軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

059 2つのギミック

ガドへの報告を終え自室に戻るや否や、リーベが怪訝な表情を浮かべる。

「それで、さっきのはどういう意図があったのかしら? 今さらあの森に何か用事でもあるの?」

「いや、今のはただの口実だ。俺が長期間、この家から離れても疑いの目を向けられないためのな」

「……どういうことかしら?」

まだ完全には理解できない様子のリーベに向かい、俺は続けて説明する。

「お前も知っての通り、昨日の【錆びた古代遺跡】攻略で俺のテイム可能数が3から4に上昇した。そこで次にテイムしたい魔物がいるんだが、ソイツがいるであろう場所まで、どう頑張っても往復で一週間はかかるんだ。そんな事情を馬鹿正直に伝えるわけにはいかないだろ?」

「……なるほど、そういうことね」

ようやく得心がいったのか、リーベは小さく頷く。

「それでだな。俺が攻略に行っている間、お前には一つ頼みたいことがある」

「あら? これまでみたいに、攻略に付き合わされるわけではないのかしら?」

「ああ。詳しく話すと長くなるが、今回は俺一人で魔物と戦うつもりなんだ」

俺は『剣と魔法のシンフォニア』において、その魔物が出現するフィールドの特徴を思い出していた。

あのギミックがある以上、そもそもリーベの力を借りることはできない。

俺だけで魔物を倒す必要があるのだ。

当然、リーベがいなくなれば戦力自体は落ちてしまうが……

ここでふと、俺は懐から二つの小さなアイテムを取り出した。

一つは紫色の液体が入っている瓶で、もう一つは灰色の宝石。

【 禍毒蛇(かどくへび) の 雫(しずく) 】と【 石眼(せきがん) の 宝珠(ほうじゅ) 】だ。この二十日間で得たこれらは元々、今回の魔物と戦うために用意したアイテムであり、俺との相性も抜群にいい。

黒竜(ノワール) の時と同様、対処さえ間違えなければ十分にテイム可能なはずだ。

「とりあえずは把握したわ。それで、私に頼みたいことって何なのかしら?」

そう尋ねてくるリーベに対し、俺は自分の考えを告げる。

「さっきのガドの反応が関係している……って言えば、お前でももう分かるんじゃないか?」

「……もしかして」

何かを閃いたような表情を浮かべる彼女の前で、俺はゆっくりと頷いた。

「ガドは元々、俺を処分するためにお前を雇った。だけど、それからずっと大した進展がなく、フラストレーションは溜まり続けているはず。遷移魔力による洗脳があるとはいえ、そろそろ痺れを切らす頃合いだろう」

となると、どうなるか。

俺からパーティーに参加すると言われ怒りを覚えている中、続けて俺がしばらく深層で調査を行うと聞き、ガドはこう思ったはずだ。

"レストを処分するなら、このタイミングがラストチャンスだ"――と。

リーベいわく、ガドにはもともと繋がりのある暗殺集団があるという。

そろそろリーベを見限り、そちらに頼り始めてもおかしくないとは、以前から警戒していた。

そして先ほどの退室時の反応からしても、このタイミングで俺の命を狙ってくるのはまず間違いないだろう。

(こういう部分でだけ信用できるってのも、考え物だよな)

内心で呆れながらも、俺は話を進める。

「十中八九、ガドはこのタイミングで次の手――別の刺客を放ってくるはず。リーベにはそっちの対処を頼みたい」

「それは構わないけれど……方法は? ただ処分するだけでいいのかしら?」

「……いや。できれば殺さず、そして俺たちによる犯行だとも思わせないまま追い払うのがベストだ」

これは何も、ただの綺麗事で言っているわけではない。

暗殺のために向かわせたはずの刺客が帰ってこないとなれば、ガドの警戒度が膨れ上がり、また別の面倒事が転がり込んでくる可能性が高い。

となると今回はあくまで、別の要因で暗殺が失敗したと思わせるのが最善のはずだ。

それに、

(ゲームの内容も踏まえれば、アルビオン家の内情はなかなか複雑だからな。できればもうしばらくは、このままの状態を維持しておきたい)

そう考える俺の前では、リーベが面倒そうな表情を浮かべていた。

「無理難題を押し付けてくるわね。そんなこと、そう簡単にできるとは思えないのだけれど……」

「いや、お前ならできるはずだ」

「えっ?」

驚いたように目を見開くリーベに向かって、俺は続けて説明する。

「リーベも聞いてただろ? 俺がガドに報告したのは、『アルストの森』に異変を感じたという噓の内容。せっかくだし、それを利用してやればいい」

「……なるほど、そういうこと。私の魔力で操った魔物を、森の異変による影響だと勘違いさせたうえで追い払うということね」

俺は小さく首肯する。

城下町での襲撃事件や、オーガに俺たちを襲わせたことから分かるように、リーベにとって魔物の操作はお手の物。

Aランク級の魔物を倒せる刺客をガドが雇っているとも思えないし、問題なく作戦を成し遂げられるだろう。

「それじゃ決まりだな」

それから時間をかけて細部まで作戦を詰めたのち、俺とリーベはまず『アルストの森』に向かった。

すると予想通りというべきか、背後からは複数人の気配を感じたため、俺たちは打ち合わせ通りに作戦を決行。

深層に入るタイミングでわざと魔物との戦闘を行い、一時的に彼らを撒いたタイミングで、俺は事前にリーベが【遷移魔力】で用意した 俺(・) の(・) 人(・) 形(・) と入れ替わった。

刺客たちはそれに気付くことなく、リーベと俺の人形を追っていく。

俺はそれを木の影から見届けていた。

(刺客が気付けない程の精巧さ……相変わらず便利だな、【遷移魔力】)

もっとも、リーベの力量あっての結果だろう。

俺が作った人形なら、多分一瞬で気付かれていただろうし。

「あの人形だって、そう長時間は誤魔化しきれないだろうけど……そこはリーベに上手くやってもらうしかないか」

そうまとめた後、リーベたちが十分にここから離れたのを確認し、俺は森からの離脱に成功する。

そのまま東へ向かう馬車に乗り込みつつ、心の中で呟いた。

(さあ、出発だ)

目的地は難攻不落のエリア【 霧蝕(むしょく) の 古戦域(こせんいき) 】。

何を隠そう『剣と魔法のシンフォニア』において、シャロが迷子になったフィールドだ。

◇◆◇

三日後、俺は馬車を乗り継ぎ、目的地まであと少しのところまでやって来ていた。

場所はアルビオン領から東方にしばらく移動した位置に存在する都市ストラルダ。

そこで体を休めた翌日、その近くにある大森林を奥へと進んでいく。

「……ここだな」

ようやく目的地にたどり着き、俺は感慨深く頷く。

森を抜けた先では、ある一線を境に景色が大きく変わっていた。

濃厚な青みがかった霧が立ち込め、視界が著しく悪い。

常人がこの中に踏み入ってはならないと、そう警告されているかのようだった。

「間違いない。ここが【 霧蝕(むしょく) の 古戦域(こせんいき) 】だ」

外観からしてゲームで見た通り。

ここに俺が目的としている魔物がいるはずだ。

「よし、いくぞ」

気を引き締め、俺は霧の中に一歩を踏み出した。

その瞬間、後ろに広がっていたはずの森の景色が薄れていく。

まるで出入口が何者かに隠されたかのようだった。

「やっぱり、これもゲームと同じか」

このフィールドには幾つかのギミックが存在する。

一つは今見た通り、出入り口の消失だ。

このフィールドは結界で囲まれており、一度足を踏み入れれば、外界との境目を認識できなくなる。

そのため正確に道を覚えておく必要があり、ゲームでシャロが迷子になった要因の一つでもあった。

そしてもう一つ。ギミックとしてはこちらの方が厄介と言えるだろう。

このフィールドには、なんと一人しか入場することができないのだ。

こちらから森が見れなくなったのと同様、結界外からはフィールドの存在を見つけることすらできなくなる。

俺がリーベを連れて来ず、一人で魔物を倒すと言った理由だった。

「さて……」

俺は深呼吸をし、周囲を見渡した。

濃い霧の中、何が潜んでいるか分からない。

気を抜けば一瞬で自分がどこにいるか分からなくなってしまうだろう。

「じゃあ、攻略を始めるとするか」

そう言って、俺は霧の深みへと足を踏み入れるのだった。