた酒の最後の一本だ。今こそ開けるべきだとレカンは思ったのだ。

「まあ、飲め」

「すまん。ああ。いい香りだ」

ゾルタンは、つがれた酒のいくばくかを舌の上に流し込むと、顔を上に向けて喉に流し込んだ。

「この面相になっちまってから、口に飲み物を含むと漏れちまうんでなあ。飲み物は一気に喉に流し込むようになった。最初のうちは、熱い茶を飲むたびに赤ポーションが要ったもんだ。ぐぐ」

「ははは。その顔はどこでやられたんだ?」

「ここの迷宮の百二十一階層だ」

「なに?」

「ぐっくっくっ。お前さんもたどり着いたようだがな」

(ゾルタンにも話していたんだな)

(どこが秘密鑑定なんだ。まったく)

「そうか。あんたも到達してたんだな」

「そういうことだ。だが百二十階層の〈守護者〉を一人で倒せば下に下りられるということは、人には話さなかった」

「なぜだ?」

「死ぬだけだからな、力がないやつがそんなまねをしても。わしは待った。それを教えていい相手が現れるのを。そんな男が現れたら、わしはそいつと一緒に真の最下層を目指すつもりだった」

「なるほど」

確かにそうだ。迷宮統括所にその秘密を教えれば、すべての冒険者がそれを知る。もしかすると最初はある程度以上の冒険者にしか教えないかもしれないが、そのたぐいの秘密はいずれは漏れるものだ。そうすれば、無理をして百二十階層に到達し、無理をして一人で戦いを挑むものが、次々に現れただろう。

「だがそんな男はついに現れなかった。ヤークの息子のマークは百二十一階層に行ける才能のある男だったが、結婚して冒険者をやめて、この宿を開いた。それにしてもこの酒はうまいなあ」