軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

野営準備

野営時に火を焚くのにはいくつか理由がある。

炊事、飲料水の確保、獣除けに、視界の確保、それに冬場は体を温めるためだ。

火を起こすのにもコツが必要で、火打ち石で細かな木屑などの火口に火花を移し、それから風を送って段々と大きな薪へ火を移していく必要がある。湿度が高いと、まず最初の火種を火口に移すこと自体が難しいため、油を吸わせた綿などを持ち歩くものもいる。また前日の燃え差しを保存して持ち歩くことで、この作業を少し楽にすることができる。

古来、火おこしにはさまざまな工夫がされてきた。それだけ野営での火の確保は重要視され、手間のかかるものだった。

しかし魔法使いがいれば話は別だ。

火口を用意する必要なく、最初から薪に火をつけることができる。水も出せるし、なんなら光源だって確保できる。旅に魔法使いがいるとそれだけで作業量が一気に減るのだ。重宝される理由もわかるというものである。

みんなが声の届くくらいの範囲でそれぞれ薪を集めたり、動物や魔物が潜んでいないか確認したりしている。ハルカも森の中に入り、いい薪がないか探していると、乾いた倒木を一本見つけることができた。ぱぱっとウィンドカッターの魔法を使い、いい大きさに整えた。細かくしてから、持っていくのに不便になってしまったことに気づく。一本の木のまま運んでいれば、わざわざ集めて運ぶ必要がなかったのに、失敗したと思った。

普通に考えれば、一抱えもあるような倒木をそのまま運べばよかったという発想なんて出てこないものだが、今のハルカにはそれが可能だった。それでも未だに、あまり考えずに動き出すと、昔の自分の力を基準にものを考えてしまう。長年連れ添った体の感覚がまだ抜けきっていなかった。

ハルカが薪を重ね積み上げて、元の場所まで戻ってくると、他の面々も帰ってきていた。端の方でモンタナとコリンがウサギを木に吊るしている。ハルカが戻ってきたことに気づくと、手を振って声をかけた。

「ハルカー、捌くから地面に穴掘ってー」

モンタナが木の下に棒でずりずりと円を書いている。この縁に沿って穴を掘ればいいらしい。

「深さは二メートルくらいでいいんですよね?」

「です」

モンタナがうなずいて、円の外に出る。

「掘削、抉れ、避け、積みあがれ、望む深さに、ディグ」

そこにないものを生み出すことだけが魔法ではない。すでにあるものに干渉するのも、また魔法だ。二メートルほどの深い穴が円に沿って出来上がり、その周りには広くこんもりと土が盛り上がる。

獣を捌くときは、内臓などの必要のない部分を焼いてしまうか、川に流すか、あるいは土に埋めてしまう必要がある。そうでないと血の匂いにつられた肉食の獣が集まってくる可能性があるからだ。捌いている時点でその可能性はあったが、なにかしらの対処をすることで、その場の血の香りを薄くすることはできる。夜になってから襲われたくないのであれば、できることはしておくべきだ。

「ありがとうー、お肉楽しみにしててね」

「よろしくお願いします」

薪をその場に置いて、焚き火跡へ戻ると、アルベルトが薪を積み上げて、火をつける準備をしていた。そろそろ本格的に日も暮れ始めたので、今のうちに火をつけておきたい。

アルベルトの横でギーツが剣を抜いて薪にその鋒を向けている。何をしているのだろうと思っていたが、その先から小さなファイアボールが現れて、薪へ飛んでいったのを見ると、どうやら魔法で火をつけようとしてくれているようだった。

生木が多かったのか、うまく火がつかずに薪の先が少し焦げただけになったのを見てハルカはそばに歩み寄って、自分の持ってきた薪を傍に積み上げた。

「もうちょっと大きな炎とかだせねえの?」

アルベルトが薪の横にヤンキーのように座りながら、ギーツを見上げる。

ギーツがぐぬぬ、と悔しそうに顔を歪めて言い返した。

「簡単に言ってくれるな、よかろう、見ていろ……」

じっくりゆっくりと詠唱を始めるギーツ。三度着火に失敗してアルベルトがジト目になり始めたところで、ハルカはその場から離れた。ギーツがチラチラとハルカの方を見ており、もしかして自分がいるせいで集中できないのではないか、と思ったからだ。邪魔をしないように、そろりと歩いてコリン達の方へ戻ることにした。

手早くやっていればそろそろ手を洗いたくなっている頃だ。そばに行って水を出してやる必要がある。

ちょうどそんなタイミングだったようで、二人してキョンシーみたいに穴の上に手を突き出して、ハルカが来るのを待っていた。

「ハルカー、水だしてぇ」

「はいはい、どうぞ」

ダバダバと上から水道のように水を落としてやると、二人は手の汚れをきれいに洗い流した。ウサギはすっかり原形を無くして食用肉の様相だ。中途半端に皮だけ剥けている状態が一番怖い。目がギョロッとしていて、ハルカはまだその状態の動物を見るのは苦手だった。