軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

口は災いの元

ゆっくり休んだ次の朝。

全員が準備を終えて宿の前に出てきたのであるが、どうも昨日と比べるとギーツのリュックサックが一回り小さくなっているように見える。

「……もしかして荷物減らしました?」

「いや、そんなわけなかろう。私は初志貫徹する男さ」

涼しい顔でそう言ったギーツに、ハルカはそれ以上突っ込みを入れるのをやめた。あと昨日治癒魔法をかけてあげた後はしばらく丁寧な言葉遣いだったのに、一晩寝たらすっかり元に戻ったようだった。丁寧な態度をとってもらうために魔法を使ったわけではなかったので、ハルカは気にしてはいなかった。

ただ現金な男だなぁとは思ったくらいだ。

宿を出てしばらくは穀倉地帯が続く。天然の堀のような役目を果たしている川の手前までそれはつづき、そこに架けられた唯一の橋の両側に騎士の詰所が設けられている。

ここから先の街道は今までより少し物騒になってくる。ヴィスタの都市圏から外れるからだ。ヴィスタをでておよそ三十キロメートルは歩いてきただろうから、十分に広大な都市圏だった。

ギーツは昨日のことで少しは学んだのか、マシンガンのように話し続けることはやめてポツポツと会話するにとどめていた。まるで会話がないとそれはそれで気疲れしてしまうだろうから、旅の間というのはそれくらいでちょうどいい。成績優秀だったと自称するだけあって、確かに学習能力は高いようだった。

「昨日の魔法のことを私なりに考えてみたのだが」

ハルカの横で前を見ながらギーツが口を開く。

「やはり大したものではあったと思う。しかしあれは、使ったことがないというのは事実ではなかろう? 謙遜もしすぎは良くない。全力を振り絞って魔法を使ってくれたことには感謝するがな。まぁ、なんだかんだと言って体を鍛えている私の肉体は、感じていた痛みや疲労ほど、ひどい状態ではなかったのだろう。慣れぬ旅に精神の方が参っていただけであったのだな」

時にこうした自分に都合のいいように現実を捻じ曲げて考える者がいる。喉元過ぎればなんとやらだ。ハルカは「そうですか」と同意するでも否定するでもない返答をして口をつぐんだ。あまり長いお付き合いをしたいタイプではない。

橋を渡り終えてさらに1時間ほど歩くと、森の中を進むようになる。人の歩く街道なので藪をかき分けて進む必要はないが、景色は少し薄暗くなる。枯れ葉が積もり、歩く度にカサカサと足元で音が立つ。たまに濡れてぐちゃぐちゃになった葉が積もっていると足が滑るので気をつける必要があった。

たまに足を滑らせるギーツをハルカが無言で支える。大きなリュックサックのせいでバランスが悪くなっているようだった。

何度かそれを繰り返すとギーツも慎重に歩くようになったが、そうするとまた進行速度が遅くなる。転んで怪我をするよりはマシだったが、今日こそ予定通りは進まなさそうだ。

どちらにせよ今日中に泊まれるような村に着く予定はなかったので、野宿は決定している。ギーツのカバンの中身は確認していないので、彼がどんな夜営道具を用意してきているのか不安だった。

「こんなことは女性に言うことではないのかもしれないが、君は力が強いのだな」

「えぇ、まぁ……」

曖昧な返事はそれが鍛えた結果手に入った力ではないからだ。見た目にはハルカはモデル体型で自分より背の高い男を支えられるような力があるようには見えない。

「しかし私はお淑やかな女性の方が好きだな。深窓の令嬢のような……。君は見た目が良く魔法も使えるのに冒険者などしていて実に勿体無い」

「はぁ、そうですか」

余計なお世話だった。

ハルカはほぼ聞き流していたから、こんな反応だったが、後ろを歩くコリンはイライラしていた。

冒険者を馬鹿にされるし、女性に対する価値観も気に食わない。貴族がみんなこんな調子なら、関わりたくないと思う。

モンタナとアルベルトは相変わらず少し後ろで、こんな魔物と戦闘になったら、みたいな話を続けている。物騒な話だが、雰囲気は前にいる者たちよりよっぽど良かった。

やがて昼も過ぎ、夕暮れが近づく。

ギーツは昨日と同じで時間が経つにつれて口数が減っていった。ハルカ達にとってはその方が快適である。昨日ほどしんどそうでないのは、歩き慣れたからか、あるいは昨日の皮剥けや筋肉疲労が治癒魔法で治されて、急速に体が丈夫になったからか。

ハルカは詳しく知らないが、治癒魔法は、体の自然治癒能力を魔素によって加速させる魔法だ。人の体は傷つくとより丈夫に作り変わるようにできている。

ギーツの肉体は昨日よりほんの少し旅に向いた体に作り変わっていた。

「今日はこの辺に泊まりましょう」

他の旅人が利用したのだろう、少し藪が開かれて、焚き火跡の残る場所があった。ハルカが声をかけるとギーツはほっとした様に背中を木に預けて座り込んだ。リュックサックを放り投げたのを見るとやはりまだ重いのだろう。

「昨日より早く休むのだな。私はまだ歩けるが?」

「それは助かります。では薪を集めていただけますか? 野営の準備をしなければいけないので」

強がって余計なことを言ったギーツに、ハルカはしれっと薪集めを頼んだ。ご飯が出てきて安全の確保されている宿とは事情が違うから、早めに進むのを切り上げたのだ。元気なら手伝ってもらいたかった。

今更否とは言えないギーツは、自身の発言を後悔しながらノロノロと立ち上がった。