軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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その後二日間は移動だった。レカンは、一日に二個、つまり二日で四個の体力回復薬を飲んだが、やはり服用を重ねるほど薬効は落ちた。食事を済ませたあとは倒れるように寝た。

続く一日は、苔の採取だった。シーラは、藁で包んだ小さな壷をいくつも用意しており、十四種類の苔を、慎重に丁寧に封入した。

夕食のあと、〈 着火(ウテル) 〉を練習していたレカンは、ふと思い出して訊いた。

「そういえば、冷気は光熱系の魔法のようだが、冷気のブレスも光熱系なのか」

「冷気のブレスだって?」

レカンは、ザイドモール領の奥地で出遭った巨大な魔獣について説明した。

「なんてこった。それは地竜トロンだろうねえ」

「竜! あれは竜種だったのか」

「その特徴じゃあ、ほかに考えられない。あれを一人で倒すなんて、あんた化け物だねえ」

化け物に化け物と呼ばれるのはいささか心外だが、あらためて強敵だったことを知り、よく勝てたものだという感慨が込み上げてきた。

「冷気というのはせいぜい水を冷やして氷を作るぐらいのことしかできなくて、ほとんど役に立たない魔法とみなされている。あたしはむかし強力な冷気魔法で戦う魔法使いを知ってたけれどね。冷気のブレスというのはみたことがないねえ。いずれにしても、魔獣の使う魔法は、人間の魔法の系統とはちょっと種類がちがっていてね。冷気のブレスが何系の魔法なのか、あたしにもわからないさ」

「この世界の竜種には、どんな種類があるんだ」

「地竜、火竜、飛竜だね。王都のような大きな町に行けば、使役されている地竜や飛竜をみることができるよ。人間に使役できるのは小型の竜だけれどね。地竜トロンは珍しい竜だね。同時代には一体の個体しか出現しないといわれる六体の特別な竜の一つだよ。〈豊穣の竜〉と呼ばれていて、トロンが棲んでいた土地は栄えるという伝説があるのさね。王都ができてる場所も、むかし地竜トロンが棲んでいたらしいよ」

「竜を人が使役しているのか」

「人間に使役できるのは小型の地竜か小型の飛竜ぐらいだけどね。飛竜は、〈 白首竜(スレスザム) 〉という種類なら人が乗れるように調教できるけど、王直属の竜騎士しか乗ることを許されない。地竜は、戦闘に向いたものは軍の管轄で、あと荷物運びに向いたおとなしい地竜を大商人たちが保有しているね。ところで、あんた、トロンの素材を持ってるんだろう。みせておくれでないかい」

地竜トロンを斃したときには、すぐに魔石を取って死骸を灰にしてしまった、とレカンが告白すると、シーラは憤慨した。

「なんてばかなことを! 竜は貴重な素材のかたまりなんだよ! しかも地竜トロンの素材となったら、二度と手に入るもんじゃない。なんというばかなことをしたんだ。たとえ戦闘で疲れ果てていても、魔石さえ抜かなけりゃ、二日でも三日でも、いいや竜なら一年でも、死骸は待ってくれるだろうに! しかもあんたは竜一頭丸々入れられる〈 箱(ルーフ) 〉を持ってるというのに! この役立たず!」

確かに考えてみればもったいないことをしたのだが、あのときは疲れきっていたし、ザイドモール家に早く帰る必要があったし、〈収納〉に入れるには、小さく切り刻む必要があった。とてもそんな余裕はなかったのだ。

今にして思えば、死骸をそのままにしていったんザイドモール家に帰り、数日不在にすると告げて現場に戻り、ゆっくり竜を解体すればよかったのだが、あのときはほかのことに気をとられていて、そんなことを考える余裕はなかったのだ。いずれにしても、よい考えというのはあとから浮かぶものだ。その時点ではそうはいかなかったのだ。

ただ、研究者肌のシーラからすれば、確かに許せない大失敗だったにちがいない。

罵倒の言葉を吐き続けるシーラの前で、レカンは地竜トロンから得た魔石を取り出した。

シーラは突然沈黙した。

「それは……それは、地竜トロンの魔石だね?」

「そうだ」

「さわってみていいかい?」

「もちろんだ」

シーラは、そっと巨大な魔石を両手で受け取り、興味津々でじっとみつめた。〈解析〉とやらをしているのだろう。

レカンは、〈収納〉からもう一つの魔石を取り出した。それはトロンの魔石に匹敵する大きさだった。

「そ、それは?」

「これは、オレがもといた世界の迷宮の最下層の主だったヴルスという名の竜の魔石だ」

「い、異世界の、竜の、魔石」

「シーラ」

「え?」

「あんたには世話になっている」

「い、いや。たいしたことは、してないさ」

「その礼に、この二つの魔石のどちらかを進呈する」

「えええええっ?」

「好きなほうを選べ」

「い、いや、そんな。まさか、こんな貴重なものをもらうわけには」

「あんたが教えてくれる魔法と知識は、オレにとってこの魔石以上の価値がある。そしてあんたがどちらを選んでも、選ばなかったほうはオレのものだ。遠慮なく選べ」

実のところ、レカンは同じクラスの魔石をまだ何個も持っている。レカン自身は付与もできず研究者でもなく、結局魔石を魔力庫としてしか利用できない。そしてレカンは、ここまで巨大な魔力の塊を戦闘に使うことはない。

シーラは、迷いに迷ったすえ、地竜トロンの魔石を選んだ。異世界の竜の魔石をもらっても、その力をうまく引き出せないかもしれない、というのがその理由だ。

「お、お願いがあるんだけれどね」

「何でも言ってくれ」

「家に帰ってから、その異世界の竜の魔石を、一旬、いや三日でいいから貸してもらえないだろうかね。いろいろ調べてみたいんだ」

「なんだ、そんなことか。一旬でも一か月でも、好きなだけ調べてくれ」

「おお! ありがとう!」

「そういえば、一つ相談があるんだが」

「ほう。何だい」

「薬の調合ばかりでは、体がなまってしまう。だから時々休みをもらって、迷宮を探索したり、森で魔獣を倒したりしたいんだが、どうかな」

「そんなことか。もちろん、かまわないとも」

その夜、シーラは眠りにつく寸前まで、楽しそうに魔石をながめまわしていた。そして寝る前に荷物袋にしまい込み、ご丁寧に荷物袋の紐を握ったまま眠りについた。