軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ヴォーカの町に帰ったのは夕方のことだ。

ちょうどエダも帰宅してきて、夕食の準備を始めた。

エダは今日、ノーマについて、四軒の往診に行ったという。

いや、正確には十二軒の往診に同行して、そのうち四軒で〈回復〉を使ったのだ。

ノーマの指示は、患者のどこがどう悪くて、どこをどう治すのかが具体的なので、とても勉強になるという。

「でも、あたい、施療師になるのは無理だと思った」

「ほう? なぜだ?」

「うーんとね。いろんな怪我や病気がちゃんと診察できないってこともあるんだけど、あたいには、あんなふうに、お金を払う気がある人とない人をみわけること、できないもん」

今日往診した家は、いずれも、庶民であるか、さらに貧しい階層の人たちだった。

今ノーマのもとに〈回復〉持ちがいるという噂は相当に行き渡っていて、多くの家で、〈回復〉をかけてほしいと頼まれた。あるいは相談された。

どの家でも、金貨一枚という料金を、一度には払えない、毎月銀貨一枚払いますとか、あとで必ず払いますとか言ってくる人々にノーマは対処した。

その結果、〈回復〉を引き受けたのが四軒だったのだ。

「それでね。あとで、さっきの家では引き受けたのに、どうして今の家では断ったんですか、と聞くとね。今の奥さんにはお金を払う気がなかったからだよ、っていうんだ。でも、どっちの家でもお金は必ず払いますって言ってたんだよ。なのにどうして、この家では本気で払う気だけど、この家はそうじゃないってわかるんだろう」

それがわからないと、施療師としてはやっていけないようだから、エダはとても自分には施療師は務まらないと考えたのだ。

どうしてノーマにはわかるのだろう。

レカンは考えてみた。

ノーマは、人の悪意にさらされ続けた人だ。

侯爵家は、ノーマやその父母を憎んだわけではないし、ことさら不幸にしようとしたわけでもない。ただ、ノーマの母の才能を切実に欲したがゆえに、結果として、ノーマと父を母から分断してしまった。

ノーマの父の妻の座を狙って平白蛇を送りつけたという貴族の場合、まったく一方的にあちらの都合によって、ノーマの母を害そうとした。そして侯爵家から受けた報復を逆恨みして、弱者であるノーマと父を蹂躙しようとした。

こうした、結果としての悪意や、悪意そのものの悪意に、ノーマはさらされ続けた。さらされ続けながら、ノーマは施療師であることを選んだ。

ほかに生きてゆく道を思いつかなかったということもあるかもしれないが、やはりノーマは、父と母の生き方を受け継ぎたかったのだろうと思う。そうは生きられなかったけれども、本当はこのようにありたかったと父と母が望んだであろう道を、歩みたかったのだろうと思う。

それは施療をもって人を救うという道であり、施療の研究をすることで人々の幸福に寄与しようとする道だ。

しかし、患者は生きた人間だ。

ノーマの施療を受けながらも、あの手この手で支払いを遅らせ、まぬがれようとする者もいるだろう。相手も生きてゆくための戦いを戦っているのだから、そういうことは起きてくるのだ。

そういう、人のみにくさと向き合いながらも、ノーマは人のなかで人を愛しながら生きてゆく道を選んだ。そんなノーマだからこそ、だまそうとしてくる人間と、そうでない人間の区別がつくのだろう。

(待てよ)

(もしかしたら)

もしかしたらノーマは、ジンガーがなぜ自分のそばにいるのかを、よくわかっているのかもしれない。レカンは、その秘密をノーマには教えないつもりでいたが、とうの昔に気づいているのかもしれない。

気づきながら、ジンガーが自分に向ける冷たいまなざしには気づかないふりをして、ジンガーの温かい部分、やさしい部分に目を向けてきた。だからジンガーも、ノーマを大切にしたいと思うようになっていったのではないか。

ノーマは、レカンとはまったく逆の人間だ。レカンは人の悪意から自由であるために、迷宮で生きる道を選んだ。ノーマは、戦闘力は皆無だが、人との交わりのなかで勝利をつかみとる力を持っている。

ノーマこそ、本当に強い 女(ひと) なのだ。

そのそばにいて、エダも何かを学びつつある。

以前のエダなら、〈回復〉には元手もかかっていないのだからと、魔力の続くかぎり誰にでも〈回復〉をかけ続けようとしただろう。シーラやレカンがとめなければ、きっとそういうことになっていた。だがそれは、感謝もされるかもしれないが、悪意を育て、悪意を引き寄せる道でもある。

今エダが学びつつある、生きていく上での臆病さや、人との距離の取り方は、レカンには教えることができないものだ。

ノーマという人と知り合えたことは、幸運だったといわねばならない。

10

「というわけで、これがわび状だ。これが戦利品の盾と杖だ」

ヴォーカ領主クリムス・ウルバンは絶句している。

「何をどうすれば、こういうことになるのだ」

「それは今説明した」

「その説明が理解できん」

クリムスは、頭を押さえて身をかがめている。

「頭痛がするなら〈回復〉をかけてやろうか」

「〈回復〉も使えるのか! あ、いたた」

本当に頭が痛そうだったので、レカンは〈回復〉をかけてやった。

「〈回復〉」

「あ、治った。本当に〈回復〉が使えるのだな」

クリムスは、わび状を読んだ。

「本当にわび状だ。しかも、王国法にふれたと誤解されてもしかたのないふるまいをした、とまで書いてある。レカン。このわび状の価値を、お前はわかってるか」

「知らん」

「お前はそういうやつなんだな。これがあれば、ゴルブル伯爵に、相当な無理も聞かせることができる」

「ほう」

「ただし、そんな使い方はせん」

「ふむ?」

「このわび状がこちらの手元にある。それだけで充分だ。これから少しずつ、無理のない範囲でゴルブルとの物や人の行き来を増やしてゆく。それでいい」

「あんたがそれでいいならいい」

「この二つの恩寵品は、本当にワシがもらっていいのか?」

「オレには必要ない物だ」

「感謝する。これは今回ゴルブルに足を運んでくれたことへの礼金だ。二つの恩寵品を献上したことに対する報奨金は、また後日渡す」

「この礼金はもらっておこう。報奨金はいらん」

「そう言うな。ワシにも体面があるのだ。それにしても君は、強力すぎる切り札だな。とてつもない突破力を持っているが、使い所がむずかしい」

「オレという武力を使うのは政治的敗北だ、と前に言ってなかったか?」

「今回は武力として派遣したわけではないのだがな。しかし、今回のことで思い知った。剣はどこに出しても剣でしかないのだな」

「まあ、そういうことだ」

「胸を張って言わんでくれ。あ、いたた。また頭痛がしてきた」