軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

092 シャルロット・フォン・フィナーレ

「実は私も、レスト様に一つ嘘をついていました」

自分の話にも付き合ってほしいという提案の後、シャロから切り出されたのはそんな言葉だった。

唐突な内容に首を傾げる俺の前で、彼女は続ける。

「以前、レスト様にこうお伝えしたのを覚えていますか? 今まで私にとっての目標はエルナ様だけだったと」

「……ああ」

アルビオン家のバルコニーでの会話を思い出しながら頷くと、シャロはまるで自分の不甲斐ない過去を思い出すように、少しだけ苦い笑みを浮かべた。

「ですが、本当は違うんです。もう一人だけ、私が目標にしていた相手がいます。セレスティア・フォン・フィナーレ――王家の長い歴史を振り返っても類を見ないほど、圧倒的な才能を持つティアお姉様に幼い頃の私は憧れました。きっと、それはリヒトお兄様も同じだったことでしょう。けれど……私たちがただ純粋に憧れ続けるには、お姉様の輝きは強すぎました」

そのままシャロは、今の彼女に至る経緯を語り始めた。

最初こそセレスティアに憧れて邁進する彼女だったが、年月が経つほどに才能の差を思い知ることとなった。

何もシャロに才能がなかったわけではない。それどころか、過去の王族や同世代の者たちと比べても一線を画すものを持っていた。

ただ、そんなシャロでさえも追いつけないほど、セレスティアの持つ才能が圧倒的だったというだけだ。

このままではどう足掻いても、セレスティアに届くことはない。

その思いはセレスティアが【 天衣(てんい) の 神子(みこ) 】を授かり躍進する様子を見ることで、より一層強くなった。

とはいえ、ただそれだけで諦める 彼女(シャロ) ではなかった。

「お姉様に【 天衣(てんい) の 神子(みこ) 】が授けられた以上、私がどんなスキルを授かることになろうと魔法ではお姉様に敵わない……そう理解したからこそ私は剣に可能性を求め、エルナ様に師事することとなりました。お兄様に頼ることも考えたのですが、アカデミーに入学したばかりのタイミングだったことに加え、当時はお兄様自身も何か迷いがあったようでしたので……」

ただ、エルナはエルナでセレスティアと並ぶ……いや、それ以上の規格外だった。

それでも努力する日々の中、シャルロットに与えられたのは【 神聖剣姫(しんせいけんき) 】――神聖魔法と剣の技量に補正がかかる最上級スキル。

非常に優秀なスキルだが、セレスティアの【天衣の神子】やお伽噺の勇者が使う【剣神】のように、何か一つを極めるためのものではない。

それがシャロにとってはまるで、お前はセレスティアにもエルナにもなれないと言われたように感じたらしい。

かつて憧れたセレスティアと、今の目標であるエルナ。

どちらの背中もはるか遠く、このままだと届かないと痛感しながら、それでもシャロは“負けられない”と奮起し続け、

そして――――

「――――そんな時、 あ(・) る(・) 方(・) に出会ったんです」

その少年が持っていたのは、戦闘用ですらない外れスキル。

にもかかわらず、彼は自分が勝てなかった魔物を圧倒してみせた。

――その瞬間、 シ(・) ャ(・) ロ(・) の(・) 憧(・) れ(・) と(・) 目(・) 標(・) は(・) 書(・) き(・) 換(・) え(・) ら(・) れ(・) た(・) 。

彼よりスキルも境遇も恵まれているはずの自分が、この程度の場所で思い悩むなんておこがましい。

そんな暇があるのなら、彼に追いつくために全力を尽くそう。

――――そう決心したのだと、 彼女(シャロ) は語ってくれた。

「……………………」

ゲームでは語られるはずもなかった、シャロの本心。

それを聞いてしばらく、俺はどう返すべきか思いつかなかった。

そんな俺を見てどう思ったのか、シャロはゆっくりと言葉を紡げる。

「もちろん今日に至るまで、一度も迷いが生じなかったと言えば嘘になります。先日のリヒトお兄様との模擬戦で、レスト様が想像を遥かに上回る実力を発揮するお姿を見て焦りを感じたのは事実ですから……けれどそれは、得体のしれない成長速度の理由が分からなかったからです。特別な【テイム】によるものだったと知ることができた今、改めて分かりました……やはり、レスト様はすごいお方なのだと!」

シャロの真っ直ぐな言葉。

しかし、

「………違う」

俺は、それを素直に受け取ることができなかった。

シャロがここまで俺を信頼し、敬意を抱いてくれていることは心から嬉しいし、感謝もしている。

けれど……いや、だからこそ、目を逸らしてはならない問題が存在していた。

「俺に、そんなことを言ってもらえる資格はない」

「……どういうことでしょうか?」

「今、シャロが言った通りだ。俺の実力は【テイム】ありきで、どんな理由があろうとこれまでずっとシャロを騙していたのには変わらない。シャロが憧れた俺という存在は初めから偽物で、だから――――」

「いえ、それは違います、レスト様」

「……え?」

これまで騙し続けてきたことに対し謝罪の言葉を告げようとした次の瞬間、シャロの口から飛び出てきたのは想定外の言葉。

静かではあるものの、力強い意志が込められた声だった。

シャロは迷いのない、深い蒼色の双眸を俺に向けたまま言葉を紡ぐ。

「仰られるように、現在のレスト様の実力はスキルによるものかもしれません……ですが、違うんです。たった今、レスト様が教えてくれたんですよ。初めてテイムを使う前のあの瞬間だけは、間違いなくレスト様自身の力で戦っていたんだと」

まるで膨れ上がる感情に身を任せるように。

シャロは続けて言った。

「あの日、私が見たレスト様は偽物なんかじゃありません! スキルや【テイム】なんて関係ない……貴方自身の力で戦う姿に私は憧れたんです! だから……だから、私が憧れたレスト様を否定することは誰にも――レスト様にだって許しません!」

「――――――――――」

言い終えたシャロは、興奮によってか少しだけ頬を紅潮させ、はぁはぁと息を切らしながらも真っ直ぐと俺を見つめ続けていた。

そんな彼女の姿に、俺は思わず目を見開き、言葉を失う。

……だけど、それと同時に一つ、気付いたことがあった。

俺はきっとこれまで、シャロのことをゲームに登場したキャラクターの延長線上にいるのだと考えていた。

俺(レスト) にとっての歩く死亡フラグであり、それはこの世界でも変わらないのだと。

【テイム】について頑なに隠し続けてきたのも同じ理由だ。

だけど、それは違った。

俺がレストとして過ごす日々の中で、シャロとの関係はとっくにゲームとは変わっている。

心のどこかではそのことが分かっていたからこそ……俺はシャロの問いに対して誤魔化さず、本当のことを伝えたいと思ったんだ。

そのことを自覚できた今、俺は初めて、ちゃんとシャロを向かい合えているように感じた。

「聞いているんですか、レスト様!?」

無言のまま考え込む俺に対し、痺れを切らしたようにシャロがグイッと身を乗り出してくる。

そんな彼女に対し、俺はどんな言葉を返したものかと悩み――

「……ありがとう、シャロ」

――結局、出てきたのはそんなありきたりな感謝な言葉。

しかし、それに対し彼女は、

「――! はい、レスト様!」

不安や焦燥が全て吹き飛んだかのように、満面の笑みでそう頷いてくれた。

ふと、空を見上げる。

そこに浮かんでいたのは暗闇を明るく照らす満月。

俺の――レスト・アルビオンとしての人生が、本当の意味で始まる予感がした。