軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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1

目を覚ましたレカンは、たらいに残しておいた水を布にしみこませ、体を拭いた。よごれがたまると、隣のたらいに絞る。それを四度繰り返し、最後に残った水で顔を洗った。

机などというしゃれたものはないので、寝床に腰掛けて腹ごしらえをした。昨日帰りがけに買った食べ物を〈収納〉に突っ込んであったのである。

こざっぱりした服を着て、宿を出た。

右手に持っている荷物袋がわずらわしいので、物陰で〈収納〉にしまい込む。剣も〈収納〉にしまい込む。これで荷物はなくなった。

こんな無防備な格好で町中を歩くのは、あまり気分のよいものではない。ましてこれから行く場所には、魔力の化け物のような女がいる。女ではない。女のような姿をした何かだ。

このように無防備な姿でその何かに近寄るのは、不安でしかたがない。

これが森か迷宮で強大な敵に出会ったというなら、何の問題もないのだ。戦えばよいだけのことである。こちらが強ければ敵が死ぬし、敵が強ければこちらが死ぬ。いずれにせよきちんと決着がつく。

ところが、このような町中で、圧倒的に強大な相手の前で、攻撃も防御もせずただじっとしているとなると、どうにも居心地が悪い。

とはいえ、その化け物のような何かから、とにもかくにも魔法薬の作り方を教わらねばならない。

2

「やあ、来たね。じゃ、旅に出るよ」

「なに?」

「あんた、魔法薬の作り方を教わりたいんだろう?」

「そうだ」

「だったらまず原料となる薬草の採取から教えないといけない。幸いこの町の四方には、いろんな薬草が生えていてね。まあ、だからあたしが住み着いたんだけれど」

「なるほど」

「だから旅をできる格好に着替えな」

「今か?」

「今だよ」

〈収納〉のことは知られたくない。

だから荷物を取りに宿に帰るふりをしようかと、一瞬考えた。

だが、やめた。

すべての能力をシーラに隠しきることはできない。

ならば、どうしても隠したい能力を優先的に秘匿し、ごまかしにくい能力や、知られてもかまわない能力は、隠そうとしないほうがよい。

「ここで着替えればいいのか」

「ああ、あたしは、玄関の外にいるからね。着替えたら出ておいで」

レカンは、着慣れた黒い服に身を包み、貴王熊の外套を羽織った。

そこで少し考えた。

(シーラは)(旅をできる格好と言ったが)(それはたぶん)(人からみて旅ができるような格好)(という意味だ)

荷物袋を出して適当な荷物を放り込み、剣と鞘を取り出して腰に吊った。

「着替えてきた」

「じゃあ、行くよ」

「ドアに鍵をかけていない」

「鍵をかけちまったら、ジェリコが食べ物を買いにいくのに不便じゃないか」

「猿が……猿の魔獣が、自分で、食べ物を買いに行く、のか」

「お気に入りの店があるのさ」

「鍵が開いたままだと薬を盗まれはしないか?」

「そもそも鍵はないよ。棚の壷のことなら、ちょっとした仕掛けがあってね。持ち出すことはできないよ」

「庭に植えてある薬草はどうなる。あんな柵は、壊そうと思えば簡単に壊すことができる」

「うちの庭に植えてるのは、扱いの難しい薬草ばかりでね。ほかじゃ売れないよ。それに、毒草のほうが多いから、庭に入ろうもんならえらい目に遭う。 盗人(ぬすっと) どもも近所の悪ガキどもも、そこらへんは思い知ってるさ。あとついでにいえば、薬草の水やりはジェリコがやってくれるよ」

「猿が薬草の面倒をみるのか」

それから二人は東門のほうに歩いていった。

それはいいのだが、シーラはどうみても普段着である。

が、もうレカンは質問しないことにした。

「じゃあ、あんた。門を出るときには、薬草採取で二旬ほど出ると説明しとくんだ。それで、門を出てまっすぐ行くと、五千歩ほど行った所で、左に河原がある。その河原のほとりで待っといてくれるかい」

「わかった」

その通りにした。

しばらく河原で待っていたが、暇だったので武具を取りだして手入れをしていた。

そのうち女の冒険者が河原に降りてきた。

若くて美しい女だ。

少し露出の高い動きやすそうな服を着て、ショートソードを腰に吊っている。

女はレカンを無視して川辺に近づくと、水を手ですくって顔を洗った。

レカンは武具の手入れを終え、立ち上がり、顔を拭いた女に後ろから声をかけた。

「遅かったな。それで、どっちに行くんだ」

女は驚いた顔で振り返った。

「ちょっと待って。あんた、あたしがわかるのかい?」

「さっき別れたばかりだ。耄碌したのか、シーラ」

「いや、全然さっきまでと外見がちがってるはずなんだけどね」

「最初に会ったときから、オレにはその姿でみえていたぞ」

「あんた、魔眼持ちだったのかい?」

「まがん?」

「いや、その話はあとでいいさね。こっちだ」

シーラは走りだした。最初は普通の速度だったが、森に入って人からみられる心配がなくなると段々加速してゆき、最後には恐ろしい速度となった。レカンは、最初は余裕でついていった。だが休憩もなく走り続けたため、疲労が蓄積して、まともに走れなくなった。昼過ぎに一度休憩を取ってくれたが、レカンの疲労は回復しない。容赦なく走るシーラに必死でくらいついた。そして体力の限界に達しようとしたころ、ようやくシーラは停止したのである。