作品タイトル不明
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またしても、下層への階段がある二つの部屋は、二つとも使用中だった。
近いほうの部屋は、なかにも八人いるし、外にも五人いる。
遠いほうの部屋は、なかに十人いるが、外には人がいない。
遠いほうの部屋に行くことにした。
ところが遠いほうの部屋に向かう途中で、別のパーティーが遠い部屋に近づいてゆき、そのうちの一人が部屋に入ってすぐに出た。そのパーティーは、部屋の前で停止している。
(順番待ちをするつもりだな)
予定を変えて、近いほうの部屋に向かうことにした。
部屋の前まで行ってみると、外に待機していた五人は騎士だった。五人とも座らずに立っている。
騎士たちは、近づくレカンとアリオスをちらりとみたが、それはあまり気持ちのよい視線ではなかった。
多少の距離を置いてレカンが座り込むと、騎士の一人が硬い声で言った。
「この部屋は、われらギド騎士団が使用中である」
「うん? 順番待ちをしてるんじゃないのか?」
「無礼な口を利くな」
「レカン殿。行きましょう」
そのとき部屋のなかから騎士が二人飛び出して来た。
入り口の前で待機していた二人の騎士が代わってなかに入った。
飛び出した騎士二人は列の一番後ろに並び、小赤ポーションを取り出して飲んでいる。
部屋のなかから騎士が顔を出した。
「全員、なかに入れ!」
外で待機していた五人は急いでなかに入り始めたが、〈生命感知〉は、部屋のなかの青い点が消えたのを捉えている。レカンは立ち去りかけた足を止めて様子をみることにした。
そのあと騎士たちは奇妙な動きをした。
十三人いたうちの十一人が下層に続く階段にいったん入り、そのあと部屋に戻ってきたのである。そして十三人全員が、部屋の外に出てきたのだ。
「うん? お前たち。まだいたのか」
先ほど部屋は使用中だと言った騎士が、きたならしいものでもみるような目でレカンとアリオスをみた。
アリオスが袖を引いたので、レカンは黙ってその場を立ち去り、遠いほうの部屋に向かった。
「今のは何だったんだ?」
「迷宮騎士ですよ。くだらない」
「迷宮騎士?」
聞き覚えのある言葉だと感じたが、すぐに思い出した。以前ノーマに説明を受けたことがあったのだ。諸侯に仕える騎士で、迷宮で強さを得た者を迷宮騎士と呼ぶのだった。
「あまり腕が立つようにはみえなかったがな」
「剣の腕なんか磨いてませんよ、あいつらは」
珍しくアリオスの口振りが厳しい。
「あいつらはね。いい装備とたっぷりの消耗品で、力ずくで迷宮を攻略していくんです。ろくな攻撃ができなくても、それどころか直接戦闘に参加していなくても、一緒に迷宮に潜れば体力が増加しますからね」
「ああ、なるほど」
戦闘技術は低くても、生命力が膨大で筋力も並外れて強い騎士が大勢いれば、防衛戦力としては非常に有効だ。死ににくくなれば、おいおい戦闘技術を身につけていくこともできる。
(それはそれでありだろうな)
だがどうも、アリオスはわざを磨かないで、迷宮探索に参加するだけで力を得た者を毛嫌いしているようだ。そういう相手と戦ったことがあるのかもしれない。
(こいつが迷宮に潜ったことがないというのも)
(案外そこらに理由があるのかもしれんな)
(ふむ)
(ノーマから聞いた説明と少しちがう点もあるな)
(まあこういうことに関してはノーマは門外漢だからな)
「あ、そういうことか」
「どうかしたんですか?」
「さっきの騎士たちは、魔獣を倒したあと、下の階層に続く階段に入った。ところが部屋のなかに二人残っていたんだ。そして階段に入ったやつらは下に下りるんじゃなく、階段を引き返してきて部屋に戻った。そして部屋から出てきた」
「それが何か?」
「全員が階段に入ってしまうと、新しい魔獣が湧く。無傷の白幽鬼が六体だ。そうさせないために二人が残った。階段に入ったら〈印〉ができるから、〈印〉のない者に〈印〉を作らせたんだ」
〈ラフィンの岩棚亭〉のあるじは、その階層に足を踏み入れれば〈印〉ができると言っていた。だが、五十階層から五十一階層に下りる階段に入ったとき試してみたところ、五十一階層の〈印〉ができていた。
レカンは、しめた、と思った。というのは、この迷宮では地上階層から〈転移〉で跳ぶと階段の終点近くに跳ぶのだ。
つまり、いったん地上階層に〈転移〉し、そこから五十一階層に〈転移〉すれば、長い階段を下りることなく終点近くに跳べる。そう考えたのだ。
ところが実行してみると、階段の終点近くではなく階段の始点についてしまった。たぶん五十一階層に実際に足を踏み入れれば終点近くに着くのではないかと考え、実験してみたらその通りだった。
つまりナークの説明は、間違いではなかったが、少し言葉が足りなかったのである。
「そうでしょうね。そして下には下りず、もう一度同じ部屋を攻略するんでしょうね。手っ取り早く強化するために」
「大型個体の部屋を独占してか。迷惑な話だな」
「もしかしたら、騎士団のやつらはほとんど戦わず、ここの領主が派遣した騎士か冒険者に戦わせているかもしれませんね」
「そりゃひどいな。そんなことまでするものなのか?」
「迷宮騎士なんて、そんなものですよ」
ずいぶん辛辣だ。
「あ、ちょっと待て」
「どうしました」
「実験してみたいことがある。ちょっと待っててくれ」
そういうとレカンは手近な部屋に飛び込んだ。
六体の白幽鬼がいる。
「〈雷撃〉!」
レカンに襲いかかろうとした六体の白幽鬼が麻痺して動きを止めた。
一番手前にいたのは〈赤肌〉だったので、その右腕を切り落とした。そして部屋を出た。
「あれ? 用事はもう済んだんですか?」
「いや。もう一回入る」
もう一度部屋に入った。
「〈雷撃〉!」
先ほど右腕を切り落とした〈赤肌〉は、やはり右腕がなかった。今度はその〈赤肌〉の首を斬り飛ばした。
部屋を出た。
〈生命感知〉には、五つの青い点が映っている。
〈立体知覚〉を発動させると、先ほど首を斬り落とした魔獣の死骸が、そのまま横たわっているのがわかった。
「待たせたな。行こうか」
「何をしたんです?」
「傷を付けた魔獣は部屋をいったん出ても付けた傷が消えていなかった。そして、六体のうち一体を殺して部屋を出ても、なかの魔獣は五体のままだった」
「ああ、検証してみたんですね。人から聞いた話をうのみにしないわけか。さすがレカン殿。ところで、そろそろ食事にしませんか」
「そうするか」
魔獣のいない部屋に入って食事をした。
迷宮を探索しているときのレカンは、食後はたっぷり時間をとって体調を調える。
そうしているうちにちょうど大型個体の部屋が空いた。