軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28.コンスタンス夫人

「君達は頭を下げたら死ぬのか」

「………は?」

「いや、たまにそういう特殊な病を患っている貴族がいるのだよ。ああ、分かりやすいのは君達の母だな」

「!」

「先日の話し合いを思い出すといい。アレは一度でも謝罪をしたか?辺境に送られると分かった時にすら、なぜどうしてと騒ぎ立て、父親が悪いのだと人のせいにし、しまいには夫だって悪いのだと道連れにしようとしていた。

何とも情けなくみっともない姿だった。

お前達にただの一度も謝らず、惨めに引き摺られていったのを覚えているだろう。

………今の君達は、残念だが似ているな」

「そんな……酷いです、お祖父様!」

「そうだなあ。君達の本性が見たいからと子ども達だけにしたのだから、確かに酷いのかもしれんな」

うそ。仕組まれた諍いだったの?!

「私達がいたら君達はずっと緊張しているようだったからな。できれば自然な姿が見たかったんだ。

シルヴァン、もう出て来ていいぞ」

「え」

「………恨みますよ、公爵」

シルヴァン兄様?!

「まずは謝罪を。私は別ルートでこの街に来て待機していました。公爵家に着く前、長旅で少し気が緩んでくる最後の街が一番君達の気持ちが出やすいのではないかという、こちらのコンスタンス夫人の命令に従い、君達を欺きました。誠に申し訳ありませんでした」

シルヴァン兄様は悪くない。ただ私達兄妹が総じて最悪なだけ。でも、それでもあなたにはこんな姿を見られたくなかったのに。

「騙すような真似をしてごめんなさい?

私は公爵子息であるレイモンの妻、コンスタンスよ。

あなた達の母であるオレリー様のことはよ~く知っているの。

だからお義父様には申し訳ないけれど、快く引き受けるわけにはいかなかった。

子どもであるあなた達に言うのは酷だとは思うけど、彼女のせいで公爵家は結構大変でしたの」

目が笑っていない。この方も被害者なのね。

「まあでも、状況を作ったからといって、何も起こらなければそれでよかったのよ?

いらっしゃい、大変だったわねと温かく迎えるだけだった。ね、そうでしょう?

あ、安心して。途中からこのあたりはシルヴァンが防音と目くらましの魔法を掛けていたから」

そんなことをしてくださっていたのね。感謝すればいいのか恥入ればいいのか。

双子達は何も答えられない。ミュリエルは理解できていないのか呆然としている。

「……ご挨拶をさせていただいてもよろしいでしょうか」

コンスタンス夫人が軽く頷く。

「長女のブランシュ・ノディエと申します。

このたびは私達兄妹の醜態をお見せすることになり誠に申し訳ございません」

「はじめまして、ブランシュ。貴方は9歳なのよね?」

「はい、その通りです」

「あなたは年の割にとっても冷静で賢いわ。

でも、少し正直過ぎね。本当にそこの兄達を出し抜きたいのなら、こっそりと準備をしなくては駄目よ?」

「いえ。私は自分の実力で正々堂々と勝ち取ってみせる所存ですので、あえて宣戦布告をさせていただきました」

だって徹底的に追い詰めたいもの。エマを馬鹿にした貴方達を許しはしないわ。

「そのくせ彼が暴走しそうになったら攻撃の手を弛めるのね?」

「はい。街中ですので、他の方々に被害が出ることは望みませんから」

「うふふふふふっ、生意気で可愛いわね!

あなたは人慣れない子猫ちゃんみたいで気に入ったわ。

シルヴァン、残念ね。あなたにはあげませんよ」

どうしてそこで兄様の名前が?というか、私の所有権はあなたにもありませんけど。

「それからマイルズとパスカル。あなた達はちょっと想像力が足りないわね」

「……想像力、ですか?」

「簡単なことよ。自分がされて嫌なことを人にしてはなりません。そう教えてもらわなかった?

ああ、オレリー様が教えるわけないわね」

私はエマに教わったけどね。あなた達が馬鹿にしたエマはコンスタンス夫人と同じことを教えてくれましたよ!

「もしあなたが。一人きりで別館で暮らしていたら嬉しい?」

「……いえ」

「そんな自分を守り育ててくれた使用人が無能だと嘲られて楽しい?」

「ですが……それは彼女達の仕事で」

「そう?仕事なら何でも 熟(こな) せるというのね。

では教えてあげる。貴族というのはその職業と一緒よ。今のあなたは伯爵令息という役職に就いているの。

それで?あなたはその責務を満足に 熟(こな) せているのかしら」

……すごいことを言う方だわ。でも、この考え方は嫌いじゃない。

「マイルズ、あなたは後継者に一番近い立場でもある。それならその責任は他の子たちよりも重いわ。

それで?公爵家の私がここまで動いていて、挨拶や謝罪をしたのがブランシュ一人だけ。

ということは、あなたは仕事をサボっている無能だということです。さあ、その責任をどう取るの?」

「……そんなこと言われたって……だってそんなこと教えてもらっていません!」

半泣きね。様を見ろとしか思えない。

「だから想像力が足りないと言っているの。

他人に完璧さを求めるのなら、自分も他者から同じように求められるのだと自覚しなさい。

でも、この世の中に完璧な人間などいないわ。

だからこそ人は学ぶの。そして本気で頑張った人なら、必ず失敗したことがあるはずよ。

だから誰かのミスを駄目だと評価するのではなく、なぜそうなったのかを分からせ、次にはミスが起きないように導けるの。失敗の次に成功があることを知っているから。

だからね、ミスした人間を簡単にクビ切るだけなんて阿呆のすることよ。人材を育てる能力が皆無な無能という証明です。

そしてもっと愚かなのは、本当にミスがあったのか。その失敗は本当にその者が犯したのかを調べもせず、上っ面だけを見て、さらには人が言っていたことを鵜呑みにして判断することだわ。

それで?あなた達はその乳母がミスをしたところを見たことがあるの?」

この方は絶対にお母様と仲良くなかったでしょうね。

お祖父様はしっかり者だと仰っていたけど、ここまでの女傑だとは思いませんでした。