軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第39話 王との対話

午後、私たちは王宮に向かった。

馬車の中で、私は窓の外を眺めていた。王都の街並みは七年前と変わらない。石畳の道、煉瓦造りの家々、広場の噴水。でも、どこか活気が失われているように感じる。

「街が静かね」

「国王の病が長引いているからだろう。民も不安を感じているのかもしれない」

アレクセイの言葉に、私は頷いた。王の病は、国全体に影を落としている。

王宮の正門をくぐると、侍従が出迎えた。

「皇帝陛下、皇后陛下、お待ちしておりました。国王陛下がお会いになります」

「ご容態は」

「本日は比較的お元気でいらっしゃいます。ただ、長時間のご面会は控えていただければ幸いです」

私たちは侍従に案内され、王宮の奥へと進んだ。七年前、断罪の舞台となった大広間の前を通り過ぎる。あの夜のことが、一瞬だけ脳裏をよぎった。

でも、もう過去のことだ。私は前を向いて歩き続けた。

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国王の私室は、王宮の最奥にあった。

重厚な扉が開かれると、薄暗い部屋の中に大きな寝台が見えた。その上に、一人の老人が横たわっている。

七年前は威厳に満ちた壮年の王だった。今は頬がこけ、髪は真っ白になり、肌は蝋のように青白い。病の深刻さが一目でわかった。

「陛下」

侍従が声をかけると、国王がゆっくりと目を開けた。

「おお……来てくれたか」

かすれた声だった。でも、その目には知性の光が残っている。

「ローゼンベルク伯爵の娘……いや、今は帝国皇后か。立派になったものだ」

「陛下、お久しぶりでございます」

私は深く頭を下げた。アレクセイも同様に礼をする。

「帝国皇帝か。初めてお目にかかるな。娘を……よろしく頼む」

「はい。大切にしております」

国王が微かに笑った。

「そうか。良い夫を見つけたようだな」

侍従が椅子を用意してくれた。私たちは寝台の傍らに座った。

「陛下、本日は謁見をお許しいただき、ありがとうございます」

「礼を言うのは私の方だ。遠路はるばる、よく来てくれた」

国王が咳き込んだ。侍従が水を差し出し、王はゆっくりと飲んだ。

「七年前のこと、覚えているか」

「はい。陛下の勅令で、私の名誉は回復されました。あの時のご恩、今日こそお礼を申し上げたかったのです」

「礼など要らぬ。私は、当然のことをしただけだ」

国王が私を見つめた。

「あの夜、私は愚かな息子の所業を見ていた。罪のない娘を断罪し、偽りの聖女の言葉に踊らされる姿を。王として、父として、恥ずかしい限りだった」

「陛下……」

「勅令を出したのは、せめてもの償いだ。息子が壊したものを、少しでも修復するために」

国王が深く息をついた。

「だが、それでも足りなかった。お前は祖国を追われ、異国で一からやり直さなければならなかった。すまなかった」

「いいえ、陛下」

私は首を振った。

「帝国での日々は、辛いことばかりではありませんでした。夫に出会い、娘を授かり、今はとても幸せに暮らしています。全ては、陛下があの夜、真実を認めてくださったおかげです」

「そう言ってもらえると、少しは救われる」

国王が微笑んだ。その笑顔には、どこか安堵の色があった。

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しばらく、私たちは静かに言葉を交わした。

帝国での生活のこと、研究所のこと、カタリーナのこと。国王は興味深そうに聞いていた。時折咳き込みながらも、話を聞く姿勢は崩さなかった。

「鉄の花の皇后、か。良い呼び名だ」

「大げさな呼び名ですわ」

「謙遜するな。お前は自分の力で、その名を勝ち取った。誇りに思っていい」

国王の言葉に、胸が温かくなった。

「ところで」

国王の表情が少し変わった。

「後継者のことで、相談したいことがある」

「私にですか」

「そうだ。お前の意見を聞きたい」

私は少し驚いた。王国の後継者問題に、帝国皇后が口を出すべきではない。そう思っていた。

「陛下、私は」

「わかっている。口を出す立場ではないとでも言いたいのだろう。だが、お前はこの国で生まれ育った。王国の事情も、貴族たちの力関係も知っている」

国王が私を真っ直ぐに見つめた。

「それに、お前は私の息子の元婚約者だ。本来なら、今頃は王妃になっていたかもしれない」

「それは……」

「だからこそ、聞きたい。お前から見て、この国はどうあるべきだと思う」

重い質問だった。私は少し考えてから、慎重に口を開いた。

「私には、具体的な人選をお勧めする資格はありません。でも、一つだけ申し上げられることがあります」

「言ってみろ」

「後継者は、民のことを第一に考えられる方であるべきです。自分の権力や名誉ではなく、国民の幸せを願える方。そういう方が、この国には必要だと思います」

国王は黙って聞いていた。

「七年前、私を断罪した王太子殿下は、民のことを考えていませんでした。自分の感情と、取り巻きの言葉だけを信じていました。結果、罪のない者を傷つけ、国の信頼を損ねました」

「厳しい言葉だな」

「事実を申し上げているだけです。同じ過ちを繰り返さないためには、民の声に耳を傾けられる方が必要です」

国王がゆっくりと頷いた。

「傍系の中に、そういう者がいるか」

「詳しくは存じません。でも、シュトラウス伯爵のような良識派の方々が推す人物なら、信頼できるのではないでしょうか」

「シュトラウスか。確かに、彼の目は確かだ」

国王が目を閉じた。疲れが見えている。私たちは立ち上がった。

「陛下、本日はありがとうございました。ご無理をおかけしました」

「いや、こちらこそ感謝する。良い話が聞けた」

国王が再び目を開けた。

「リーゼロッテ」

「はい」

「王国と帝国の架け橋になってくれ。お前にしかできないことがある」

その言葉の意味を、私はまだ完全には理解できなかった。でも、深く頭を下げた。

「微力ながら、務めさせていただきます」

「頼んだぞ」

国王が微笑んだ。それが、私が見た最後の笑顔になるとは、この時は知らなかった。

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王宮を出ると、日が傾き始めていた。

馬車の中で、私は黙って窓の外を見つめていた。国王の姿が、頭から離れない。あの衰えた体、でも最後まで失われなかった知性の光。

「どうした」

アレクセイが声をかけてきた。

「少し、考えていたの」

「国王の言葉か」

「ええ。架け橋になれ、と言われたわ」

「それについて、何か考えがあるのか」

私は少し考えてから答えた。

「まだ具体的には。でも、何かできることがあるなら、やりたいと思う」

「例えば」

「技術の交流とか。帝国で発展した魔道具の技術を、王国にも伝える。逆に、王国の知識を帝国に持ち帰る。そういうことなら、私にもできるかもしれない」

アレクセイが頷いた。

「良い考えだ。両国の関係改善にも繋がる」

「でも、今はまだ早いわ。まず、この旅を終えないと」

「そうだな。まだ、やることが残っている」

アレクセイが私の手を取った。

「ルドヴィクのことか」

「ええ。会う決心はついたわ。でも、いつ行くかは……」

「君が決めればいい。俺は、君の判断を尊重する」

「ありがとう」

馬車が父の屋敷に着いた。門の前で、カタリーナが待っていた。

「お母様、お帰りなさい」

「ただいま、カタリーナ」

娘を抱き上げると、疲れが少し和らいだ。

「おじい様が、夕食を待っていますよ」

「そう。行きましょう」

私たちは屋敷の中に入った。父とカタリーナと、温かな夕食を囲む。それは、何よりの癒しだった。

でも、心のどこかで、次にすべきことを考えていた。

修道院へ行くこと。ルドヴィクに会うこと。七年越しの再会を、どう迎えるべきか。

答えは、まだ出ていなかった。