作品タイトル不明
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「秘密鑑定は、大金貨一枚という大金と引き換えに、鑑定書の写しも作らず、鑑定士は誓約までして鑑定内容を秘密にする鑑定だ。立会人がつくが、立会人もその部屋でみたことは秘密にすることを約束する。では聞くが、その秘密はツボルト侯爵に対しても守られるべきものか。それともツボルト侯爵は鑑定内容を知ってもいいのか」
「もちろんツボルト侯爵は鑑定内容を知ってよい。その義務と権利がある」
「そうか? では、秘密鑑定ではない普通の鑑定で、鑑定書の写しを作るのはなぜだ」
「記録を残すためだ」
「では秘密鑑定では、なぜ記録を残さない」
「鑑定内容を秘密にするためだ」
「誰に対して秘密にするんだ」
「それは……記録をみる者すべてと、冒険者やそのほかの者たちだ」
「そのすべてに侯爵は含まれないと、統括官殿は考えているわけだな」
「当然だ」
「だがオレが秘密鑑定は鑑定内容を秘密にする鑑定だと説明されたとき、侯爵はその例外だとは言われなかったし、むしろオレが一番秘密にしたかったのは侯爵に対してだ。侯爵が知ってしまえば、その部下の誰にでも、侯爵は鑑定内容を教えることができる。それでは秘密鑑定の意味がない」
「ツボルト迷宮から出た品の内容を侯爵閣下に対して秘密にするなぞ、不敬だ」
「統括官殿がどう考えているかを今は聞いていない。今は鑑定を受ける者がどう思うかを話している。オレは秘密鑑定とは、侯爵を含め誰にも内容が伝わらない鑑定だと理解した。だから大金貨一枚という大金を支払ったのだ」
「それは屁理屈だ」
「ではなぜじいさんは怒ったんだ」
「それがわからない」
「じいさんは、秘密鑑定の鑑定結果は依頼主と鑑定士しか知らず、鑑定士には死ぬまで守秘義務が課せられると言った。その言葉には、自分は死ぬまで守秘義務を守り抜くという誇りが感じられた。侯爵に対しても秘密を守り抜くという誇りだ」
「それは貴殿の臆測にすぎない」
「じいさんは、鑑定内容についてオレが質問したときも、わざわざ紙に答えを書いてよこした。立会人に知らせないためだ。もし立会人が鑑定内容を侯爵に報告しないと考えたのなら、そんなことをするわけがない」
「鑑定士には、侯爵閣下がどのような方法で秘密鑑定の中身を知るのか知らせておらん」
「それは鑑定士をだましていることにはならないのか」
「教えていないだけだ」
「じゃあ聞こう。秘密鑑定の鑑定結果が領主には筒抜けだと知ったら、冒険者は大金貨一枚を支払うと思うか?」
「支払う冒険者は少ないだろう」
「わかっててやってるわけだな。たちが悪い」
「失礼な言い方はやめてもらいたい」
「大金貨一枚という法外な鑑定料も、鑑定書の写しを作らないというやり方も、わざわざ別室で鑑定することも、立会人が字が読めないほどの位置に立つのも、みたことを他言しないと約束するのも、冒険者を油断させ、おびき寄せるための罠であり、自分はその片棒をかつがされたとじいさんは感じたんだ。人をだます手伝いをさせられたと思ったんだ。だから怒ったんだ」
この言葉はイライザの何かにふれたようで、彼女はしばらく考え込んだ。
「ではツボルト迷宮から出た品についてツボルト侯爵が知りたいと思うのは罪だとでも言うつもりか」
「それとこれとは話がちがう。では別のことを聞こう。鑑定内容について秘密を守るという約束は、誰が誰にした約束なんだ」
「え? 鑑定士が依頼者にする約束だろう」
「じゃあ、鑑定料は鑑定士のものになるんだな」
「そんなはずがあるわけがない。侯爵閣下のものになるに決まっているだろう」
「そうだろうとも。鑑定を実際にするのは鑑定士だが、それは侯爵の家臣として、あるいは雇われた者として、侯爵に代わって鑑定するんだ」
「そういえなくもない」
「そして立会人も、そいつ個人としてその場に立ち会うんじゃない。侯爵の代理として立ち会うんだ。鑑定士も立会人も、侯爵の名において仕事をするんであって、その仕事に対する信用は、侯爵に対する信用なんだ」
「それは当然のことだ」
「ということは、秘密が鑑定士以外には知られることはないというのは、侯爵がした約束なんだ。その約束を侯爵みずからが破った。いや、最初から嘘の誓いだった。そんな侯爵のもとで、誇りある鑑定士が働けるか?」
イライザは黙り込んだ。ぶつけられた言葉の意味を理解しようと努めているのだろう。
「領主は決まりを作って人をそれに従わせる立場だ。ところが往々にして、自分はその決まりに縛られずにすむと思っているところがある。だが、建前というのは守り抜くから建前になるんだ」
「建前?」
「そうだ。秘密鑑定という建前を立てたら、それを崩してはいけないんだ。あんたは秘密鑑定の内容についてオレに自慢げに言ったな。立会人グィスランが確かにみとどけたと。だが、それは口が裂けても言ってはならないひと言だった。そのことは徹頭徹尾秘密にしなくてはならなかったんだ」
「貴殿がごまかそうとしたから、証拠を突きつけたのだ。グィスランがみたということを秘密にしたのでは、貴殿がごまかしをしたということを暴けないではないか」
「グィスランの報告で事実を知ったとしても、それは言ってはいけなかった。証拠が欲しければ、その情報に基づき調査して証拠を集め、お前はこれこれのものを手に入れただろう、これこれの階層に到達しているはずだと言えばいい。あんたが自慢げに発したひと言は、自分が信義を守らない糞野郎だと証明する言葉だったんだ」
イライザはうつむいて黙り込んだ。ずいぶん待って、ゾルタンが声をかけた。
「お嬢。テルミン老師に何をどう謝ればいいか、これでわかっただろう。今から行ってこい」
「しかし、レカン殿の許しが得られていない」
「どのみち簡単に許しが得られることじゃあない。レカン殿とこんな話をした、こんなことを言われたと、素直に言えばいい。そのうえで心から謝るんだ。無理に引き止めようとするな。ただ謝るんだ。そこから先のことはそれからのことだ」
「わかった」
イライザは立ち上がり、レカンに礼を言った。
「貴殿の教えに感謝する。それにしてもレカン殿は、よくよく冒険者というものの考え方を理解しているのだな。話し方もまるで本当の冒険者のようだ。感服した。では」
「あ、お嬢。わしはここに残るからな」
「え? ああ。宿のあるじと旧交を温めるのか。わかった」
「待て。一つ思い出した」
「何だろうか、レカン殿」
「じいさんは、オレが支払った大金貨を返してくれた。もしかするとあれはじいさん自身の金だったかもしれん。確認して、もしじいさんが自分の金を出したんだったら、返したほうがいい」
「わかった。ありがとう」
そしてイライザは帰り、ゾルタンは残った。