軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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その日の夜もレカンとアリオスは帰ってこなかった。

〈グリンダム〉は、この日を休養日としたようである。

その翌日、〈グリンダム〉は朝から探索して夕刻には帰ってきた。

夕食の売れ行きも順調だ。

「ナークさん。晩飯、まだ残ってるかい?」

飛び込みの客にそう言われ、ナークは鍋の中身を確認した。

「すまんなあ。今夜はもう売り切れだ」

「そうかい。また来るよ」

本当は妻と自分の分以外に二人分残っていた。だが、どういうわけか、もうすぐレカンとアリオスが帰ってくるような気がして、最後の二人分は売る気になれなかったのだ。

だが〈グリンダム〉の三人が部屋に引き上げ、夕食を食べに来た客の最後の一人が去っても、レカンとアリオスは帰ってこなかった。

(ちっ)

(売り残しちまったか)

(しょうがない)

(俺とネルーの明日の昼飯だ)

そう思っていたら、ドアが開いた。

「ただいま」

レカンとアリオスだった。

ナークはうれしくなった。だがそんなことはおくびにも出さず、厳しい声で言った。

「とっとと入って、ドアを閉めろ。ぬくもった空気が逃げちまうだろうが」

「はい。すいません」

「飯はすぐ食うか?」

「えっ? 晩ご飯あるんですか。それはうれしいなあ。今夜は保存食で我慢するつもりでした」

「食うなら座れ」

「はい。さあ、レカン殿も」

「あれあれ、あんたたち帰ってきたんだねえ」

「あ、ネルーさん。ただいま帰りました」

「はいはい。お帰りよ。今ご飯あっためるからね」

「ありがとうございます」

ナークは棚からキゾルトのいぶし酒と金属カップを出してレカンの前に置き、アリオスに聞いた。

「あんたは何か飲むかい」

「今夜はいぶし酒を飲みます」

「そうかい」

追加のカップを渡すと、レカンがアリオスのカップにとくとくと酒をついだ。

「乾杯!」

「乾杯」

二人はカップを打ち合わせて、ぐいと酒を飲んだ。

アリオスはひどく顔をしかめている。きついいぶし酒が喉を焼いたのだ。だが、しかめた顔はすぐ笑顔に変わった。

「へえ? 何かいいことでもあったか?」

「剣が出たんですけどね、なかなかいい剣らしいんです」

「恩寵品か?」

「そうです。レカン殿。何という名でしたかね」

「うん? 〈 吸命剣(ヴードシラー) 〉だったかな」

上機嫌だったナークは不機嫌そのものに急変した。

(〈吸命剣〉だと?)

(はったりにもほどがある)

〈吸命剣〉は、体力吸収の恩寵がついた剣だ。相手が魔獣であれ人間であれ、肉体を傷つければ、相手から体力を奪い使い手の体力を補う。どこの騎士団も大金を出してほしがる恩寵品だ。吸収率には剣によって差があり、高い吸収率の剣には目をむくような値段がつく。

そして〈吸命剣〉は五十階層以下でなければ出ない。つまりこの二人は嘘をついているのだ。

不機嫌な顔をしているナークの目の前で、レカンは隣の椅子にかけたコートを手に取り、剣を取りだしてテーブルの上に置いた。

「〈鑑定〉」

「えっ?」

「ふむ。やはり〈吸命剣〉だな。いい恩寵だ。高く売れそうな気がする。アリオス、お前、使ってみるか?」

「あ、いいです」

「体力吸収の恩寵というのを試してみたくはないか?」

「そういう恩寵がついた剣は父も持っていて、私も使ったことがあります」

「そうか。オレには必要のない恩寵だが、明日は試しに使ってみるか」

「いやいや。明日こそ休養にしましょうよ」

「アリオス。ここまではどういうこともなかったが、敵は下に行くごとに手ごわくなっている。あと二十階層も下りたら、今のようなペースでは進めんだろう。進めるうちに進んでおく」

「だからどうしてそんなに急ぐ必要があるんですか?」

二人のやり取りを上の空で聞きながら、ナークは愕然としてテーブルの上に置かれた剣をみていた。

(これは)

(間違いない)

(〈吸命剣〉だ)

(なんてことだ)

昔、ナークの父が誇らしげにこの剣をみせてくれた。母が病気をしたとき売り払ってしまったが、剣の形は目に焼き付いている。これは正しく〈吸命剣〉だ。

とすると、この二人は、探索四日目にして五十階層に到達したのだろうか。

そんなばかなことがあるわけはない。

もしやこの剣は形のよく似た偽物で、自分はだまされているのではないか。

そんなことも思ってみるが、わざわざ手間暇をかけて自分などをだます理由も思いつかない。

この二人は、もしかするととてつもない大冒険者なのか。

それとも詐欺師なのか。これは手の込んだ詐欺の一端なのか。自分を何かの証人にでも仕立て上げようとしているのか。

よその迷宮で鍛えた腕利きなら、五十階層でも通用するかもしれない。だが、四日で五十階層に到達するのは無理だ。この迷宮の各階層の広さは尋常ではないのだ。戦闘なしでただ歩くだけでも四日で五十階層にたどり着くのはむずかしい。

(待てよ)

(〈鑑定〉だと?)

確かに先ほど、レカンは〈鑑定〉を使った。〈鑑定〉を使える冒険者などがいるものだろうか。しかも準備詠唱を聞いた覚えがない。気が動転して聞き逃したのかもしれないが。

「ほら、ご飯だよ。この剣、どこかにしまってくれないかねえ」

「ああ、すまん」

レカンが剣をコートにしまった。

(あれ?)

(確かに今剣をしまったはずなのに)

(コートがぺしゃんこだ)

(これはいったいどういうことなんだ?)

〈箱〉を付与した袋に剣を入れれば、そうとわかる形にふくらむものだ。剣を入れた〈箱〉がぺしゃんこのままであるわけがない。

(わからん)

(この二人は謎だらけだ)

だがとにかく二人はこの宿の客であり、金払いはいい。

(よし)

(この二人が迷宮探索について何を言おうが無視だ)

(何を言おうが気にしない)

(この二人は宿の上客)

(それだけを考えればいい)

ナークは心のなかで、そう決めた。決めたけれども守れないのではないかと、心のどこかでささやく声がした。