軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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この日、〈障壁〉の発動はしなかった。まったくこつがつかめない。

疲れて家に帰ると、エダが先に帰っていた。

そこに来客があった。

「あ、アイラさん。こんにちは。もうこんばんはかな」

「こんばんは、エダさん。レカンさんも」

「ああ」

「今、お茶淹れるね」

「あ、いえ。すぐ協会に帰らないといけないんで」

「えっ。まだ仕事するの?」

「てんてこ舞いなんです。それで、レカンさんに助けてもらいたいと思って」

「当分、協会の仕事は受けるつもりがない」

「今、この町には、ひっきりなしにいろんな人や物が入ったり出たりして、大変な騒ぎなんです」

「それは知っている」

「街道の工事にも人をたくさん出しています。守護隊のかたたちは総出で働いていますけど、まったく手が足りなくて、冒険者協会にも協力要請が来てるんです」

「そうらしいな」

「知ってらしたんですか? おもな仕事は町の治安維持と各方面での護衛です。でももめごとは増える一方で」

職人というものは気が強い。仕事中は興奮しているから、なおのこと気が荒い。荷運びの作業員も同様である。限られた場所を大量の荷馬車や職人がひっきりなしに通行するのだから、当然もめごとも多い。大けんかになってしまうこともある。

それを放置していたのでは町の安全が守れないし、職人や作業員が怪我をすれば工事が遅れる。

そしてまた、職人というのは酒好きである。ある程度の地位にいる職人には多少の前渡し金が渡されている。当然夜は下っ端職人を連れて酒を飲む。

気の荒い人間が、力仕事を済ませた夜に酒を飲めば、はめをはずして騒ぐのは目にみえている。ここでもけんかが起こり、物を壊したり、人に怪我をさせたりする。

ヴォーカの町の守護隊には三人の隊長がおり、それぞれ二十人の兵士を抱えている。

テスラ隊長の隊は領主家の警備を、リットン隊長の隊は町内の治安を、ゴバーズ隊長の隊は東西の門の警備を担当している。南北の門など、基本的にパーツ村とルモイ村の農民が出入りするだけということもあって、武器も持たない門番がいるだけなのだ。

もちろん、これだけの人数では、普段のもめごとをさばくことさえできない。そこは、各地区ごとに住民のおもだったものを役人に任じて一定の裁量権を与え、手に負えない案件に守護隊が出動しているのだ。

ところが今町で起きているもめごとのほとんどは、外から来た者のしわざであり、各地区の役人の裁量権が及ばない。

また、街道の工事にあたる職人や作業員は、工程の都合上野営しなくてはならない場合がある。そうなると護衛を出さないわけにはいかない。

テスラ隊は、領主家の警護など放りだして、町の外で奮闘している。

リットン隊はどうしようもない人手不足を、ゴバーズ隊から半数を駆り出して補っているが、まったく足りない。ゴバーズ隊は、不足した人員を、戦闘経験のない若者で補っている。

そんな状況であるから、ヴォーカの町の冒険者たちは、もう引退した者まで駆り出され、昼夜なく走り回っている状態なのである。

「あの。あたいに手伝えることがあったら」

「手伝ってほしいんです。ほんとにエダさんに手伝ってほしいんです。でも」

実際にエダが手伝いに行ったことがある。

ところが、もめごとの仲裁をしようとしても、こんな若い女では、まったくにらみが利かない。実力行使をすれば大の男たちも黙るほかないのだが、いちいちたたきのめすわけにはいかない。

護衛としても、こと戦闘に関してはもはや一流といってよい実力を持っているのだが、あいにくそうはみえない。こんな女の子を護衛にするのかと、職人たちが怒りだしてしまった。

今必要とされているのは、こわもての冒険者なのだ。

「というわけで、こわもてのレカンさん。助けてください」

「どういうわけかよくわからんが、断る」

半分本気で泣きながら、アイラは協会に帰っていった。

「レカン。ちょっとかわいそうじゃなかった?」

「今の状態で一人や二人冒険者が増えたところで、焼け石に水だ」

「レカン一人で十人分の働きができるんじゃないかなあ」

夕食を食べているとき、レカンに領主からの使いが来た。

明日朝来てほしいと、領主が言っているという。

了承したと伝えた。

あんな別れ方をしたあとなので、レカンのほうからすれば、少し顔が出しにくい。領主のほうから声をかけてくれたのなら、素直に会いにいこうと思った。

それにしても、何の用事だろうか。

緊急事態が起きたのなら、夕刻であってもすぐ来いと言いそうなものだ。

緊急事態でないのなら、あんなことがあったすぐあとなのだから、レカンに声はかけにくいはずだ。

考えたが、わからなかった。

人の思惑についてあれこれ考えるということは、レカンの得意分野ではないのだ。

その夜、エダに〈浄化〉をかけてもらっても、胸のもやもやした思いは消えなかった。強い酒をあおって寝た。