軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12.ぼくの可愛い妹(パスカル)

小さな手が僕の指を掴んだ。

あのときの感動を僕は忘れない。

3年ぶりに帰って来てくれた妹はとっても小さかった。

「ちっちゃいね」

「かわいいね」

僕達が魔力のコントロールが下手くそなせいで3年も待たせてしまった。本当にごめんね。

「3年も寝てたのかな」

「魔法の国で遊んでたかも?」

妹の名前はミュリエルです。

お母様と同じ金色の髪と、僕達よりも色鮮やかな緑の瞳の天使みたいな女の子。

「早く歩けるようにならないかな」

「ね、3年分ぐんっ!と大きくならないの?」

「……お体に負担がかかるからゆっくりとしか大きくなれないのよ」

「そっかあ。でもいいよ。今度は僕達が待つから。ね、マイルズ」

「うん!僕達ちゃ~んと待てるもん」

僕達はすっかりと魔力を暴走させることは無くなった。全部ミュリエルのおかげだね。

可愛い可愛い僕達の天使。大好きだよ。

でも、しばらくするとミュリエルが熱を出した。

お医者様が『魔力過多症』だと言いました。

「ミュリエル治る?」

「お薬を飲んだから大丈夫だよ」

本当に?だってお母様が泣いてるよ?

大丈夫、大丈夫。心の中で唱えながらミュリエルの頭を撫でてみた。

すると不思議なことに、苦しそうだったミュリエルがすうっと穏やかな顔になったのです。

「先生、いい子いい子してあげたら治ったよ!」

「これは……」

それからの話は難しくてよく分からなかったけど、僕はお兄ちゃんだからミュリエルの中に溜まった魔力を少しだけ取ってあげられるんだって。

「「絶対に僕達が守るね」」

僕とマイルズはそう誓ったんだ。

ミュリエルは何度も発作を起こした。

それは年を追うごとに症状が重くなっていった。

「にぃに…、いちゃい…」

「大丈夫、すぐに治るよ。いい子いい子。ミュリエルが早く元気になりますように」

マイルズとふたりでミュリエルを抱きしめ、頭や体を撫でてあげる。

赤ちゃんの頃は1回撫でてあげたら治ったのに、どんどん時間が延びていく。

「僕達のせいかな。魔法の国に長くいたから病気になっちゃったの?」

「…大丈夫だよ。僕達がついてるもの」

そうしていつも3人で寄り添っていた。

でもとうとう僕達ではどうしようもないくらい、症状が悪化してしまったんだ。

抱きしめたミュリエルの体が酷く熱い。

このまま燃え尽きてしまいそうで怖かった。

「……どうしよう、死んじゃうよ」

「そんなはずない!だって妹だもん、今度も助けられるよ!」

ボロボロと泣き崩れていたお母様が、小さく呟いた。

「…そう…妹だもの…助けてくれるわよ」

それからメイド長に別館から連れてくるようにと指示を出した。

だれ?別館は使用人しか住んでいないのではなかったの?

しばらくして、侍従のマルクに抱っこされた女の子がやってきた。

サラサラの銀の髪に晴れた日の空の様な瞳をしたとっても綺麗な女の子。

「ブランシュ、ミュリエルを助けて!」

お母様が心配のあまりおかしくなってしまった。

そんな小さな子に何ができると……

「ごきげんよう、お母様。それと、お父様に……そちらにいらっしゃるのはお兄様なのかしら」

丁寧にカーテシーで挨拶をして、でも、まったく意味の分からないことを言った。

お兄様?僕達が?

マイルズと顔を見合わせた。やっぱり驚いている。

だってこの子はミュリエルよりも大きいもの。

だから妹だなんて……大きい?そう、僕達とミュリエルの間くらい。じゃあ、8〜9歳くらい?

マイルズがヒュッと息を飲んだ音がした。

何かがガラガラと音を立てて崩れていく気がする。

久しぶりにお腹が熱くなった。暴走の前兆だ。

深呼吸をして魔力を整える。

どういうことだ。9歳くらいの妹?

それはもしかして 最(・) 初(・) の──

違う!そんなはずないよ、ミュリエルが僕達の妹だ。妹は一人だけだろう?!

気付けば少女がミュリエルに何かをしている。

「お、おい、お前!何をやっている?!」

お母様がこの女の子が治してくれるだの何だのと言っているけど有り得ない!だって!お母様はずっと嘘ばかりじゃないかっ!!

思わず少女の肩を掴むと「マルク。これ、邪魔よ」と物を退けるかのように指示をされた。

そんな扱いを受けるのも初めてで、もう、ワケが分からず涙が出そうになる。

やっぱり妹だなんて嘘だろう?本当に家族ならこんな、

「ミュリエル!」

……え?本当に治ったのか?!

母の声に慌ててミュリエルに駆け寄った。

「ミュリエル!どう?痛いところはない?!」

「目が覚めてよかった、何か欲しいものはあるか?」

よかった。本当によかった!

皆で喜んでいると、ちょうどそこにお医者様が来てくれたようだ。

「先生!ブランシュお嬢様を診て下さい!お願いします!!」

なんてことだ。すっかりとあの子を忘れてた!

ブランシュという女の子は真っ青な顔で抱きかかえられている。側にいるのは彼女の侍女……いや、お仕着せを着ているからメイドか。そのメイドは僕達のことを目に涙を滲ませながら 睨(ね) めつけてきた。

「……ブランシュお嬢様を利用するだけ利用して使い捨てるだなんて!」

「止めるんだ」

「だって!「お嬢様の側にいられなくなるぞ」

「……あ」

メイドはボロボロと泣きながら俯いた。

「申し訳ありません。彼女は幼い主の傷付いた姿に動揺してしまっただけなのです。どうぞお許しを」

何故かマルクが彼女の頭を下げさせながら自分も深く頭を下げた。

「……分かった。あの子に付いていてやってくれ」

お父様が少し疲れた顔で許しを伝えた。

彼らは治療の為に別室に向かった。僕達はそのまま誰も動けずにいた。

「お父様…。あの子は本当に僕達の妹なのですか」

とうとうマイルズが聞いてしまった。

僕は怖くて口に出せなかったのに。

「……そうだ。お前達が3歳の時に生まれた妹のブランシュだ」

ああ、聞きたくなかったっ!!

「じゃ…じゃあ、僕達は3年どころか……9年もあの子をひとりぼっちで待たせていたの……」

9年って何。どうして僕達はミュリエルが帰って来た妹だなんて思い込んでしまったんだろう?

「どうして?!なんでもっと早くに迎えに行かなかったのですか!どうして僕達は何も知らなかったんだ!」

マイルズの号哭が響き渡る。

きっと彼は気付いてる。もう二度と妹を取り戻せないのだと。

だって僕達はあまりにも長い時間、彼女を孤独に追いやった悪人なのだ。

「あの子はずっと一人で別館にいたの?」

「…そうだ」

「お父様は心が痛まなかった?」

「………すまなかった」

「僕達に言ってどうするんだよ……」

マイルズが憎々しげに呟く。本当にね。それを聞くのはあの子だ。僕達じゃない。

9年も存在すら知らずに離れて暮らしたあの子と僕達は家族と言えるのかな。

それから僕達は魔法塔の人と何度か話をした。

なぜあの子の肩を掴んだのか、危険だと思わなかったのかと聞かれた。

何を言えばいい?12歳にもなって魔法の国から妹が帰って来たことを信じ続けた馬鹿な子供の話をすれば気が済むの?

「……妹を守りたかった。それだけだ」

僕にあるのはこの気持ちだけ。

ただ、それだけだったんだ。