軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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後ろ側上部にいた魔法使いのしわざだ。

その魔法使いが杖を構えたことは〈立体知覚〉で感知していた。そのうえで、わざと攻撃を受けてみせたのである。

準備詠唱も発動呪文も聞こえなかった。なのに魔法は発動した。

たぶんこれは、〈呪文圧縮〉と呼ばれる技術だ。特殊な加工をした杖に、攻撃魔法と発動呪文を封じておき、魔力を込めるだけで発動する。ただし、その威力は本来の魔法の数分の一しかなく、その杖は常に暴発の危険をはらんでいる。暗殺などに用いられる技術である。そういうものがあることは、シーラから教えられてはいたが、レカンにはあまり興味のない技術だった。

魔法攻撃は、〈インテュアドロの首飾り〉によって防がれ、まばゆく光った。

騒ぎが起きた。

神聖な決闘をけがしたのだから、犯人は拘束され、罰せられるだろう。

「放せ! 放せ!」

女の声だ。この女魔法使いが、バルゴスとパーティーを組んでいたのかもしれない。

ふと、エダのことを思った。

レカンが決闘で殺されるのを目の前でみたら、エダも泣き叫んで悲しむかもしれない。

なりふり構わず相手に矢を射ち込むかもしれない。

そう思えば、女魔法使いに対する憎しみは湧いてこなかった。

しかし、この状況は使える。

前方上方をみあげた。

領主は、意外な成り行きにあぜんとしている。

今が押し時だ。

「〈 浮遊(カッサル) 〉」

レカンの体がふわふわと浮き上がる。

「〈 移動(トリムル) 〉」

レカンの体はすうっと浮き上がり、回廊に着地した。

軽いものなら〈移動〉の魔法で自由に動かせるが、人間の体のように重いものは、〈浮遊〉をかけてからでなくては動かせないのだ。

レカンが着地したのは、領主のすぐ前である。

横からトマジ・ドーガが、あわてたように口を出した。

「れ、レカン殿。今の魔法攻撃は、断じて領主様のご指示では」

「わび状を書いてもらえるな」

レカンが低い声で問いを発すると、トマジは黙り込んだ。

レカンはもう一度問いを発した。

「わび状を書いてもらえるな」

「し、承知した」

領主はひどく甲高い声で返事し、うなずいた。うなずくほかなかったろう。

名誉ある決闘の勝者が敗者に黙祷をささげている最中に後ろから狙撃したのだ。言い訳のしようもない。

領主の命令ではなかったということが事実であっても、弁明にはならない。それは領主の責任下で起きた事件なのだ。

「トマジ」

「お、おう」

「バルゴスの使っていた盾と杖をもらう。あとで持ってこさせてくれ」

「あ、ああ」

「ではオレは、わび状ができるのを待たせてもらおう。どこで待てばいい?」

「おう。こちらに」

トマジがレカンを案内していると、ヘンジットがやって来た。

「レカン殿! お願いがある」

前に回り込んだヘンジットは、深く頭を下げた。

レカンの声は冷たかった。

「聞くだけは聞いておこう」

「貴殿がお持ちの〈ハルトの短剣〉を、しばしのあいだでよい、初代伯爵の霊前に供えたいのだ。頼む!」

レカンは怒りがこみ上げてくるのを感じた。

またも〈ハルトの短剣〉をだまし取ろうと画策を続けるのか、と思ったのである。

だが、その怒りを飲み込んで、一歩引いて考えてみた。

ヘンジットは真実祖父である初代伯爵の霊前に、この短剣を献じたいだけなのかもしれない。あなたが手に入れた迷宮からこんな宝物が出ましたと、報告したいだけなのかもしれない。そうであるとしたら、少しの時間付き合ってやったからといって、レカンに損はない。

「その場にはオレも立ち会う。〈ハルトの短剣〉を、たとえ一瞬たりともオレの目の届かないところに動かすことは許さん」

「それは当然のことと思う。こちらに来ていただきたい」

レカンはヘンジットについて進んだ。トマジも同行している。

立派な建物のなかに、初代伯爵の廟があった。

中央手前の小さな祭壇に進み出たヘンジットに、レカンは〈ハルトの短剣〉を渡した。

ヘンジットは〈ハルトの短剣〉を両手でささげ持って祭壇に安置し、その前にひざまずいて祈りをささげた。

トマジも同じようにした。

レカンはそれを後ろでみまもった。

やがて祈りを終えたヘンジットは、短剣を祭壇から下げ、レカンに返した。

「貴殿のご寛恕に深謝する」

「ああ」

そのあとトマジに案内されたのは、伯爵と会談を行った部屋だ。

ほどなく侍従が盆に載せてわび状を持ってきた。

飾り紐で巻いて、封蠟をほどこしてある。

〈収納〉にしまいこんだ。

盾と杖も運ばれてきた。

「〈鑑定〉」

突然、〈鑑定〉を発動したレカンに、トマジとヘンジットは仰天していた。準備詠唱がなかったためかもしれない。

盾は、呪文を唱えれば一定範囲に物理障壁を生み出す機能を持っていた。呪文を唱えれば、障壁を消すこともできる。だがレカンは、あることが気になった。

「この盾で障壁を張ったあと、障壁を消すのは、障壁を張った者でなくていいのか」

「あ、ああ。誰が呪文を唱えても、障壁を消すことができる」

では、この盾はとんでもない欠陥品だ。対人戦では使えたものではない。

「この盾は物理攻撃を遮断するとあるが、まさか、盾を持った人間の攻撃も相手には届かないのか?」

「ああ。この盾は前からの物理攻撃も、後ろからの物理攻撃も防ぐ。完全な防御力を持っているのだ」

何が完全だ、とレカンは心で毒づいた。それでは、この盾を使っていると、相手に剣で攻撃することができないということになる。レカンはこの盾に対する興味をまったく失ってしまった。

杖のほうは優れた性能を持っていた。

魔力を充填しておけば、三発、雷撃系の魔法を放つことができる。

ただし、レカンは、似たような性能の杖をすでに持っているし、自身が攻撃魔法の使い手になっている。この杖は、レカン自身を強化することはできない。

それに、バルゴスの使っていた品を使うことに、レカンは抵抗があった。

バルゴスという冒険者が、あわれだった。

だからレカンは、盾と杖を戦利品として持ち帰るが、自分のもとには置かないことにした。

(ヴォーカ領主への土産にするか)

「では、帰る」

「レカン殿。またこの迷宮に来てくれ」

「ああ」

ああ、と答えたものの、レカンは二度とゴルブル迷宮にもゴルブルの町にも来るつもりはなかった。