軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

32.リスタート

食堂に向かうと、ちょうど双子達も部屋から出て来たところでした。

「おはよう、ブランシュ」

先に挨拶をしてくれたのはマイルズです。

「おはようございます、お二人も今から朝食ですか?」

でも、パスカルはまだ無言です。

「パスカル、どうした?礼儀作法を忘れたのか」

意外なことに、私への挨拶が無いことをマイルズが 窘(たしな) めています。もしかして本当に昨日のコンスタンス夫人との会話で何かが変わったのでしょうか。

それなら今がチャンスなのかも。

「あの、お二人にお願いしたいことがあります」

「何だ?」

言葉にするのに少し勇気がいります。

これが正しいのかどうかも分からない。でも、このままではいけない、それだけは分かるから。

「……私達、無理に兄妹として振る舞うのを止めませんか?」

だって、ずっと思っていたのです。

血が繋がっている。ただそれだけの関係は、出会っただけで情が湧くものなのでしょうか?

「……それは僕達を兄として認めないということ?」

「いいえ。そうではなくて、私達が兄妹というのは事実です。でも、実情は出会って間もない、 碌(ろく) に会話をしたことすらない顔見知り程度です」

「……まあそうだけど、でも、」

「まずは段階を踏みませんか?ちゃんと『知り合う』ことから始めましょう?

だって、私はお二人の好きな食べ物ひとつ知りません。

これでは兄妹ではなく、血の繋がっただけの他人だと思うのです」

私達はあの時、突然の顔合わせの後に私は魔力の使い過ぎで昏倒し、次に会ったのは両親の断罪の場。双子達も罰則が下ったりと問題が多過ぎて、気が付けば有耶無耶に兄妹として行動することになってしまった。

「 済(な) し崩しに努力する、というと面倒に感じるかもしれませんが、私達が兄妹であることは変えられません。

これからもずっと家族として暮らしていくのなら、お互いを理解し合う努力が必要だと思いませんか?」

私達が揉めるのは、無理矢理兄妹でいようとするから。

私は兄妹なんてと思っていたけれど、やっぱり心のどこかで期待していたのです。

だから、何かあるたびに私ではなくミュリエルだけを守る彼らに、気にしない、気にならないと言い続けても、本当は少しずつ傷付いていた。私だって妹なのに、と。

本当の兄ではなく、 仮初(かりそめ) の兄であるシルヴァン兄様に守られ、甘えることを覚えてからようやくそのことを自覚しました。

でも私だって、彼らを兄として慕えていないし、ミュリエルを妹だからと可愛がることもできない。そんな 狡(ずる) さにも気が付いてしまいました。

だから、そんな私のことを彼らももどかしかったのかもしれません。

妹なのに甘えて来ず、姉なのに妹を守らない。

でも、文句を言うほど気安くもなく、互いに不満だけが 募(つの) っていく悪循環。

「……僕は本当に駄目だな」

「え?」

「君にそんなことを言わせてごめん。本当なら年上の僕が言うべきことなのに」

「…年齢はべつに気にしなくても」

よかった、マイルズには伝わったみたい。

「………なんだよ今更。昨日、僕達から家督を奪うって息巻いてたくせにっ!」

「パスカル!だから、そう言わせたのは僕達のせいだって言っただろう!」

「なんでだよ!どうしてマイルズはミュリエルを泣かせるのさ!ブランシュだって姉なんだ!ミュリエルを守る立場じゃないか!」

「……僕達はブランシュを守らないのに?

出会ってから今までずっと、兄として守っていたのはエルフェ様だ!僕達は、……僕はこの子に何もしてあげていないっ。

それでもブランシュはこうして歩み寄ってくれたんだぞ?お前は自分が情けないと思わないのか。

僕は……こんな自分がすごくみっともなくて情けない。

僕には毅然とした態度で理路整然と意見を述べてやり込めてきたのに、エルフェ様の言葉にはポロポロと涙を零して本当の兄かのように縋っているブランシュを見て、自分は今まで何をやっていたのかと……本当に恥ずかしかったよ」

えっと、それは私も恥ずかしいわ。やっぱり泣いていたのを見られてしまったのね?

「でもさ!」

「兄弟あるあるなのですって」

「…ある?え、何それ」

しまったわ。ナタリーの表現そのままに口に出してしまいました。

「んんっ、ですから、新しく弟妹が誕生すると今まで一身に受けていた愛情が奪われたと感じるものらしいです。

私達が特別なんじゃない。よくある感情なのですって」

「よくある……だからあるある?」

「……それは忘れてください」

ナタリー。確かにあなたにも教育が必要みたいよ。

「ブランシュの気持ちは分かったよ。僕は君の考えに賛成だ。あと、僕のことは名前で呼んでくれ。君が本当に兄だと思えるようになったら、また兄様と呼んでほしい」

「分かったわ。マイルズと呼び捨てにしてもいいの?」

「うん、その方がいい」

「……僕も兄とは呼ばなくていい。でも、ミュリエルがどうするかは、あの子に決めさせるから」

「もちろんよ。では、改めて。マイルズ、パスカル。おはようございます。今日からよろしくお願いします」

「うん、よろしく」

「…………おはよう」

パスカルからは挨拶だけですが、それでも少し前進です。